第447話 ヴァースキ竜王との戦い(2)
俺たちは手順を打ち合わせしてから、配置に着いた。魔法無効の剣はギルベルトが使う事になった。俺は光剣クラウ・ソラスを出して、神剣グラムは仕舞う。
穴の近くまで来た俺は、そこで光剣クラウ・ソラスに魔力を注ぎ込み始める。まずフォトンブレードが形成され、イメージを太陽の紅炎に変えてから更に魔力を注ぎ込む。
光の剣だったフォトンブレードが、赤く染まりプロミネンスブレードに変化する。太陽の炎は核融合の炎なので高温であり、紅炎は一万度ほどになると本に書いてあった。
そんなものが近くに存在したら、熱で死んでしまうだろうが、この段階のプロミネンスブレードは、ほとんど熱を発していない。
プロミネンスブレードが三十メートルまで伸びた時、俺は周りを見回した。各国の冒険者は俺に注目していたらしい。プロミネンスブレードが三十メートルまで伸びると口を開けたまま驚いた顔で見ている。
俺はシェーカルに合図を送った。シェーカルがハッと正気を取り戻し、穴の中に『ドラゴンキラー』を叩き込む。その瞬間、穴の奥からヴァースキ竜王の叫び声が聞こえ、地面が揺れる。ヴァースキ竜王が動き出したのだ。
穴からヴァースキ竜王が這い出そうとしている。俺は走り出した。全速で走り穴から出ようとするヴァースキ竜王の九本ある首の中で、竜王障壁を管理していると思われる頭の首の付け根をプロミネンスブレードで斬り付ける。
プロミネンスブレードを形成していたエネルギーが斬り付けた箇所に集まり、鳴神ダンジョンで試した時以上の明るく熱い炎熱球が出来上がり、それが太陽のように輝き出す。
メティスが言っていたように、炎熱球には破邪の力も含まれており、魔法の障壁である竜王障壁も焼き焦がし破壊しようとする。
竜王障壁の内部に侵入しようとする炎熱球と、それを弾こうとする竜王障壁の力比べが始まった。竜王障壁に反応した炎熱球が、更に輝きを増して温度も高くなる。
俺は保温マントを被って避難する。とても近くには居られない熱気を感じたのである。その熱気と痛みをヴァースキ竜王も感じたようで、コールドブレスを炎熱球に吐き出す。
コールドブレスを浴びた炎熱球は、更に輝きを増した。
「どうなっているんだ?」
『たぶん、コールドブレスに含まれている魔力を吸収して熱に変えているのだと思います』
メティスが説明してくれた。メティスは魔力の動きを見えているかのように感知する鋭い感知能力を持っているので、魔力の流れを分析して答えを出したようだ。
「もしかして、光剣クラウ・ソラスは魔力を聖光エネルギーや熱エネルギーに変換する力を持っていたのか?」
『そのようです。私が『聖光』とか『破邪』のエネルギーだと感じたのは、魔力を別のエネルギーに変える力だったようです』
「道理で、魔力で動いているアンデッドが簡単に倒されるはずだ」
俺は光剣クラウ・ソラスに対する理解が一気に進んだように感じた。
そんな事を考えている間も、炎熱球と竜王障壁のせめぎ合いは続いていた。だが、ついに炎熱球が竜王障壁を破り、ヴァースキ竜王の肉体に触れる。
狙った首の付け根に炎熱球が潜り込み、竜王障壁を管理していた頭の首が焼け落ちた。ドサリと首と頭が地面に落ちて、竜王障壁が消える。
この瞬間、『討伐成功』という言葉が頭に浮かんだ。だが、ヴァースキ竜王のしぶとさを理解していなかった。火炎ブレスを吐いていた頭が、自分の体内にある炎熱球に齧り付いたのだ。
口の中が焼け爛れる事など構わず、肉と一緒に炎熱球を引き抜いた。
「嘘だろ……」
炎熱球を噛んで引き抜いた頭は、熱で脳を焼かれて死んだ。地面に倒れた首を別の頭が噛み切った。炎熱球が魔力を吸収しているのを感じたのだろう。
「攻撃しろ!」
