第622話 対ジズ用魔法
見付からないようにゆっくりと後退する。戦わずに逃げられそうだと思った時、ジズの巨大な目が俺に向けられた。俺は『ハイパーバリア』を発動し、励魔球を作る。
突然ジズが口を開けて破砕渦ブレスを吐き出す。凄まじい励起魔力の渦が俺に迫ってきた。励起魔力バリアを展開した瞬間、そのバリアに破砕渦ブレスが当たる。
同じ励起魔力をエネルギー源として発動した攻撃と防御である。そのパワーは互角だった。違うのはパワーが及ぶ範囲だけのようだ。励起魔力バリアは
破砕渦ブレスを防ぎきった俺は『デスクレセント』を発動し、D粒子ブーメランを飛ばした。ジズは攻撃を回避するために軌道を変える。
俺は階段へ向かって飛んだ。すると、D粒子ブーメランを回避したジズが追ってきて衝撃波を飛ばす。その衝撃波を急上昇して躱すと、飛びながら連続で『クラッシュボール』を発動し、D粒子振動ボールを後方に向かってばら撒く。
ジズはD粒子振動ボールを躱すために急降下した。そのせいでD粒子振動ボールのほとんどは外れたが、一発だけジズの背中に命中する。
空間振動波が放射され、ジズの肉体に突き刺さったようだ。しかし、励起魔力で満たされたジズの肉体は、空間振動波の侵入を
俺は顔をしかめてから、階段へ飛び込んだ。同じような事が前にもあったな、と思いながらオニールの顔が頭に浮かぶ。
「それほど親しい仲ではなかったけど、死んだと聞くと心が痛む」
殺した相手が近くに居るから、というのも原因の一つだろう。
『グリム先生、最後の攻撃はもっと強力な魔法を使えば、良かったのではないですか?』
「ジズは大きなダメージを与えると、他のダンジョンに転移してしまうようだから、階段に飛び込む時間を稼ぐだけの魔法にしたんだ」
『なるほど、ジズを出雲ダンジョンで仕留めるつもりなんですね?』
「そうだ。追尾機能を組み込んだ新しい魔法を完成させたら、ジズを倒すつもりでいる」
『ジズの件を冒険者ギルドに報告するのですか?』
「報告はする。場所が海エリアだと教えれば、アメリカも簡単には手を出さないだろう」
今のアメリカの戦力は魔装魔法使いのジョンソンだけだ。海だと魔装魔法使いは戦えないので、戦力を集めるのも苦労するはずだ。
『魔装魔法にも、飛べる魔法があったと思いますが?』
「ああ、『エアリアルマヌーバー』だろ。あれは短い時間なら空中機動できるという魔装魔法だ。ジズ戦では使えない」
アメリカが戦力を集めて訓練し、戦えるようになるには数ヶ月の時間が必要だ。その前にジズ戦の準備が終わり、俺とジズが戦う事になるだろう。
俺は地上に戻り、近くの冒険者ギルドで魔石や金を換金した。その日はホテルに一泊して疲れを癒やし、次の日に渋紙市へ戻った。
その日のうちに近藤支部長に会って報告した。
「ジズは、出雲ダンジョンの三層に居ました」
支部長が驚いた顔をする。
「ベヒモスが出雲ダンジョンに居るという噂があるのに、ジズまで出雲ダンジョンに来るとは……」
出雲ダンジョンにベヒモスが居るという噂だったが、それは間違いだった。アリサが持っている魔物探査球で調べ、地中海に面した国の特級ダンジョンに居ると分かっていたのだ。
その事は支部長には言わない。どうやって調べたのだという話になるからだ。魔物探査球はバタリオンの秘密という事になっているので、どうやって調べたのか証明できない。
報告を終えた俺は、グリーン館に戻った。
「お帰りなさい」
アリサが出迎えてくれた。アリサの横にはチサトが居る。
「グリム先生、お帰りなさい」
「ただいま。チサトちゃんは新しい魔法の勉強?」
「はい、掃除魔法の『Dクリーン』を習っています」
チサトは楽しそうだった。
影からシャドウパペットたちを出すと、作業部屋に行って新しい魔法について考え始めた。そこにアリサが入ってきた。
「チサトちゃんは?」
「金剛寺さんを手伝って、お掃除よ。ところで、何を考えていたの?」
「ああ、巨獣ジズを倒せる魔法を考えていたんだ」
「ジズというのは、そんなに強いの?」
「あれは本物の化け物だよ。励起魔力を帯びた羽根で全身を防御しているのが、厄介なんだ」
「クラッシュ系は有効?」
「当たれば有効だけど、機敏に飛び回るんで当たらないんだ」
「それで新しい追尾機能を構築していたのね。でも、また習得できる魔法レベルが高くなりそうね」
アリサが残念そうに言った。
「巨獣用の魔法だからな。仕方ないよ。問題はどんな特性を使って、ジズを攻撃するかなんだ」
「<空間振動>か、<分子分解>の特性でいいんじゃないの?」
「対巨獣用と考えると、攻撃力が弱い気がする」
「でも、クラッシュ系は有効なんでしょ?」
「励起魔力の防御効果だと思うけど、空間振動波がジズの体内に深く入らなかったんだ」
「空間振動波をある程度防ぐとなると、爆発や熱でも倒すのは難しいんじゃない?」
「そうなんだ。そこで空間を切り離す事ができる<編空>の特性を使おうかと考えている」
「『クローズシールド』のようにドーム型に空間を切り取るついでに、ジズの肉体も切り取るという事?」
「まあそうだ。だけど、ドーム状にするのは無理かな。励起魔力の防御効果を考えると、狭い範囲に力を集中した方がいいと思っている」
メティスとアリサを含めて検討し、X型の切り込みが入るように空間を切り取る事にした。
「次元断裂刃に似ている気がする」
アリサがポツリと言う。それを聞いて、どうなんだろうと疑問に思った。
新しい追尾機能が完成してから、対ジズ用の魔法を完成させる。組み込んだ特性は、D粒子一次変異が<磁気制御><編空><励起魔力>の三つ、D粒子二次変異が<手順制御><演算コア><ベクトル加速><電磁波感知>の四つになった。
<磁気制御>と<編空>については、励起魔力でも機能するように改造を加える。そして、<編空>には効果を発揮する範囲が俺の周囲だけという制限があったが、励魔球を組み込んで励起魔力を供給する事で、遠くでも機能するようにした。
この新しい魔法を『クロスリッパー』と名付けた。この魔法が撃ち出す『クロスリッパー弾』は、時速七百キロほどで飛び、目標を追尾する機能を持っていた。
「空中戦で、これを使い熟せるようになったら、ジズ戦かな」
俺はジズ戦に備えて特訓する事にした。
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