第721話 神剣ヴォルダリルの威力

 神剣ヴォルダリルの威力を確認するために、俺たちは鳴神ダンジョンの二十層へ向かった。見たいというので、アリサと天音、それにタイチも一緒である。


 二十層へ到着すると、タイチが嬉しそうな顔をしている。

「何で喜んでいるんだ?」

「久しぶりに、グリム先生と一緒にダンジョンに潜ったので、嬉しくなったんです」


「それくらいで喜ぶなよ」

 俺は苦笑いして言った。タイチがゆっくりと首を振った。

「俺の目標は、グリム先生です。だから、一緒に行動できる時間は貴重なんですよ」

 それを聞いた俺は、意表を突かれた。俺なんかを目標だなんて、と本気で思った。だが、考えてみると、A級九位という実績は、誇れるものだ。


 しばらく弟子たちを放っておいたが、邪神対策だけではなく後進の育成に力を注ぐべきかもしれない。


「目標にしてくれるのは嬉しいけど、俺の真似だけではダメだ。タイチには自分の戦い方があるはずだ。それを見付ければ、もっと伸びると思うぞ」


 タイチがニコッと笑って頷いた。

「はい、探します」

 俺たちは二十層にある巨大なカルデラの内側で、外縁部に顔を向けて立っていた。

「少し下がってくれ」


 俺はアリサたちに言った。三人が下がると、俺は神剣ヴォルダリルを収納アームレットから取り出す。それだけで神剣から神威エナジーが漏れ出し、周囲に神秘的な空間を広げていく。


「ハッ!」

 気合を込めて神剣を振り下ろす。すると、その剣身から溢れ出した神威エナジーが刃を形成して前方へ飛び出した。但し、ほとんど制御しようと考えていなかったので、強大な神威エナジーがふわりと刃の形を形成しただけのものになった。


 大気を切り裂いて飛翔した神威エナジーの刃は、巨大なカルデラの外縁部に命中して爆散した。外縁部が幅二十メートルに渡って吹き飛んだ。


 砂塵を舞い上げ爆風がこちらに向かって迫って来る。

「俺の周りに集まれ」

 そう言ってから『マナバリア』を発動し、D粒子マナコアを腰に巻く。アリサたちが俺の周りに集まったのを確認してから魔力バリアを展開した。


 次の瞬間、爆風がバリアに襲い掛かり、砂塵や石がバリアに当たって撥ね返される。それを見たタイチが目を丸くしている。だが、俺は不満だった。


 神剣ヴォルダリルは、対邪神の切り札だ。邪神にダメージを与えるには、これくらいの威力では弱すぎると感じたのだ。


「まだ、工夫が足りないのだろな」

 その声が聞こえた天音が、パッと俺の方に目を向ける。

「これで威力不足だと言われるのですか?」

「邪神と戦うための切り札だと考えていたものだ。こんなものであるはずがない」


 神威エナジーは次元を超越して作用する意思を持つパワーだ。今の段階では次元を超越しているとは思えない。神威エナジーを有効に使えていないだろう。


「でも、これ以上の威力にしようとするには、どうすればいいんです?」

「この膨大なエネルギーを、俺の意志で従わせて空間自体を切り裂き、次元を超えた存在である邪神へ刃を届かせなければならない」


 タイチが顔を青褪めさせた。邪神という存在を少しだけだが、理解したのだろう。

「そんな事ができるのでしょうか?」

「そこまでやらなければ、邪神へダメージを与えられないと考えている」


 その後、何度か神剣ヴォルダリルを試してみたが、全然制御できなかった。使い熟すには時間が掛かりそうだ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 鳴神ダンジョンから地上に戻った天音とタイチは、グリムたちと別れて繁華街へ向かった。

「神剣ヴォルダリルは、凄かったね」

 天音がタイチに言った。タイチは頷いたが、別の事を考えているような表情をしている。


「天音さん、冒険者ギルドは邪神の事を、どう考えているのですかね?」

「ギルドは積極的に動こうとしていないようね。亜美から聞いたけど、慈光寺理事長は苦労しているみたい」


「どういう事です?」

「慈光寺理事長が何かしようと提案しても、理事たちが反対するようなの」

「どうして反対するんです?」

「お金と失敗した時の責任を考えて、消極的になっているそうよ」


 タイチが溜息を漏らす。

「どうしようもないですね。そんな連中は、理事をやめたらいい」

「同感だけど、そういう人たちほど理事という地位に固執するのよね」


 二人は繁華街に到着した。

「天音さんは、これからどうするんです?」

「あたしは、人気の店が新しいケーキを出し始めたと聞いたので、確かめに来ただけよ。一緒に行く?」


 タイチは苦笑いする。

「僕は甘いものが苦手なんで遠慮します」

「ええーっ、美味しいのに。タイチは人生の三分の一を損しているわよ」

「大袈裟です」


 そんな話をしている時、通りの向こうから悲鳴が聞こえた。二人がそちらに目を向けると、顔を醜く歪めた男が、ナイフを見境容赦なく振り回している。


「何なの? 通り魔?」

 天音が驚いて声を上げ、タイチへ目を向けると厳しい顔になっていた。

「僕が制圧します」

 タイチが駆け出した。その後ろに付いて天音も駆け出す。


 通り魔に近付いたタイチが『サンダーボウル』で攻撃した。だが、通り魔が子供を狙って左へ移動したので、攻撃が外れた。


 放電ボウルが店の看板に当たって、バチッと音を立てる。それに驚いた通り魔が、タイチたちへ目を向ける。

「邪魔をするな」

 そう叫ぶ通り魔が、ナイフを振りかざして天音に襲い掛かった。天音が『キャプチャー』を発動し、D粒子で形成されたボールを通り魔に向けて撃ち出す。


 当たった瞬間、D粒子のボールが破裂して数十本の紐に変化すると、通り魔を包み込んだ。通り魔は紐から抜け出そうと暴れたが、地面に倒れる。それを見たタイチが道に落ちていたナイフを拾い上げた。


 倒れた通り魔に目を向けたタイチが、感心したように頷く。

「こういう場合は、『キャプチャー』が便利なんですね」

「ええ、警察では使い始めたそうよ。それに模擬戦でも利用されているみたい」


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