第553話 聖光の魔法
東京から渋紙市に戻った俺は、グリーン館の作業部屋で『知識の巻物』を取り出した。
『『聖光』の知識を手に入れるのですか?』
「そうだ。松本長官からも頼まれているからな」
巻物を開き魔力を流し込む。すると、目の前に魔力法陣・細胞活性化魔力循環・聖光・ダンジョン通信網という選択項目のリストが並ぶ。
その中から『聖光』を選んだ。その瞬間、俺の意識が膨大な情報の集合体であるダンジョンアーカイブの聖光に関する情報区画に繋がった。その直後、聖光に関する情報が頭の中に流れ込み、頭の中で情報が爆発しそうになる。
一気に情報を得たので、頭がふらふらする。それが落ち着いた後、その情報の確認を始めた。聖光は魔力に近いエネルギーだという。
魔力が電波なら、聖光は紫外線くらいの違いがあるようだ。と言っても、電磁波のように波長が違うという事ではないが、D粒子から魔力を作り出せるように、聖光も作り出せる。但し、聖光の方がエネルギー密度が高いようで、魔力ほど簡単には作り出せそうにない。
空間構造の知識を得た時もそうだったが、その知識が難解すぎて完全に理解するまでに時間が掛かりそうだった。とは言え、時間がないので基本だけ理解して、魔法を創る事にした。
理解する上で助けになるのは、メティスの意見である。俺は頭にある聖光の情報をメティスに伝えて、意見を交換する事にした。
偶にアリサも参加する時もあった。アリサにはメティスが理解して整理した情報を伝える。その方が正確に情報が伝わるのだ。一緒に俺も聞いて理解が深まる事もある。
二週間ほど俺・メティス・アリサで意見を交換し、聖光についての基本を理解した。これにより聖光だけでなく魔力に関する理解も深まったと思う。
俺はD粒子一次変異の特性である<聖光>を創る事にした。作業部屋のソファーに座り『痛覚低減の指輪』を指に嵌める。
準備ができると、賢者システムを立ち上げた。そして、覚悟を決めると<聖光>の特性を創る作業をスタートさせた。賢者システムが俺の脳細胞を使って<聖光>の構築を始める。それは苦痛を伴う作業だったが、以前より痛くない。
『痛覚低減の指輪』の効果もあるが、以前より俺の脳細胞がタフになっているような感じだ。そうか、『霊魂鍛練法』で鍛えられたのだ。
それでも苦しい時間が続き、三十分ほどで<聖光>の特性が完成する。
「はあっ、やっぱりキツイな」
『成功したんですね?』
「もちろんだ。これで<聖光>を使う魔法が創れる」
その日は何もする気が起きなかったので、タア坊たちと遊んで休養を取った。
翌日、俺はアリサとメティスに相談しながら、どんな魔法を創るか考える。
「『ブレード』に、<聖光>の特性を付与したものはどう?」
アリサが提案した。
「そんなものじゃ、邪神眷属は倒せないと思うけど」
『ブレード』は魔法レベルが『5』で習得できる魔法である。なので、使っている魔力やD粒子の量も少ない。従って、その威力は多重起動を使ってもアーマーベアを倒せないというレベルである。
「邪神眷属を倒すためじゃなく、ファントムなどの霊体型アンデッドを倒すのに使えないか、と考えたのよ」
「なるほど、ファントム用か。近くで聖属性付きの武器を手に入れられない場所に住んでいる冒険者のためには、いいかもしれない」
アリサの提案を採用し、『ホーリーソード』を創る事にした。但し、習得できる魔法レベルを『5』にしたかったので、D粒子で形成されるV字の刃の長さが三メートルと短くなった。ちなみに、D粒子で形成される刃は『聖光ブレード』と名付ける。
次に『クラッシュソード』に<聖光>を付与したものを創れるか、試してみた。しかし、<空間振動>と<聖光>の組み合わせは上手くいかなかった。
<編成>を使って<空間振動>と<聖光>の特性を纏めようとした時、賢者システムに拒絶されたのである。この組み合わせはできないようだ。
「<空間振動>と<聖光>の組み合わせができれば、一撃で邪神眷属を倒せる魔法ができるのに」
アリサが残念そうに言う。
「できないものは、仕方ない。今度は<爆轟>と組み合わせられるか、試してみよう」
<爆轟>と<聖光>の特性を纏めようとしてみると、成功した。D粒子で形成されたグレネード弾のようなものを発射して、着弾したら<爆轟>の特性で爆発し聖光を放ちながら爆散するD粒子というイメージで、新しい魔法を創る。
魔法レベルが『10』で、習得できるという条件で調整する。その結果、<爆轟><聖光><分散抑止>の三つの特性を付与した魔法となった。射程は八十メートル、速度は時速二百キロとなる。新しい魔法は『ホーリーキャノン』、撃ち出すD粒子の形成物は『聖光グレネード』と名付けた。
『シルバーオーガのように素早い魔物や、フォートスパイダーのように防御力が高い魔物が邪神眷属となった場合、この魔法では倒せません』
習得できる魔法レベルを低く抑えようとすると、どうしても威力が落ちてしまう。そこでアリサたちの魔法レベルに合わせて、強力な魔法を考え始める。
「<空間振動>がダメだとなると、ドラゴン級の邪神眷属を倒すには、魔法レベルが『18』以上になるかもしれないな」
それを聞いたアリサが、溜息を吐いた。アリサの魔法レベルは『16』で『18』まで達していなかったからだ。
「攻撃魔法の『ドラゴンキラー』を習得できる魔法レベルが『18』。やはり、それくらいの魔法レベルが必要になるのね」
『『ハイブレード』に<聖光>を付与したら、ドラゴン級の邪神眷属を倒せないでしょうか?』
メティスの提案を聞いて、考え込んだ。首などの急所に九重起動の『ハイブレード』を叩き込めば、仕留める事ができるかもしれないが、かなり危険な賭けになる。
それをメティスに伝える。
『そうなると、ドラゴン級を倒せるとなると『ジェットフレア』と『トーピードウ』くらいになります』
考えてみると、クラッシュ系の魔法を除けば、ドラゴン級の魔物を倒せる生活魔法は少なくなる。その辺を考慮して、新しい魔法を創らねばならないようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます