第673話 絶岩の強度

 俺と三橋師範は五層と六層を通過して、七層へ下りた。目的の絶岩は七層にあるのだが、その近くにはヴリトラが居るという。


 ヴリトラは朱鋼より硬い鱗を持つ大蛇である。七層の荒野を進むと、高さ七メートルほどの黒い岩が見えてきた。それが絶岩らしい。


 その絶岩に近付くと、それを囲むように巨大な大蛇がとぐろを巻いているのが見えた。

「蛇か、何か嫌だな」

 三橋師範が俺に視線を向けた。

「蛇が苦手なのか?」

「苦手じゃないですけど、あまり好きじゃないですね」


「ならば、儂が相手をしようか?」

「そんな必要はありません」

 俺は慎重にヴリトラに近付いた。ヴリトラは鎌首を持ち上げ、上から俺に噛み付こうとする。横に跳んで躱すと、『クラッシュソード』を発動し、空間振動ブレードをヴリトラの首目掛けて薙ぎ払う。


 空間振動ブレードは、電柱より一回り太い首をスパッと切断した。

「見事だ」

 見守っていた三橋師範が声を上げる。魔石を回収してから、絶岩に近付いた。岩だと聞いていたが、黒い金属のような光沢がある。


「これって何で出来ているんだ?」

 俺が独り言のように呟くと、それが聞こえた三橋師範は首を傾げた。

「分からんな。何を使って切断するつもりだ?」

「まず神剣グラムを使ってみようか、と考えていたんですが、絶岩が大きすぎますね。『ニーズヘッグソード』を使います」


「なるほど、いいかもしれん」

 三橋師範も賛同したので、俺は絶岩に近付くと『ニーズヘッグソード』を発動し、拡張振動ブレードを絶岩に向かって振り下ろす。


 予想外の事が起きた。絶岩が拡張振動ブレードを弾き返したのだ。

「そんな……」

 邪神眷属以外でクラッシュ系が通用しなかったのは、初めてである。三橋師範も驚いているようだ。

「クラッシュ系も通用しないとなると、どうする?」


「……クラッシュ系以上の威力となると『クロスリッパー』か、このオムニスブレードになります」

 俺はオムニスブレードを取り出し、三橋師範に見せた。


「ほう、両方とも初めて聞いた」

「『クロスリッパー』は魔法レベルが『26』で習得できる魔法ですから、まだ魔法庁にも登録していないんです」


 習得できるほどの魔法レベルに達している者が居ないのだから、魔法庁に登録するだけ無駄なのだ。


 三橋師範は習得できる魔法レベルが高い『クロスリッパー』に興味を失ったようだ。今度はオムニスブレードを観察する。


「それでどちらを使うんだ?」

「オムニスブレードを使います」

「一つ分からない事がある。その棒みたいなもので、本当に絶岩を切れるのか?」

「これは刀の柄の部分なんです。これに魔力や励起魔力などを注ぎ込むと刃を形成します」


「ほう、面白いな。だが、魔力や励起魔力の刃で、この絶岩が切れるのか?」

「なので、特別な力を使います」

 三橋師範には『神威』の事は言っていないので、特別な力とだけ伝えた。


 俺はオムニスブレードを構え、八メートルの神威エナジーの刃を形成した。神威エナジーの力を感じ取った三橋師範が大きく目を見開く。


 次の瞬間、俺はオムニスブレードを絶岩目掛けて振り下ろす。空間振動波の刃を弾いたほど頑強な絶岩に、神威エナジーの刃が食い込み真っ二つにした。


 絶岩の切断面から、金色に光る粒が飛び出して俺に降り注ぐ。俺が欲しかった知識、神剣ヴォルダリルを修理する方法を手に入れた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 俺が立岩ダンジョンに潜っている頃、アメリカのネバダ州にあるエリア51という空軍基地で異変が起きた。ここでは最新戦闘機の実験も行われているので、厳重な警備が敷かれており、民間人が近付くだけで逮捕されると言われている。


 そんな空軍基地に一台の車が到着し、二人の警備兵が車を止めた。

「許可証の提示を」

 普通なら許可証を見せるのだが、その車の運転手は窓から顔を出し警備兵たちに言った。

許可証は見せた・・・・・・・お前らは確認し・・・・・・・ゲートを開ける・・・・・・・


 『神言』の力を秘めた言葉を聞いた警備兵たちが、ピクンと痙攣した。そして、黙ったままゲートを開ける。車は中に入り基地ビルに向かう。ビルの近くで車が停まると、ピゴロッティとチェルヴォが降りてビルの入り口に近付いた。


 ビルの入り口にも警備兵が居り、ピゴロッティたちの姿を見ると誰何すいかした。

お前の上官だ・・・・・・ドアを開けろ・・・・・・

 警備兵たちの一人が精神攻撃に対する抵抗手段を持っていたが、抵抗して苦しんでいる間に、チェルヴォが銃で胸を撃ち抜いた。ほとんど音がしないサイレンサー付きの銃だ。洗脳した警備兵に死体を隠すようにピゴロッティが命じる。


 ドアが開くと、ピゴロッティは薄笑いを浮かべて堂々と中に入った。建物の中には少数の監視カメラがあるので慎重に進んだ。ピゴロッティたちはギャラルホルンが保管されている金庫室ではなく、この基地の司令官であるファーガソン将軍の部屋に向かって進む。


 途中で会った軍人たちはピゴロッティたちが堂々としているので不審に思わなかったようだ。予め調べておいた部屋を見付けると、ノックもせずにいきなり入った。その直後、『神言』の力を込めて『動くな・・・』と命じる。


 『鋼心の技』を習得していた秘書官が、『神言』の力に気付いて銃を向けようとする。ピゴロッティが『バレット』で頭を撃ち抜いた。秘書官は『鋼心の技』を習得しただけで、精神攻撃に気付いた後の対処を訓練していなかったらしい。


 奥にあるドアを開け、ファーガソン将軍を同じように支配下に置く。ピゴロッティは『神言』の力を込めた言葉だけで、この空軍基地を支配したのだ。


 その上でピゴロッティたちは金庫室へ行った。金庫室の前は『鋼心の技』を習得した五人の警備兵が守っていたが、先にファーガソン将軍を人質に取られた事で攻撃する事ができず、ピゴロッティに制圧された。


 エリア51と連絡が取れなくなったアメリカ国防総省は、確認のために兵を派遣した。そして、動かない軍人たちと扉が開いたままの金庫室を発見し報告する。


 アメリカ軍はディオメルバの仕業だと判断し、ピゴロッティたちの捜索を開始。そして、ネバダ州のトノパーダンジョンに潜った事が判明した。


 トノパーダンジョンは特級ダンジョンであり、アメリカの冒険者ギルドが管理していた。だが、ピゴロッティは簡単に侵入してしまったようだ。


 アメリカ政府はすぐにトノパーダンジョンに潜れる三人の冒険者を集め、トノパーダンジョンに向かわせると同時に、世界各地の有名冒険者に依頼する。その中にはグリムの名前もあった。


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