第691話 海中での苦戦

 魔力による追尾機能を構築しようと決めた時、D粒子、魔力、音響、電波について比較した。D粒子の探索距離が一番短く、二百メートルほどである。巨獣レヴィアタンの体長が六十メートルほどなので、D粒子の追尾機能を組み込むと、体長の三倍ほどの距離で発動する事になる。


 それでは遠距離攻撃用の魔法とは言えない。音響に関しては奇襲に向かないと考えて除外した。海の魔物は動いていない時、ほとんど音を出さないのでパッシブ用の音響探知は難しい。だからと言って、アクティブ用の音響探知では奇襲にならない。


 これらの事を考慮して、魔力による探知方式で追尾機能を構築する事に決めたのだ。追尾機能の構築作業は夜に少しずつ行う事にして、昼間は鳴神ダンジョンの二十四層で『賢望の鍵』の探索を行う。


 但し、海中での活動は疲れるので、連続して行うのではなく一日だけ間を置いてダンジョンに潜った。そして、七回目の海中探索で宝箱を発見する。


 但し、その周りには三匹の巨大ウツボが遊泳していた。俺とネレウスは接近し、同時に七重起動の『コールドショット』を発動し、D粒子冷却パイルを巨大ウツボに撃ち込んだ。


 D粒子冷却パイルが巨大ウツボに突き刺さり追加効果を発揮。巨大ウツボの肉体の一部が凍りつき苦しみ始める。残った一匹が俺に襲い掛かってきた。真正面から突っ込んできた巨大ウツボの頭に、オムニスブレードのエナジーブレードを叩き込み、巨大ウツボを真っ二つにする。


 ネレウスは苦しんでいる巨大ウツボに近付き、エクスカリバーでトドメを刺す。最後の一匹は、俺がエナジーブレードで首を切断した。


 海底に沈んでいく魔石を追い掛けて回収し、俺は宝箱へ近付いた。罠はないようなので、ネレウスに開けさせる。予想通り緑水晶の『賢望の鍵』だ。これで二つ、もう一つ揃えれば新しい能力が手に入る。


 俺は『賢望の鍵』の探索を続けた。十二回目の海中探索で宝箱を発見したが、邪魔する魔物は居なかった。少し違和感を覚えながら、その宝箱を開けると六個の指輪が入っていた。


 その指輪を持って海底トンネルへ向かい二十五層に戻ると、マルチ鑑定ゴーグルで指輪を調べる。その六個の指輪は全て『金剛力士の指輪』だった。筋力を三倍に強化すると同時に防御力を三倍に上げられる効果があるようだ。


「同じ指輪が六個も出るなんて、珍しいな」

『アリサさんたちが、同じ『効率倍増の指輪』四個を手に入れた事がありました』

 そう言えば、そんな事もあった。これはバタリオンの所有として、メンバーに貸し出す事にした。


 それからも探索を続け、その日の夕方くらいに別の宝箱を発見した。その背後にはアクアドラゴンが寝ていたので、戦術を考えた。アクアドラゴンを海中戦で倒すのは難しい。そこで海面から空中に飛び出たところを仕留めようと考えた。


 慎重にアクアドラゴンに近付き、『トーピードウ』を発動してD粒子魚雷を撃ち込む。アクアドラゴンはすぐにD粒子魚雷を気付いて回避した。そして、敵である俺に向かって来る。


 アクアドラゴンが俺に向かって口を開けたので、ブレスを吐くのだと予想できた。アクアドラゴンは水刃ブレスを吐くが、それは海中だとどうなるのだろう?


