第568話 二度目の挑戦

 精神的に疲れた後藤は、『奉納の間』を出ると白木たちに結果を知らせた。

「<聖光>ではなく<X線>だったんですか。まあ、簡単に手に入るようなものじゃないという事ですな」


 白木の言う通りだろう。慈光寺理事も成功率は高くないだろうと言っていたのを、後藤は思い出した。


 中ボス部屋へ行って休む事にする。

「今日は続けて挑戦する気力がないから、次は明日にする」

 後藤が言うと、日高が顔を向ける。

「戦っていた時間は、数分程度だったのに、かなり強敵だったんですね?」


 後藤が渋い顔になった。

「まあな。攻撃魔法がほとんど効かなかったんだ」

「生活魔法で倒したんですか?」

 河瀬が確認する。


「そうだ、『クラッシュソード』で仕留めた。攻撃魔法の賢者もクラッシュ系の魔法を創ってくれないもんかな」


「それは贅沢というものです。魔装魔法使いは、同じような機能を持つ魔導武器を探すしかないんですから」

 日高が口を尖らせて言った。それを聞いた後藤が苦笑いする。その後、仲間と話をしながら緊張を解し、後藤は半日の休養を取った。


 次の日、後藤たちはもう一度『奉納の間』へ向かう。入り口の前で激励を受けて中に入り、井戸のところへ行って<発光>の『効能の巻物』を奉納しようとして、手を止めた。


「もう少し確率を上げられないか……」

 その時、死蔵しているアイテムを思い出し、久しぶりに取り出す。それは『聖女の涙』と呼ばれるイヤリングの魔導装備だった。


 『聖女の涙』は、イヤリングに付いている水晶のようなものから魔物が嫌う光を出すというものだ。この光が効果を発揮するのは、初級ダンジョンに居る吸血コウモリや狂乱ネズミのような雑魚魔物だけである。なので、死蔵する事になったのだが、これを一緒に奉納したら<聖光>が出るんじゃないかと考えたのだ。


 それは危険な賭けだった。そんな事をすれば、『聖女の涙』の強化版みたいな魔導装備がドロップするかもしれないからだ。


「しかし、一回目と同じ事をしても、同じ結果になる確率も高い」

 アメリカでは、同じ事をして大量の光剣クラウを手に入れる事になったと聞いている。悩んだ末に、『聖女の涙』と<発光>の『効能の巻物』を奉納した。


 膨大な魔力と霧のようなものが部屋の中に噴き出し、それがドラゴニュートになった。ブルーイグアナを巨大にして人型にしたような魔物は、盾とロングソードを持っていた。


 後藤は素早く『ホワイトアーマー』を発動した後、『戴宗の指輪』に魔力を注ぎ込み始める。それでも不安で『リフレクトの盾』を取り出して握り締める。


 こういう素早い魔物と攻撃魔法使いは相性が悪い。素早さを上げた目と魔力感知で敵を捉え、まずは試す。連続で『デスショット』を発動し、徹甲魔力弾をドラゴニュートに向かってばら撒いたのだ。


 ドラゴニュートは鮮やかな動きで徹甲魔力弾を躱し始めたが、最後の一発が肩を掠めた。本来ならちょっとした傷を負わせる事ができたはずだ。しかし、ドラゴニュートは無傷だった。


 後藤は心の中で意地悪なダンジョンを毒づいた。ドラゴニュートは邪神眷属だったのだ。これで後藤の攻撃手段が減ってしまった。


 ドラゴニュートの素早い動きは、グリムとの修業の御蔭で対応できる。ドラゴニュートはドラゴンほど防御力が高くないので『ホーリーソード』でダメージを与えられるだろう。


 後藤は『ホーリーソード』でドラゴニュートの足を狙う事にした。そして、『ホーリーソード』と『ホーリーキャノン』だけでは、攻撃が単調になるので攻撃魔法をフェイントに使う事にする。


 ドラゴニュートのロングソードによる攻撃を盾で受け流す。リフレクトの効果付きなので、ドラゴニュートがバランスを崩した。チャンスだと思った後藤は、七重起動の『ホーリーソード』を発動し太腿を狙って聖光ブレードを振り抜く。


 聖光ブレードの切っ先がドラゴニュートの足を切り裂いた。但し、十センチほどの傷で大したダメージではない。


 ドラゴニュートが吠え、反撃とばかりにロングソードを振り被り後藤に向けて振り下ろす。この攻撃はグリムから聞いていた。斬撃を飛ばす技である。


 後藤が慌てて避ける。それでも脇腹を何かが切り裂いた。『ホワイトアーマー』の御蔭で浅い傷となったが、危なかった。


 後藤が負傷した事を知ったドラゴニュートは、連続で攻撃を仕掛けてきた。その攻撃を盾で受け流すか、躱して防ぐ。後藤は懸命に防ぎながらチャンスを待った。


 ドラゴニュートが連続攻撃を中断する。それを見た後藤が反撃として『デスショット』を発動し、徹甲魔力弾をドラゴニュートに向かって放つ。だが、ドラゴニュートは避けようともしなかった。それが自分には効かない攻撃だと学習していたのだ。


 ドラゴニュートに命中した徹甲魔力弾は、<邪神の加護>により拒絶され威力を発揮する事なく消えた。ドラゴニュートがもう一度斬撃を飛ばす。後藤は躱すために横に跳んで地面を転がる。


 素早く起き上がった後藤は『ショットガン』を発動し多数の魔力弾をばら撒くように撃ち出した。フェイントの攻撃であったが、ドラゴニュートは自分に効果があるのか判断がつかなかったようで、後藤と同じように横に跳んで躱すと地面を転がる。


 チャンスだと感じた後藤は、ドラゴニュートに向かって『ホーリーキャノン』を発動し聖光グレネードを近くの地面に撃ち込んだ。


 ドラゴニュートが立ち上がろうとした足元に着弾した聖光グレネードが、金色の光を放ちながら爆発する。ドラゴニュートは盾で上半身を守る姿勢を取る。そこに超音速で飛び散った金色に輝くD粒子が襲い掛かり、ドラゴニュートの下半身を貫きボロボロにする。


「よし!」

 後藤は踏み込んで七重起動の『ホーリーソード』を発動しようとした。その時、ドラゴニュートがロングソードを後藤に向かって投擲。


 びっくりした後藤は、盾で受け止める。どうやら斬撃を飛ばす技も使えないほど弱っており、ロングソードを投げたようだ。


 後藤は『ホーリーソード』をやめて、もう一度『ホーリーキャノン』を発動し聖光グレネードを撃ち込んだ。近付くのは危険だと判断したのである。


 聖光グレネードが飛翔し、ドラゴニュートの胸に着弾し爆発。眩しい閃光が収まった時、ドラゴニュートの姿が消えていた。


 その時になって、後藤は脇腹に痛みを感じ始めた。戦っている間は、アドレナリンが大量に出ていたので痛みを感じなかったようだ。初級治癒魔法薬を取り出して飲むと、しばらくしてから痛みが引き動けるようになった。


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