第460話 悪魔のシフト制

 俺が中ボス部屋に入ると、うごめいていた蔓の動きが激しくなる。ツリードラゴンも俺に気付いたようだ。部屋は大きなかまぼこ型で、サッカーコートより少し狭いくらいだろう。


 小手調べに『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールをツリードラゴンに向けて放つ。その高速振動ボールへ数本の蔓が振り下ろされた。


 蔓と高速振動ボールが接触した瞬間、空間振動波が放射され破壊空間が形成される。それは周囲の蔓を数本だけ切断したが、ほとんどダメージを与えられない。


 蔓の長さは一定ではないようだ。三本の長い蔓が俺を目掛けて振り下ろされた。その蔓に向かって七重起動の『ハイブレード』を発動しD粒子で形成された巨大な刃を薙ぎ払うように振る。


 三本の蔓は途中で切断され、床に落ちる。俺は切断されたのにくねくねと動いている蔓を睨む。ツリードラゴンの幹に魔法を命中させられないと大きなダメージは与えられないようだ。即座に七重起動の『バーストショットガン』を発動し三十本の小型爆轟パイルを放った。


 小型爆轟パイルを蔓が叩き落とそうとする。蔓による攻撃により十本、二十本と叩き落され爆発する。それをすり抜けた二本がツリードラゴンの幹に命中して爆発。


 巨大なツリードラゴンにとっては小さなダメージだったかもしれないが、俺は勝機を見付けた。飽和攻撃を仕掛ければ、この魔物を倒せると分かったのだ。


 ツリードラゴンの蔓は厄介だが、この魔物は移動できない。飽和攻撃で勝てるはずだ。俺はもう一度七重起動の『バーストショットガン』を発動し三十本の小型爆轟パイルを放つ。


 素早く移動して別の角度から、また三十本の小型爆轟パイルを放った。その直後に、二回連続で『ジェットフレア』を発動し続け様に二発のD粒子ジェットシェルを撃ち込んだ。D粒子ジェットシェルは途中の空気を吸い込み圧縮しながら飛ぶ。


 ツリードラゴンが狂ったように蔓を振り回して、小型爆轟パイルを叩き落とそうとする。だが、すり抜けた何本かはツリードラゴンの幹に当たって爆発した。


 先頭のD粒子ジェットシェルが蔓の攻撃で叩き落され、周りに高熱のプラズマを撒き散らす。あまりダメージは与えられなかった。


 だが、最後に放ったD粒子ジェットシェルが、すり抜けてツリードラゴンの幹に命中した。磁気が発生してツリードラゴンの幹を包み込み、圧縮空気がプラズマ化して爆発するように拡散する。超高熱のプラズマがツリードラゴンを包み込み焼き尽くす。


 ツリードラゴンを包んでいた磁気が消えて、熱風がこちらにも吹いてきた。俺は後ろに下がって、結果を待つ。熱風が途絶えた時、ツリードラゴンの姿は消えていた。


『おめでとうございます』

 エルモアが影から出て来ると、メティスの声が頭に響いた。

「じゃあ、ドロップ品を探そう」

 為五郎やタア坊、ゲロンタ、ハクロも出してドロップ品を探させる。タア坊が白魔石<大>を見付けて、小さな手で抱えながら持ってきた。


「ありがとう」

 そう言って、タア坊の頭を撫でる。そうすると、タア坊も嬉しそうだった。


 次にゲロンタが本を持ってきた。どうやら魔導技術書らしい。次に発見したのは為五郎でナイフだ。まずナイフを鑑定モノクルで調べてみる。


 『魔法無効のナイフ』と表示された。これが剣だったら、魔物と戦う武器として使っても良かったのだが、ナイフではリーチが短すぎる。


 次に魔導技術書を調べてみた。ぱらぱらとページをめくってみると、秘蹟文字で書かれており『D粒子固定化技術』というタイトルがあった。


 これはD粒子を様々な形に固定化する技術らしい。生活魔法でもD粒子を様々な形に形成する事はできるが、すぐにバラバラになってしまう。


 この技術は一度固定化すれば、半永久的に同じ形のまま存在し続けるというものだった。以前に手に入れたD粒子繊維製造装置は、この技術を使ったもののようだ。


 ドロップ品はこれだけだった。

『才能の実を手に入れましょう』

「そうだな」

 俺たちは中ボス部屋の奥に向かい、通路を通って小部屋に入った。そこには一本の木が生えていた。それはキンカンの木に似ており、小さな実が生っている。


 そのほとんどは熟していない白い実だ。そして、一個だけ鮮やかな色をしている実がある。生命魔法の緑に色付いた実だ。俺はそっと採取して、用意していたリングケースのような容器に入れてマジックポーチに収納した。


「生命魔法の才能の実か」

『そうなると、由香里さんに食べてもらうのが良いかと思います』

 由香里の生命魔法の才能は『C』だったので、『B』になるという事だ。俺が食べても『F』が『E』になるだけだから、由香里が相応しいのだろ。


 ちょっとガッカリした気分で、俺は五層の転送ルームから十層へ移動した。

『転送ルームで一泊するのは、どうでしょう?』

 俺自身は疲れているとは思わないが、メティスの忠告に従って休養を取ってから十層の中ボスを戦った方が良いと思った。


 復活しているとすれば、相手は悪魔である。慎重になった方が良いと思い、今日は偵察だけ行う事にした。そこで偵察のために中ボス部屋へ向かう。


 中ボス部屋は隣の山にあるので、D粒子ウィングで飛ぶ。隣の山に着地して中ボス部屋まで続く通路を進んだ。


『ここからでも気配が伝わってきます。確実に復活していますね』

 俺は頷いてから、部屋の中を覗き込む。すると、赤い衣装を着た悪魔が中に居た。

「あれは前回戦ったアメイモンと違うんじゃないか?」


『魔物用鑑定ゴーグルで調べてみましょう』

 調べた結果、悪魔の王子『オリエンス』である事が分かった。こいつは火の魔法を得意とする悪魔らしい。


 俺は納得できずに首を傾げた。

「何でアメイモンじゃなくて、オリエンスなんだ?」

『さあ、シフト制になっていたのかもしれません』

「そんな、コンビニのアルバイトじゃないんだぞ」


 俺の声が聞こえたのか、オリエンスが振り向いて俺の顔を睨んだ。それは誰もがゾッとするような目だった。俺は転送ルームに引き返して、メティスと作戦を考える事にする。


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