第450話 グリーン館の危機
渋紙市に戻るとバタリオンのメンバーを集めた。パルミロの件が気になったので、バタリオンのメンバーに説明しておこうと思ったのだ。
グリーン館の食堂に集めた皆に、聖パルミロの事を説明する。
「へえー、聖パルミロと言えば、聖人として有名なのに」
カリナが意外だと声を上げた。タイチが溜息を吐く。
「授かった能力と人格は別だって事ですね」
「まあ、そういう事だ。日本で乱暴な真似をするとは思わないが、気を付けてくれ」
千佳が俺の方へ視線を向けた。
「一番危ないのは、グリム先生じゃないですか?」
「俺にはシャドウパペットたちが居るから、大丈夫だ」
アリサが不安そうな顔をする。
「その竜王の血は、どこに仕舞っているのです?」
「あれは冷凍しておかないとダメだから、倉庫の冷凍庫に入れている。ボクデンたちが居るから大丈夫だろう」
警備用の猫型シャドウパペットであるボクデンたちは、人間の筋力より何倍も強いパワーが有る。侵入者が居たら、簡単に捕まえるだろう。
「何かあくどい事を仕掛けて来ないでしょうか?」
天音も心配そうな顔をしている。
「パルミロは、聖人という皮を被った狼だ。だから、パルミロ自身も聖人の皮を被り続けなければならないという制約がある。たぶん自分の評判を落とすような事はしないと思う」
俺が言うと鉄心が頷いた。
「自分の評判を落とさないように、仕掛けて来るという事か、厄介だな」
俺はパルミロを一ミリも信用していないが、馬鹿ではないと考えている。何をするにしても、自分自身で仕掛ける事はないだろう。
その翌日、パルミロはあっさりと日本を離れた。他の国に治療に行ったようだ。それで少しホッとした。普通の日常生活が戻り、東京の病院が竜王の肉を病気の治療に活用できると報告して来たので見学に行った。
その病気は筋肉が痩せ細り衰える病気だという。竜王の肉を食べる事で症状が改善したらしい。俺は病院のドクターから説明を受けて納得したので、竜王の肉を治療に使ってもらう事にした。
首を解体して手に入れた肉を、二十キロほど渡す。研究施設にも渡して、成分を特定して薬を開発できないか研究してもらう事にする。
病院の関係者と食事をしてから、帰途に就き渋紙市へ戻ったのは深夜になっていた。グリーン館に到着して門から入ると、おかしいと気付いた。普通なら警備用のシャドウパペットたちが走って来るのだが、現れないのだ。
俺は影からエルモアと為五郎を出して、倉庫へ向かう。狙われるとしたら、倉庫だと思ったのである。倉庫の鍵が壊されていた。
「ボクデンたちはどうしたんだ?」
『倉庫の中かもしれません』
俺たちは用心しながら、倉庫に入った。入ってすぐにシャドウパペットだったものが床に落ちているのに気付いた。胴体が真っ二つになっている。
俺は唇を噛み締めて先に進む。そこでマスクをした賊に遭遇した。四人の賊が倉庫から金目の物を持ち出そうとしている。
「捕えろ!」
俺が命じると、エルモアと為五郎が賊に襲い掛かった。圧倒的なパワーの差を見せつけて、賊を薙ぎ倒し捕縛した。捕縛した賊のマスクを剥ぎ取ると、中から現れたのは外国人だった。
俺は急いで冷凍庫を調べる。冷凍庫から竜王の血がなくっている。俺は賊のところに戻って持ち物を調べた。竜王の血は出てこない。
賊を尋問したが、言葉が通じなかった。仕方ないので警察を呼ぶ。警察に逮捕された賊たちは、シリア人だった。金で雇われて泥棒に入ったらしい。彼らは魔装魔法使いの元冒険者だったようだ。
警察の調べによると、彼らを雇った男と一緒に五人で侵入したらしい。襲い掛かったボクデンたちを倒し、雇った男は倉庫の冷凍庫から何かを探し出すと、先に戻ったようだ。残った四人が金目の物を物色している最中に、俺たちが帰ってきたのだという。
屋敷には侵入しなかったので、根津は気付かなかったそうだ。
「済みません、全然気付きませんでした」
根津が気付かなかったのは、幸運だった。賊はかなりの手練だったので、根津だと返り討ちになっていただろう。そんな連中をエルモアと為五郎は圧倒したのだから凄い。
翌朝、騒ぎを聞いたアリサたちや鉄心が駆け付けてくれた。
「これはエセ聖人の仕業なのか?」
鉄心は怒っているようだ。
「たぶん、そうでしょう。だけど、証拠はありません」
逮捕された賊たちは、彼らを雇った者について全く知らなかったようだ。
「ボクデンたちが切られたと聞きましたが、本当なんですか」
千佳が鋭い視線で尋ねた。
「ああ、三体ともやられた。しかし、魔導コアは無事なので、再生する事はできる。今度はもっと強力なボディにする必要が有るだろう」
「パルミロは、アムリタを作ってしまうのですか?」
天音が尋ねた。その点については、疑問だった。アムリタの材料が竜王の血だけというのは考えられない。他に希少な材料が必要なはずだ。それらの全てをパルミロが所有しているとは思えない。
俺は考えた事を伝えると由香里が頷いた。
「大学でアムリタについて調べてみます」
由香里が通っている大学には、魔法薬に関する本のコレクションが有るらしい。その中にアムリタに関する情報が有るかもしれないというのだ。
パルミロが竜王の血を手に入れて高笑いしているかと思うと頭にくるが、警備用のシャドウパペットが居るので大丈夫だと安心した俺が悪かったのだ。
「パルミロは人脈を使って、圧力を掛けてくると思っていたのですが、一番直接的な方法を選んだようですね。意外です」
千佳の言葉を聞いて、アリサが反論した。
「パルミロは、日本の権力者に裏の顔を見せたくなかったのかも」
それを聞いて、俺も納得した。自分の弱みになる事を知らせたくなかったのだろう。日本人に『聖人と聞いていたが、我々と同じ俗物だね』とか思われたくなかったのだ。
「冒険者ギルドの幹部に報告した方がいいのでは?」
アリサの提案に頷いた。慈光寺理事に話しておこう。
翌日、東京の冒険者ギルドへ行って、慈光寺理事に会った。
「どうかしたのかね?」
「自宅に賊が入って、竜王の血が盗まれました」
「それは災難だったね。だが、冒険者ギルドと何か関係が有るのかね?」
「冒険者ギルドと聖パルミロは、何か関係が有りますか?」
「いや、ないな」
俺は聖パルミロとの
「信じられん。まさか聖パルミロがエセ聖人だったなんて。はあっ、しかもアムリタを欲しがっているとは」
「アムリタに何かあるのですか?」
「ダンジョンで発見された碑文の中に、神へ至る道という文章が有るのだが、その中に神になるには不老不死を得なければならないという言葉が有るのだ」
パルミロは神になろうとしているのだろうか? だが、ダンジョンが定義する神とはどんな存在なのだ?
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