第582話 氷神ドラゴン討伐準備完了
鳴神ダンジョンの二層へ行った俺たちは、岩山が並んでいる場所へ向かう。そこで収納アームレットから黒鉄製砲弾を取り出して、四人の中で一番力がある千佳に渡す。
アリサに『マナバリア』を発動してもらい、いつでも魔力バリアを展開できるように用意をお願いする。
それから『プロジェクションバレル』を発動し、磁力発生バレルを出す。その磁力発生バレルを少し離れた岩山に向けた。
「よし、砲弾を入れてくれ」
千佳が黒鉄製砲弾を磁気発生バレルに押し込んだ。その瞬間、磁気により砲弾が加速し極超音速となって磁気発生バレルから撃ち出された。
ドンという衝撃波が発生した音がして、磁気発生バレルが後ろに弾き返されそうになるが、それを制御する。砲弾は岩山に当たって爆発した。膨大な運動エネルギーが熱と爆発に変わり岩山を破壊する。
その爆風は俺たちのところにも届いた。それをアリサが展開した魔力バリアが受け止める。
「ふうっ、何度見ても『プロジェクションバレル』の威力は強烈です」
千佳が破壊された岩山を見て言った。
「次は『アークエンジェルブレス』を掛けた砲弾で、隣の岩山を狙う」
俺は次の黒鉄製砲弾を取り出して千佳に渡す。由香里が深呼吸してから『アークエンジェルブレス』を発動。目の前に強い白銀色の光が生まれ砲弾を包み込み、内部に浸透したように見えた。
千佳が砲弾を磁気発生バレルに押し込んだ。次の瞬間、砲弾が極超音速で飛び出し、隣の岩山に命中。爆発すると同時に、白銀色の光が周りに放射された。その光は邪悪なものを許さない天使の怒りのようなものが込められているように感じた。
アリサが展開した魔力バリアが、爆風を受け止めて俺たちを守った。爆風が消え破壊された岩山が姿を現す。それは隣の岩山と酷似していた。物理的な破壊力は同程度のようだ。
「あの白銀色の光が、『アークエンジェルブレス』の効果なのですか?」
天音が俺に視線を向けて質問する。
「そうみたいだな。但し、聖光とは違って物理的な破壊力は変わらないようだ」
アリサが俺に顔を向ける。
「ホバーキャノンの構造だと、砲弾に『アークエンジェルブレス』を掛けられませんよ」
「そうだな。給弾装置に改造が必要だろう」
給弾装置に砲弾の取り出しと再装填ができる仕組みを、新しく組み込む事にした。そして、天音にはホバーキャノンの操縦を覚えてもらい、由香里には砲手の訓練を受けてもらう事にする。
由香里たちは、年末年始を家族と一緒に過ごす予定らしい。訓練は来年になるだろう。それにタイチたちと一緒に戦うのだから、チームとして戦う訓練も必要だ。
俺たちは不変ボトルの万能回復薬を補充してから地上に戻った。グリーン館で少し話してから、由香里たちは帰って行った。
年末年始はグリーン館でゆっくりと過ごす予定だ。執事の金剛寺にも一週間ほど休むように言ってある。なので、一人でゆっくりする。
但し、ここには大勢のシャドウパペットたちが居るので寂しくはない。
のんびりした年越しと正月を過ごした俺は、ヨーロッパから入る情報を整理していた。邪神がヨーロッパのダンジョンに封印されているという情報を聞いた時に、ヨーロッパで人を雇ってヨーロッパ中のダンジョン情報を集めさせていた。
その中には邪神と接触したと言われている組織ディオメルバの情報もあった。ディオメルバはA級冒険者のノルベルト・ピゴロッティが設立した組織らしい。
ピゴロッティはダンジョン探索の最中に、クトゥルフ神話に出て来る『ハスター』と呼ばれる神に遭遇した、と言っていたらしい。
クトゥルフ神話では、時空の制限を一切受けない最強の神性にして『外なる神』の副王とされているヨグ=ソトースという神が設定されている。そのヨグ=ソトースの子供がハスターになる。
俺たちが邪神と呼んでいるのは、このハスターではないかとヨーロッパでは議論されているようだ。但し、クトゥルフ神話は創作物なので、ダンジョンが別の超越的な存在をクトゥルフ神話の中の神に当て嵌めて名前を付けたのではないかという噂があるようだ。
つまりハスターと名付けられた存在は、架空の存在ではなく実在するものだという。今までダンジョンから産出した武器などに、何とか神の所有した武器という設定のものがある。
それらの武器は存在するが、神に遭遇したという冒険者は居なかった。ピゴロッティの話が本当なら、初めてダンジョン内で神に遭遇した人物という事になる。
俺がハスターについてメティスに伝えると、
『邪神の眷属は居ましたよ』
と指摘してきた。
「あの邪神チィトカアは、このハスターを参考にダンジョンが創り出した魔物だと思われているようだ」
考えてみれば、神の眷属と呼ばれるほど強くはなかった。ピゴロッティが遭遇した神は、どんな存在だったのだろう。
『グリム先生が、神威エナジーを目一杯溜め込んだ時の存在感が、神に近いのかもしれません』
メティスにそう言われて、返事に困った。その状態の時の俺は、神威エナジーを制御しようと集中しており、自分の状況を客観的に見る余裕はないからだ。
「ふーん、存在感ね。それは俺じゃなくて、溜め込んだ神威エナジーに対して感じているんじゃないか?」
『そうかもしれません』
そんな事だろうと思った。神威エナジーもほとんど使い熟せていない俺に、神性を感じるなんて事はない。
正月休みが終わって、アリサたちやタイチたちがグリーン館に集合した。そして、氷神ドラゴン討伐のための訓練を開始する。
二週間ほどの訓練で勝利への道筋が見えてきた。
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