第453話 アリサの昇級試験

「グリム先生、ボクデンたちを再生しないんですか?」

 千佳が尋ねた。

「もちろん、ボディを作り直すつもりだけど、どこまで強化するか迷っているんだ」


「いっその事、為五郎並みに強化したらどうです?」

「為五郎は対魔物用のシャドウパペットだからな。対人用としては無駄にパワーが有りすぎるんだ」


「でも、泥棒を捕縛するなら、猫人型がいいんじゃないですか?」

 為五郎が簡単に侵入者を捕らえた時の事を思い出した。このままシャドウクレイの量を増やしてパワーを上げると、侵入者を殺す事になるかもしれない。


「そうだな。猫人型にして、柔術でも習わせるか」

 アリサたちも賛成のようだ。

 俺たちはどういうシャドウパペットにするか話し合った。シャドウクレイを九十キロ使い、暗視機能付きソーサリーアイを含むソーサリー三点セット、コア装着ホールを二個、魔力バッテリーを一個という重装備になった。


「これに衝撃吸収ベストを付ければ、十分だろう」

 アリサたちが笑った。

「それだとC級冒険者に匹敵するんじゃないですか?」

「いや、これだとD級上位というところだろう。ソーサリーアイを高速戦闘用にすれば、C級かな」


 アリサが俺に顔を向ける。

「そう言えば、エルモアの改造は?」

「珍しくメティスが悩んでいるんだ。その結論待ちになっている」

『自分が制御するシャドウパペットですので、じっくりと考えて決めるつもりでおります』


 その時、コムギが部屋に入ってきた。アリサを目にすると駆け寄って、アリサの膝の上に飛び上がる。アリサは嬉しそうにコムギを撫でた。


「そう言えば、そろそろB級の昇級試験じゃないか?」

 俺はアリサと千佳に尋ねた。

「今度の金曜日に、アリサが試験を受ける予定なんです」

 相手はアイアンドラゴンなので、失敗する事はないと思うが、ちょっと心配になった。


「心配ないですよ。魔法レベル15で習得できる生活魔法は使えるようになってます」

 『クラッシュボールⅡ』と『クラッシュボール』が有れば、十分倒せる相手なので大丈夫だろう。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アリサの昇級試験の日、雷神ダンジョンの前に来たアリサは、試験官役が佐川明美だったので驚いた。明美は日本で最も有名な女性B級冒険者だった。


 明美はもう一匹五大ドラゴンを倒せば、A級冒険者になるだろうと言われているのだ。

「結城アリサです。よろしくお願いします」

「試験官を務める佐川明美だ」


 ダンジョンに入って、順調に進んだ。手強い魔物はブルーオーガくらいだった。だが、アリサはブルーオーガとは何度も戦っている。


「私が始末しようか?」

 ここまでに遭遇した魔物を、アリサ一人で倒している。アリサの魔力消費を気にした明美が申し出たが、アリサは断った。

「大丈夫です。一撃で倒しますから」


 アリサは『大威徳明王の指輪』に魔力を流し込んで素早さと防御力を上げてから、【超速視覚】を使い始めた。


 その瞬間から周りの動きが遅くなる。風で舞い落ちる落ち葉が、空中で停止したように見え、あれほど素早く動いていたブルーオーガも普通の速さになっている。


 戦鎚を持ったブルーオーガが、アリサに駆け寄ると振り下ろした。それを避けて、クイントオーガプッシュを発動しオーガプレートで撥ね飛ばす。


 地面をゴロゴロと転がったブルーオーガが、飛び起きると怒りの表情でまた襲い掛かる。だが、最初よりスピードが落ちていた。どこかにダメージを負ったようだ。


 アリサはしっかりと見て、戦鎚を躱しながら『クラッシュソード』を発動した。空間振動ブレードが形成され、それがブルーオーガに向かって振り抜かれる。


 空間振動波の刃はブルーオーガの胴体を真っ二つにした。ブルーオーガがアッと言う間に真っ二つになり、消えたのを見た明美は感心したように頷いた。


「ブルーオーガを瞬殺か。B級の試験を受けるだけの実力ありという事ね」

「ありがとうございます」

 魔石を拾い上げたアリサは、褒めてくれた明美に礼を言う。


「しかし、今のも生活魔法なの?」

「はい、新しく登録されたばかりの生活魔法です」

「生活魔法か、私も習得しようかな」

 明美は生活魔法の才能が『D』らしい。アリサは習得する事を勧めた。


 十層の中ボス部屋で一泊してから、十五層へ向かう。十五層へ到着したのは、その日の昼頃だった。

「準備はいい?」

「大丈夫です。でも、近くで見ると迫力が有りますね?」

 アリサはゆっくりと近付いて来るアイアンドラゴンを見て言った。


 ドラゴンが一歩足を踏み出すたびに地響きを感じて、アリサは緊張した。それでも衝撃吸収服のスイッチを入れ、『マグネティックバリア』を発動して形成されたD粒子磁気コアを首に掛ける。


 アリサもゆっくりと進み出た。アイアンドラゴンの巨体を見上げながら『クラッシュボール』を連続で発動し、D粒子振動ボールをばら撒く。


 こういう巨体で動きが速くない魔物に対しては有効な攻撃方法なのだ。五個のD粒子振動ボールの中で三個がアイアンドラゴンに命中して、大きなダメージを与えた。


 ドラゴンが地面を蹴り上げ、土砂をアリサの方へ撒き散らす。アリサは磁気バリアを前方に展開する。その直後、大量の土砂が磁気バリアに跳ね返されてアリサの周りに散らばった。


 アリサの目の前でアイアンドラゴンが一回転した。その反動で長い尻尾がアリサを襲う。土砂はフェイントで、本命の攻撃は尻尾だったようだ。


 尻尾に向かって『ティターンプッシュ』を発動し、ティターンプレートを叩き付ける。ティターンプレートは尻尾の運動エネルギーを吸収して、そのまま返した。


 尻尾は弾き飛ばされて、アイアンドラゴンがバランスを崩す。そこに『クラッシュボールⅡ』を発動し高速振動ボールを胸に飛ばす。その高速振動ボールが命中すると、ドラゴンの胸に大きな穴が開いた。


 アイアンドラゴンが、立ち尽くしている。アリサは『ジェットブリット』を発動しD粒子ジェット弾をドラゴンの胸に開いた穴に叩き込んだ。


 プラズマがドラゴンの内臓を焼いてトドメを刺した。巨体が地響きを立てて倒れ消える。

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