 アクアドラゴンの口から魔力を含んだ水で形成された巨大な水刃が飛び出した。目では見えないが、魔力を感じて必死で避ける。何とか避ける事ができた。海中戦はやはりアクアドラゴンの方が有利だと感じる。


 まだ経験が浅い海中戦は、どうしても予想できない時がある。それが俺の行動を慎重にさせていた。逃げながらチャンスを待っていると、またアクアドラゴンが口を大きく開けた。再び水刃ブレスかと警戒。


 次の瞬間、海中に渦が発生した。それがするするとこちらに伸びてきて、俺とネレウスを捕らえる。渦に巻き込まれた俺たちは、振り回されてポイと渦の外に捨てられた。


 俺は気分が悪くなって急いで浮上した。アクアドラゴンが追ってきて海上に頭を出す。チャンスだと思った俺は、無理をして『クロスリッパー』を発動し、アクアドラゴンをロックオンしてクロスリッパー弾を放つ。


 クロスリッパー弾に気付いたアクアドラゴンは、回避しようと海上に出している頭を海面下に沈める。それを追ってクロスリッパー弾が海面に着弾し、その前面の海中をクロス状に空間ごと切り裂いた。その攻撃がアクアドラゴンを掠める。


 激痛を感じたアクアドラゴンが海底へ逃げていく。海中で渦に巻き込まれたダメージが身体に残っているのを感じた俺は、追撃しなかった。


『追撃しないのですか?』

「ちょっと待って、頭がぐらぐらする」

 目一杯の精神力を発揮して『クロスリッパー』を発動したが、その反動で気分がさらに悪くなっていた。ネレウスが戻ってきて、俺の傍に浮かび上がる。


『ここは一旦戦いを中止して、戦術を練り直す必要があると思います』

 メティスが戦闘中止を提案した。俺もあの渦をもう一度食らうとヤバそうだと感じ、戦闘中止を決める。海面にホバービークルを出して浮かべた。


 ホバービークルは水に浮くように設計されているので、沈む事はない。ネレウスがホバービークルに上がり、俺を引き上げる。


 『アクアスーツ』を解除し、影からエルモアを出して操縦させ、アクアドラゴンから遠ざかる。それから二十五層に戻って転送ゲートを使い一層へ移動し、地上に戻った。


 屋敷に戻った俺は、メティスと話し合った。

「やはり遠距離攻撃用の魔法が必要だな」

『そうですね。魔力を使った追尾機能はどうなりました?』

「九割方わりがたは完成している。もう少しなんだ」


 メティスは魔法を完成させてから再戦する事を勧めた。俺もそう思ったので、その日から魔法開発に集中する。その結果、『クロスリッパー』を改造した『アクアリッパー』と、『スキップキャノン』を改造した『スキップハープーン』が完成した。


 改造点は追尾機能を電波から魔力を使用する方式に変えた事と最高速度が時速九十キロに落ちた事だ。速度は水中での速度なので仕方ない。


 この二つの魔法は何度かテストし、きちんと動作する事を確認済みである。俺はアクアドラゴンとの戦いに決着をつけるために、鳴神ダンジョンへ向かった。


 転送ゲートで二十五層へ移動し、そこから二十四層へ向かう。『アクアスーツ』を発動し、二十四層の海に入る。海底トンネルからアクアドラゴンが居るポイントまで移動した。


 ダメージを負ったはずのアクアドラゴンが、無傷の姿で待ち構えていた。俺はぎりぎりアクアドラゴンの姿が視認できるというところから『スキップハープーン』を発動した。


 『ハープーン』というのは、元々『もり』を意味する。特に捕鯨用の銛を指す言葉らしい。『スキップハープーン』は海で使う魔法なので、『ハープーン』という言葉を使った。


 スキップハープーン弾が、アクアドラゴンの百メートル手前で消える。そして、アクアドラゴンの体内に飛び込んだスキップハープーン弾は、その内臓や筋肉を破壊しながら爆発。


 それによりアクアドラゴンは重大なダメージを受けた。血を吐き出して苦しむアクアドラゴンに接近した俺は、『アクアリッパー』を発動し、アクアリッパー弾でトドメを刺す。


 アクアドラゴンは魔石と一冊の本をドロップして消える。俺は慌てて本を回収し、マジックポーチⅧに収納する。そして、魔石も回収してからホッとした。


 『アホか、海の中で本なんかドロップするんじゃねえよ』とアクアドラゴンを非難しながら、宝箱に向かう。宝箱を開けると、赤水晶の『賢望の鍵』が出てきた。これで三つの『賢望の鍵』が揃った事になる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る