第559話 賢者会議

 ステイシーは次にエミリアンを指名した。エミリアンはディアスポラという組織の事と、邪神眷属の対策として三十年前に亡くなった魔装魔法の賢者ジュリアーナ・ガブリエリが秘匿していたと言われている魔法を探していると言う。


「その秘蔵魔法は、どんなものなのです?」

「剣の切れ味を強化する類の魔法だったのですが、ただ強化するのではなく破邪の力を秘めていたと言われています」


「なるほど、面白いですね。破邪の力ですか。見付けられそうなのですか?」

「ジュリアーナ殿の遺族から、彼女が残した資料を借りて、探しています。ただダンボール箱で五十個ほどもあるので、調べるのに時間が掛かっています」


「手分けして調べられないの?」

「ステイシー長官は、賢者の資料を賢者でない者に調べさせるのですか?」

 賢者でないと分からない事がある。賢者が残した資料は、賢者なら知っているだろうという前提で書かれている事が多いのだ。


「賢者の秘密主義?」

 多くの秘密を抱える賢者は、何事も秘匿しようとすると言われている。世間では、それを賢者の秘密主義と呼んでいるらしい。


「そう言ってもいいですが、大勢の者を雇って調べさせれば、その者たちに守秘義務を課して、それを守らせる必要があります。かえって面倒です」


 それに資料のほとんどは秘蹟文字で書かれていると、エミリアンは話す。秘蹟文字を解読できる者は多くなかった。


「秘蹟文字で書かれているのなら、簡単に手分けして調べるという訳には、いかないわね」

 ステイシーは納得したようだ。


「次は私かな」

 生命魔法の賢者であるルドマンが話し始めた。ルドマンは大した情報は持っていなかった。ただ聖銀製の武器に『エンジェルブレス』という生命魔法を掛けると、『ゴースト殺し』と呼ばれる武器になるらしい。


「そのゴースト殺しの武器は、邪神眷属に効果があるのですか?」

 エミリアンが質問した。

「弱いダメージだが、与える事ができた。今『エンジェルブレス』の強化版を開発しているところだ」


 『エンジェルブレス』というのは、聖光に関係しているのだろうか? ただゴースト殺しの武器の威力は、『ホーリーソード』より低いようだ。実戦ではあまり役に立たないと判断したから、強化版の開発をしているのだろう。


 ルドマンの話が終わったので、次は俺だと思い話し始めようとした。

「ヒイラギ殿は、ラストにしましょう。次は私が話します」


 ステイシーが話し始めた。最初は光剣クラウ・ソラスについてだった。俺からフォトンブレードの事を聞いたステイシーは、光の短剣を集めてから、アメリカ版『奉納の間』で光剣ソラスを手に入れようとしたが、光剣クラウしか手に入れられなかったという。


 ステイシーたちが、光剣クラウ二本で光剣クラウ・クラウを作ったと聞いて驚いた。俺が考えてもみなかった事を、アメリカは実行したようだ。


「その光剣クラウ・クラウで、邪神眷属を倒す事ができたのですか?」

 俺が質問すると、ステイシーが頷いた。

「光剣クラウ・クラウから発生したフォトンブレードは、レッドオーガの邪神眷属を切り裂き、仕留めました」


 ルドマンがステイシーに顔を向ける。

「それで光の短剣を集めていたのか。だが、アメリカでも、光剣クラウ・クラウを全世界に配るほど、数を揃えられないはずだ」


「ええ、その通りよ。なので、邪神眷属に通用する攻撃魔法を開発しているところです」

「どんな魔法なのです?」

 俺は好奇心で尋ねた。

「<堕天使の祝福>と呼ばれる効能を使った攻撃魔法よ」


 うわっ、アメリカの考えている事はエグいな。邪神眷属に堕天使のパワーで対抗するのか。<堕天使の祝福>というのは、あらゆるパワーを奪い燃やす効果があるらしい。ただ<堕天使の祝福>は扱いが難しく、魔法の開発は難航しているという。


「発動した攻撃魔法使いの魔力も、奪って燃やしてしまうので、射程が極端に短くなるという点が未解決なのです」


 最後に俺の番となった。

「生活魔法の賢者システムでは、攻撃魔法の効能と同じようなものを特性と呼んでいます。その特性の中に<聖光>というものがあるのですが、これが邪神眷属には有効なようです」


「ヒイラギ殿、その<聖光>は試してみたのですか?」

 ステイシーが身を乗り出して尋ねる。

「<聖光>を使った『ホーリーソード』と『ホーリーキャノン』という魔法を作成し、実戦で使っています」


「その二つの魔法の威力は、どうなのです?」

「威力の高い『ホーリーキャノン』でも、攻撃魔法の『ドレイクアタック』程度だと思います」

 『ドレイクアタック』は魔法レベルが『15』で習得できる魔法で、ドレイク種を倒すために創られたものだ。


「『ドレイクアタック』と同程度か……少し威力が足りないが、邪神眷属に対抗する最初の魔法を創ったという点は、大いに評価されるべきだろう」

 エミリアンが皆を見回して言った。それを聞いたステイシーが頷く。


「その<聖光>を使って、もっと強力な魔法を創れないの?」

「ドラゴン級の魔物を倒せる魔法を創ろうとすると、どうしても魔法レベルが上がってしまうのです。何か工夫が必要だと思っています」


 ステイシーが厳しい顔になる。

「二つの魔法の詳細を教えてください」

 俺が説明を始めると、ステイシーが頷きながら聞く。

「『ホーリーソード』は、魔装魔法使いが習得した方が良いかもしれません。『ホーリーキャノン』なら、攻撃魔法使いでも使えるでしょうが、素早い魔物だと避けられるかもしれませんね」


 ステイシーは攻撃魔法使いや魔装魔法使いが生活魔法の才能を持っている前提で話しているようだ。

 二つの魔法の欠点は、俺も分かっていた。この二つは<聖光>の威力を確認するために創った魔法なので、改良する点を残したままなのだ。


「『ホーリーキャノン』も魔装魔法使いが習得して使った方がいいだろう。魔装魔法使いなら、邪神眷属に近付いて発動し、素早く距離を取るヒットアンドアウェイの戦い方ができる」

 エミリアンが言うと、他の皆も頷いた。


 ステイシーが皆を見回す。

「これで皆さんの現状報告を聞いた事になります。ここから邪神眷属対策の方針を話し合いたいと思いますが、その前に何かありますか?」


 エミリアンが手を挙げた。

「邪神眷属の中で、宿無しは居るのですか?」

「いいえ、日本で退治されたミノタウロスジェネラル以外は、発見されていません」


 エミリアンとしては、宿無しの邪神眷属が存在する場合、対策を急がなければならないので気になったようだ。


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