第675話 ギャラルホルンとヨルムンガンド

 ジョンソンがシルバースライムを見て嫌な顔をする。

「どうして嫌そうな顔をしているんです?」

「こいつを仕留めようと、半日ほど追い掛け回して逃げられた事がある」


 ジョンソンが駆け出しの頃の話のようだ。今なら確実にシルバースライムを倒せる技量を持っている。だが、それには魔力消費の多い魔法が必要だという。


「それじゃあ、このシルバースライムは、俺が仕留めてもいいですか?」

「ああ、構わないけど、シルバースライムを仕留める魔法でもあるのか?」

 シルバースライムは仕留めるのが難しい魔物である。スライムは身体の中にある核を壊せば仕留められるが、シルバースライムは核の位置が分からないので仕留め難いのだ。


 俺は試しに七重起動の『サンダーボウル』を発動し、放電ボウルをシルバースライムに放った。放電ボウルがシルバースライムに命中した瞬間、強力な雷撃がシルバースライムに流れ込む。


 シルバースライムはピクンと反応したが、その直後に逃げ出す。シルバースライムは普通の人間より三倍ほど素早い動きができるようだ。だが、『身体操作の奥義』と『疾風の舞い』の技だけで対処できると判断した。


 俺は追い掛けながら『ジェットブリット』を発動し、D粒子ジェット弾を放った。シルバースライムはD粒子ジェット弾の存在に気付いたらしく、全身をバネに変化させて横に跳んだ。


 攻撃を躱したシルバースライムが、俺に向かって銀色の液体を吐き出す。俺は五重起動の『オーガプッシュ』を発動し、オーガプレートで銀色の液体を弾いた。


 銀色の液体が地面に落ちると、ジュッという音を発して白い煙を上げる。強烈な酸のようだ。俺はD粒子センサーを働かせて核を探す。


 シルバースライムの内部に核を見付けた。逃げようとするシルバースライムに、その核を狙って『クラッシュソード』の空間振動ブレードを叩き付ける。


 核が破壊された瞬間、身体の内部でドクンという音がして魔法レベルが『29』に上がった。

「よし、仕留めたぞ」


 シルバースライムが光の粒となって消え、黒魔石<小>とダイヤモンドのような結晶がドロップした。マルチ鑑定ゴーグルで調べると『神威石』と表示される。


「それは何だ?」

「特殊な宝石だそうです。それより宝箱を開けましょう」

 慎重に宝箱を調べてから、蓋を開ける。中にはオリハルコンのインゴットが入っていた。全部で二十キロほどもあるだろう。俺たちはオリハルコンを半分ずつに分け回収した。


 それから迷路を探索して出口を探す。だが、この迷路は簡単に攻略できるようなものではなかった。一日目はオークジェネラルを倒した場所で野営し、二日目は朱鋼ゴーレムを倒した場所で野営した。


 そして、出口に辿り着くまで五日が必要だった。『ここの迷路は広すぎなんだよ』と俺は愚痴を漏らしながら、五層へ向かう。


「うわっ、五層も広いな」

 ジョンソンが頷いた。

「この山岳地帯は、幅が五十キロほどあるらしい」

 いくつかの山が連なり、その山頂には白い雪が積もっている。


「ダンジョンとは思えない景色ですね」

「この何処かにピゴロッティが居るんだ。それを探すのは大変そうだ」


「ジョンソンさん、ホバーバイクは持ってきたんでしょ。空から探す事にしませんか?」

 俺が提案すると、ジョンソンも賛同した。エルモアたちを影に戻し、俺とジョンソンはホバーバイクを出した。


 実験機には<重力遮断>と<反発(地)>の特性だけを付与した白輝鋼を使っていたが、完成版では<重力遮断><反発(地)><ベクトル制御><衝撃吸収>の特性を付与した白輝鋼が使われている。


 <ベクトル制御>と<衝撃吸収>を追加したのは、完成版のホバーバイクは戦闘にも使われる事を想定しているからだ。空を飛ぶ魔物に体当たりを食らっても壊れないようにしたかったのである。


 最高速度も巨獣ジズに追い掛けられても逃げられるほどの速度にした。地面の上に置いたホバーバイクに乗ると、スイッチを入れる。その瞬間、<反発(地)>の効果が発生してホバーバイクが浮き上がる。


 その状態でエアジェットエンジンを起動すると、ホバーバイクが進み始めてスピードが上がり高く舞い上がる。俺と並んで飛び始めたジョンソンが左の方向を指差した。


「向こうから時計回りに進もう」

 俺は賛同して進路を変えた。上から地上をチェックしながら山岳地帯の探索を行う。地上にはアーマーベアやソルジャーマンティス、スパイクボアなどが棲み着いているようだ。


 二時間ほど空中から探したが、ピゴロッティもヨルムンガンドも見付からない。その時、右の方から爆発音が聞こえ、大きな火柱が見えた。


 ジョンソンが火柱を指差した。俺はホバーバイクの進路を火柱が立ち上った方角に向ける。火柱の近くで戦闘が始まっていた。戦っているのは、ピゴロッティたちとヨルムンガンド、それに先行した冒険者三人が戦っていた。


「うわっ、どもえで戦っているよ」

 ジョンソンがホバーバイクを傍に寄せて提案した。

「着陸してから近付こう」

「了解」

 俺は少し離れた場所に着陸してから、ホバーバイクを仕舞ってジョンソンと一緒に戦いの場へ向かった。


 その時、ピゴロッティたちをののしる声が聞こえてきた。

「お前たちは正気じゃねえ!」

「どうなるか分かっているのか!」

 何かあったらしい。俺たちは急いで向かう。そして、攻撃魔法使いのハインドマンとマクブライド、魔装魔法使いのドラモンドの姿を見付けて駆け寄った。


「何があったんです?」

 俺の顔を見たハインドマンが、説明してくれた。

「ピゴロッティが、ギャラルホルンをヨルムンガンドに食わせやがったんだ」


「まずいな。早くヨルムンガンドを倒さないと」

 ジョンソンは、ギャラルホルンが破壊される前にヨルムンガンドを倒すべきだと言う。

「そうだな。私たちがヨルムンガンドを倒すから、ジョンソンたちはピゴロッティを倒してくれ」


 俺たちは頷いて薄笑いを浮かべて居るピゴロッティへ向かう。戦う前に『鋼心の技』で二重の障壁を構築する。ジョンソンも同じように二重の障壁を構築したようだ。


 俺は多機能防護服のスイッチを入れ、『マナバリア』を発動してD粒子マナコアを腰に巻く。武器は神剣グラムを選んだ。遠距離の戦闘になるなら、オムニスブレードより使えると考えたのだ。


 近寄ってくる俺たちを睨んだピゴロッティが、いきなり『サリエルクレセント』を発動し、分子分解の力を持つサリエルブレードを放つ。


 ジョンソンはサリエルブレードを避けると同時に、愛剣ジョワユーズを構えてチェルヴォに襲い掛かった。


 俺は魔力バリアを展開してサリエルブレードを受け止めた。そして、お返しとばかりに連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールをピゴロッティに向けてばら撒く。


 ピゴロッティは『ショットガン』を発動し、多数の魔力弾でD粒子振動ボールを迎撃した。この時点で、ピゴロッティを捕縛する事は諦め、殺す事に決めた。ピゴロッティはそれだけ戦い慣れした強敵だと感じたのだ。


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