第708話 出雲ダンジョンのレヴィアタン

 怒り狂っている母神スパイダーがこちらに向かって走り寄り、多数の足で俺を踏み潰そうと暴れる。俺は攻撃して来る足をぎりぎりで躱しながら反撃する機会を窺う。


 俺より先にエルモアが反撃に出た。オムニスブレードを握り締めたエルモアが、五メートルほど跳躍してエナジーブレードを横に薙ぎ払う。その切っ先が母神スパイダーの足を一本斬り飛ばした。


 傷口から体液を噴き出しながら巨大な口の横にある触肢しょくしでエルモアを捕らえようとした。エルモアはあり余るパワーで後ろに跳ぶ。母神スパイダーが追撃しようとするところに、俺が発動した『ホーリークレセントⅡ』の攻撃が命中する。


 聖光分解キーンエッジが母神スパイダーの背中を切り裂いて後方へと消える。大きなダメージを与える事はできなかったが、母神スパイダーがエルモアを追撃する事を阻止できた。


 母神スパイダーが変な動きを始めた。身体の向きを変えて尻をこちらに向けたのだ。俺は嫌な予感がしてエルモアを呼んでから、『マナバリア』を発動してD粒子マナコアを腰に巻く。


 エルモアが傍に来ると、前方に魔力バリアを展開する。次の瞬間、母神スパイダーの尻から数百本のワイヤーのような糸が噴き出した。途中の岩や木に突き刺さる糸もあったが、ほとんどは俺たちに向かって飛んで来る。


「うわっ!」

 思わず声が出た。母神スパイダーの糸が数十本単位で魔力バリアに当たって止まる。そのたびに腰に巻いたD粒子マナコアが小さくなる。まずいと思いながら耐えているとメティスの声が聞こえる。


『このままでは魔力バリアが破られます。エルモアに『マナバリア』を発動させましょう』

「そうしてくれ」

 エルモアが『マナバリア』を発動し、俺が展開した魔力バリアの内側に別の魔力バリアを展開する。俺のD粒子マナコアが小さくなって消えた瞬間、魔力バリアが解除された。


 そして、母神スパイダーが飛ばす糸がエルモアが展開した魔力バリアに当たり始める。エルモアのD粒子マナコアが尽きる前に母神スパイダーの糸攻撃が終わった。俺たちの前方には、母神スパイダーが飛ばした糸が山となっている。


 母神スパイダーが身体の向きを変え始める。チャンスだと判断した俺は、『スキップキャノン』を発動し、母神スパイダーの頭にロックオンしてから、スキップ砲弾を放つ。


 スキップ砲弾は動いている母神スパイダーの頭を追尾しながら飛んで、三十メートル手前で亜空間に消えた。次の瞬間、亜空間から出たスキップ砲弾が母神スパイダーの脳に飛び込んで爆発する。


 母神スパイダーが巨体をふらふらさせていたが、轟音を響かせて地面に倒れた。

『お見事です』

「やはり狙い通りの急所に決まると、大型の魔物でも一撃で仕留められるようだ」


 死んだ母神スパイダーが光の粒となって消えた後に、珍しい事が起きた。母神スパイダーが飛ばした大量の糸が消えずに残ったのだ。


『あの糸がドロップ品になったようですね』

「ワイバーンの皮みたいなものか。でも、量が半端じゃないな」

 マルチ鑑定ゴーグルで調べてみると、『母神スパイダーの糸』とそのままの名前で軽く丈夫な糸のようだ。しかも魔法耐性があるらしい。


 この糸で手袋を作ったら、黒竜フェルニゲシュの衝撃波のようなものも防げるのではないか? 邪神チィトカアを倒した時に手に入れた魔法無効の布は、多機能防護服を作るのに使ってしまったので、ちょうど良さそうだ。試してみよう。


『他にドロップ品がないか、探しましょう』

 母神スパイダーの糸を回収してから、他のドロップ品を探し始める。そして、白魔石<大>と戦鎚を発見した。その戦鎚を鑑定すると、『地母神の戦鎚』と表示された。


 戦鎚の先端には六角柱の形をした金属が固定されており、その金属には重さを変化させる機能が付いているらしい。天音が使っている金剛棒も五キロまでなら重さを変化させる事ができたが、この『地母神の戦鎚』は桁違いで六トンまで重さを変化させられるようだ。


 重さを変化させるには魔力が必要らしいが、一瞬だけなら魔力の量も大した事はないようだ。

「こいつは神話級で、格はメジャーらしい」

 戦鎚を使う者というと天音の名前が頭に浮かんだ。だが、天音は魔導職人としての道を歩み始めている。これほどの武器を必要とするだろうか? 俺は為五郎に渡す事にした。


 階段で少し休憩してから、九層へ下りた。予想通り海だった。

『この海にレヴィアタンが居るのですね?』

「そうらしい。ところで、何でヴェルサイユダンジョンから、ここに移動したんだろう?」

『フランスの冒険者が、戦いを挑んだのでしょうか?』

「そんな話は聞いていないけど、可能性はあるな」


 エルモアを影に戻すと『アクアスーツ』を発動し、海に飛び込んだ。この海には島が一つだけあり、まず島を目指して進む。途中、クラーケンと遭遇した。


 そのクラーケンは全長十二メートルほどで、長い八本の足で襲い掛かってきた。俺は『ニーズヘッグソード』を発動し、拡張振動ブレードをクラーケンに向かって振り抜きクラーケンを真っ二つにする。


 魔石は回収できなかった。回収する前に『マジックストーン』の範囲外へ行ってしまったのだ。仕方ないので、そのまま島へと向かう。


 その島に到着する直前に、巨大な魔物と遭遇した。胴体が亀で首から先が大蛇という魔物である。確かオーストラリアの伝説に出て来る魔物で『モハモハ』という名前だったはずだ。


 モハモハは全長十五メートルの巨体を持つ魔物で、九層の海を必死に泳いでいた。もしかすると、こいつが主なのかもしれない。


 モハモハは襲って来るような気配がないので問題ない。ただモハモハが必死で泳いでいるという点が問題だ。次の瞬間、モハモハの背後に巨大な姿が見えた。その姿はザトウクジラに似ているが、全身が金属のような光沢を持つ大きな鱗で覆われている。


 レヴィアタンはモハモハを追い掛け、その亀のような胴体に噛み付きバリバリと噛み砕いた。その一噛みでモハモハは死んだらしい。だが、その姿は光の粒となって消えず、残りの死体はレヴィアタンが噛み砕いて呑み込んだ。


 俺は遠くから見ていたが、それでも恐怖で体毛が逆立つ。レヴィアタンの全身から溢れ出る覇気も、恐怖を湧き起こらせる原因となっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る