第456話 コカトリスとの戦い

 中ボス部屋である闘技場において、コカトリスが振り向いて俺たちを睨む。頭の中で『チリン、チリン』と音がする。急いで『鋼心の技』のスイッチを押す。但し、精神の核の周りに構築されたのは二重障壁だった。


 『チリン、チリン』という音が止まる。二重障壁はコカトリスの精神攻撃を防いだようだ。

『このままでは石化してしまいます』

「『状態異常耐性の指輪』が有るから、すぐには石化しないと思うが、邪眼は避けた方が良さそうだな」


 俺は邪眼の攻撃から逃れるために走り出す。そして、『クラッシュボール』を連続して発動し、D粒子振動ボールをコカトリスに向かってばら撒く。


 意外な事にコカトリスは素早い動きで全てを避けた。コカトリスの体高は六メートルほどなのだが、それを支える鶏の足は強力だったようだ。


 為五郎がマグニハンマーをコカトリスの顔に向かって投げた。クルクルと回転しながら高速で飛んだハンマーが鶏のくちばしに命中して、その巨体を仰け反らせる。


 エルモアが『クラッシュボールⅡ』を発動して、高速振動ボールをコカトリスに飛ばす。それに気付いたコカトリスが口を開けて叫んだ。


 それは金属が引き裂かれるような甲高く嫌な音だった。すると、高速振動ボールが音の圧力に反応して、空間振動波を放射。そして、破壊空間を形成した後に消滅した。


 為五郎とエルモアが時間稼ぎをしている間に、俺はホバーキャノンを取り出す。次に『プロジェクションバレル』を発動し磁力発生バレルを形成する。


 ホバーキャノンに磁力発生バレルを接続すると、エルモアを呼んだ。短時間だが、為五郎が一体だけで時間稼ぎをする事になったが、マグニハンマーと<衝撃吸収>付きの円盾で善戦している。


 コカトリスの強力な攻撃を円盾で受け止め、動き回りながらマグニハンマーで反撃する。コカトリスの邪眼による精神攻撃と石化は、シャドウパペットには効かないようだ。石化は普通の生物にしか効果がないのかもしれない。


 コカトリスがバランスを崩して転んだ時に、為五郎が大技を出す事にしたようだ。マグニハンマーに魔力を注ぎ込み、『ギャウッ!』と叫びながら全力投擲したのだ。


 マグニハンマーがクルクルと回転しながら飛び、その間にD粒子を吸収して巨大化する。その巨大化したハンマーがコカトリスの胸に命中した。


 ボコッと胸が陥没して肋骨を折り、コカトリスの巨体を撥ね飛ばす。命中したハンマーはクルクルと回転しながら、D粒子を吐き出して小さくなって為五郎の手に戻る。


「凄いな。為五郎だけでも倒せそうだけど、念には念を入れよう」

 コカトリスは地面を転がってから、起き上がって苦しそうに声を上げる。邪眼を使って為五郎を石化しようとしたが、シャドウパペットには無効だ。


 ホバーキャノンに乗った俺とエルモアは、コカトリスの手前で横滑りにドリフトしているかのような体勢になりながら、磁力発生バレルの先をコカトリスに向けて三連続で引き金を引いた。


 鉄製の砲弾は磁力発生バレルの効果で音速を超えて加速し、コカトリスに向かって飛ぶ。三発の砲弾は一発が外れたが、他の二発が胸と腹に命中して爆発した。


 コカトリスの肉体に二つの大穴が開き、回転しながら弾き飛ばされて闘技場の壁に叩き付けられる。それはコカトリスを仕留めるだけの十分な威力があったようだ。


 コカトリスが消えて静かになる。

『邪神チィトカアに比べると、コカトリスが弱く感じます』

「まあ、中ボスクラスの魔物と邪神では、格が違うんだろう」


 俺たちはドロップ品を探した。白魔石<小>が見付かり回収、エルモアが『知識の巻物』を発見して持って来た。為五郎は指輪を発見する。


 その指輪を鑑定モノクルで調べてみると、『解毒の指輪』と表示された。強力な毒でも解毒できる指輪らしい。


『これが有れば、いつでも樹海ダンジョンに入れるのではないですか?』

「たぶんダメだろう。冒険者ギルドは、一人だけを特別扱いにするというのは嫌うからな」


『今回の『知識の巻物』で、どんな知識を手に入れるか、決めているのですか?』

「前から興味が有った空間構造を手に入れようと思っている。空間構造を利用した魔法で、新しい防御用の魔法を開発できないか、と考えているんだ」


 俺とメティスが話している間に、為五郎が階段を見付けた。たぶん十六層への階段だろう。

「十六層が、どんな場所か確かめよう」

 俺たちは階段を下りた。最初に寒さを感じて、その先を見ると氷の大地が広がっている。そして、その大地には巨大な氷の山があった。


「うわっ、寒い」

 吐き出す息が真っ白になり、全身が凍るような寒さを感じて、急いで防寒着を出して着る。それでも寒いので保温マントを羽織った。


「保温マントがないと、ここはダメだな」

『しかし、保温マントを着たまま戦闘するのも、問題があります』

 メティスの言う通りだ。保温マントは戦闘向きの装備じゃないので、着たまま激しい戦闘などはできない。


 俺たちはどんな魔物が居るのか確かめるために、氷の山の方へ近付いた。すると、氷の山に穴が開いているのが見える。


「あれは洞穴か、いや人工的な感じがする」

 近付いて確かめると、氷のトンネル、または通路だった。

『白熊が襲い掛かって来そうな場所ですね』

 その言葉を聞いて、亜美が作った白いワーベア型シャドウパペットを思い出した。


 そんな話をしたからだろうか、白い通路の奥から頭に角がある白熊が現れて襲ってきた。それを見た為五郎が前に出る。そして、手の甲にあるメタルクロウ生成装置に魔力を流し込むと、ジャキンという感じでメタルクロウが飛び出す。


 為五郎と角有り白熊との戦いが始まった。俺は魔物用の鑑定ゴーグルを取り出して魔物を調べた。『ホーンホワイトベアー』と表示される。


「何の捻りもない名前だな。それに特徴もパワーぐらいしかない」

 防御力もそこそこ高そうだったが、メタルクロウの切れ味は凄まじく、ホーンホワイトベアーは切り刻まれてしまった。


 魔石の回収をしている時、後ろの方で魔力が膨れ上がるのを感じて振り向いた。炎の塊が飛んで来るのが目に入る。為五郎が円盾を持って飛び出し、炎の塊を円盾で受け止める。


 爆発が起きて為五郎が吹き飛んだ。俺は『バーストショットガン』を発動し三十本の小型爆轟パイルを放った。連続で爆発が起き、爆風がこちらにまで押し寄せる。それに耐えて敵を探したが、見付からない。


 エルモアが走り出し、敵が居たと思われる場所を探す。

『逃げたようです。しかし、血の跡があります』

 近寄って、俺も確かめた。氷の通路の床に血が流れ落ちている。その跡は通路の外で消えていた。何らかの手当をしたのだろう。


『明らかに魔法でした。それも攻撃魔法です』

 それを聞いて、中ボス部屋の前で会ったザビエルを思い出した。……あれっ、ザビエルじゃなかった気がするけど、まあいい。


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