シェーカルの叫び声が聞こえる。攻撃魔法使いたちは、『ドラゴンキラー』を発動して攻撃した。魔装魔法使いの二人も魔導武器の特殊能力を使って攻撃する。衝撃波を放つ魔導武器や雷撃を放つ魔導武器を持っていたようだ。
竜王障壁を失ったヴァースキ竜王は、その攻撃で大きなダメージを受けた。
『グリム先生。終わっては、いませんよ』
「分かっている」
『クラッシュボールⅡ』を発動しようとした時、ヴァースキ竜王の気配が変わった。
『用心してください。魔力の増大を感じます』
ヴァースキ竜王の残っている頭は七個。その七個の頭が同時に大口を開けた。それも俺に向かって開けたのだ。『クラッシュボールⅡ』をキャンセルして、『マグネティックバリア』を発動しD粒子磁気コアを首に掛ける。
急いで前面に磁気バリアを展開する。その直後、火炎ブレスでもコールドブレスでも超音波ブレスでもない何か別のものが、ヴァースキ竜王から撃ち出された。
それはビーム攻撃のように俺が居る一帯を薙ぎ払い、炎の海に変える。その攻撃は磁気バリアに衝突して、一瞬でD粒子磁気コアを消耗させた。
後〇.一秒でも攻撃を受けている時間が長かったら、磁気バリアは崩壊していただろう。俺は顔を引き攣らせながら、『デスクレセント』を発動しD粒子ブーメランをヴァースキ竜王に向かって放つ。
ヴァースキ竜王は魔力を絞り出してビーム攻撃のようなものを放ったらしく、ダメージと魔力欠乏で動きが鈍くなっていた。D粒子ブーメランが竜王の首に命中すると、空間振動波を放射しながら回転し三本の首を刈り取った。
残りの頭は、攻撃魔法使いたちによって二つの頭が破壊され、残りは魔装魔法使いたちによって首を刈り取られた。
その時になって、戦う前に不安になっていたものが何か分かった。タイ軍の爆撃機をどうやって落としたのか腑に落ちなかったのだ。
タイ軍の話では、空爆後に空中爆発したと言っていたので、火炎ブレスでも浴びたのかと思っていたが、爆撃機のパイロットも馬鹿ではない。ブレスが届く範囲を飛ばないはずだ。
但し、あの最後のブレスだけは別格だった。射程と威力が桁違いであり、あれなら爆撃機を落とせるだろう。
『地上に出た魔物というのは、消えないのですね』
メティスの声が頭に響いた。
「えっ」
俺がヴァースキ竜王へ視線を向けると、地面に死んだ魔物の巨体が横たわっていた。俺は吸い寄せられるように、ヴァースキ竜王の死骸へ向かって歩き始めていた。
それは他の冒険者たちも同じだったようだ。ヴァースキ竜王の死骸に集まったA級冒険者たちは、竜王の手触りを確かめた。周りは竜王の血で真っ赤に染まっている。
「竜王がダンジョンエラーを起こしたのか?」
ギルベルトが呟くように言った。
「ここはダンジョンじゃないぞ。地上に出た魔物は、消えてダンジョンに吸収されるという事はないんだ」
シェーカルが重要な情報を教えてくれた。
「本当なのか?」
俺が確かめると、シェーカルが頷いた。
「それより、ドラゴンで最も高価なものは、角だというから剥ぎ取って持ち帰ろう」
俺たちは頭を探して散った。九個の頭には小さな角があったのだ。俺は竜王障壁を管理していた頭から、角を剥ぎ取って回収した。
『この首を『コールドショット』で凍らせて、そのまま持ち帰ったらどうですか。それだけの権利は有ると思います』
シェーカルたちには後で言えば良いだろう。俺は『コールドショット』を使って首から頭までを凍らせて、収納アームレットに仕舞った。
この時は気付かなかったが、俺は竜王の血というアムリタの材料を手に入れた。倒してすぐに凍らせたので、新鮮な状態の血だった。
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