第430話 ラミア

 『鋼心の技』は、まず精神攻撃されているのに気付く事が第一歩になる。これは自分の精神に魔力を使った感知器を組み込む事から始まる。この感知器は魔力制御が一定以上の水準に達しないと作れないようだ。一応俺は水準に達していた。


 精神攻撃は、攻撃されていても分からない場合が多い。そこで精神に警報装置になる感知器のようなものを組み込んでおく、というのが基礎らしい。


 この魔力で形成する感知器は、何かに応用できそうで面白いと思った。次はガードの方法だが、これは精神の核に魔力障壁のようなものを築くというものである。


 これで初歩的な精神攻撃は防御できるようだ。『鋼心の技 基礎』を習得した俺は、第三遺跡へ向かおうと思ったが、暗くなったので第二遺跡で野営する事にした。


 エルモアたちと野営の準備をしていると、後藤のチームが来た。

「後藤さん、久しぶりですね」

「ああ、九州に遠征していたからな」


「そうらしいですね。収穫はありましたか?」

「まあな。福岡の小倉ダンジョンで、アクアドラゴンを倒して、魔導武器を手に入れたよ」

「おめでとうございます。さすがですね」


 後藤が笑ってから、鋭い視線をこちらに向ける。

「グリム先生も、しばらく鳴神ダンジョンへ来なかったじゃないか。遠征に行っていたのかい?」

「いえ、ある企業と共同研究をしていて、それで来れなかったんですよ」


 後藤が感心したような顔をする。

「へえー、生活魔法使いは、そういう事もするんだ」

「生活魔法を使ったアイデアを、企業が偶々興味を持ったんです。ところで、遺跡の調査は進みました?」


「いや、秘蹟文字の解読が進まなくて難航している。それに、この遺跡には隠し部屋も有るんで、調査も苦労しているよ」


 後藤が隠し部屋の事を教えてくれた。

「俺に教えてくれても、良かったんですか?」

「どうせ、冒険者ギルドに報告するんだ。ここで教えても同じ事だ」


「そういう事なら、俺もお返しに情報を出しますよ。そこの壁にある秘蹟文字の文章ですが……」

 俺は『鋼心の技 基礎』について教えた。どうせ冒険者ギルドには報告するので、構わないと思ったのだ。


 この先にラミアという魔物が居るのなら、『鋼心の技』は冒険者の命に関わる情報という事になる。ギルドに報告義務のある情報なのだ。


 後藤たちと一緒に野営して、翌日別れた。後藤に教えられた隠し部屋へ行くと、その部屋の壁に秘蹟文字の文章が刻まれているのを発見する。いくつかの文章があったが、その中で興味深いものを見付けた。シャドウパペットに使う塗料の作り方が刻まれていたのである。


『この方法で作れる色は、桜色と茶色ですか。エルモアに使えそうですね?』

「ああ、いいんじゃないか」

 俺は文章を記録して、隠し部屋を出た。


 次に第三遺跡へ向かう。途中で、ポーントレントと遭遇したが、クイントハイブレードで斬り倒す。十四層はポーントレントが多く、俺はD粒子ウィングで飛んで行く事にした。


 第三遺跡に到着し遺跡の内部を調査する。魔法文字でも秘蹟文字でもない、今まで発見されていなかった文字で書かれた文章が刻まれていた。


「近くにある絵は、三本の角があるドラゴンかな?」

『そうみたいですね。私の記憶にないドラゴンです』

「ここに刻まれているという事は、警告文なのか?」

『そうかもしれません』


 結局、何も分からなかった。仕方ないので、第四遺跡へ向かう。ここの遺跡は高い塔だった。七階ある塔の下の二階は調査したようだが、上の方は危険なので調査されていないらしい。


 二階から三階へ上がる階段が崩れているのだ。一階と二階は石橋たちが調べていた。挨拶して、俺も調べ始める。


「上の階は調べないんですか?」

 俺は石橋に尋ねた。

「一階と二階の調査結果が出てから、調べようと思っている。だいぶ脆くなっていて、床が抜けそうになっている場所も有るんだ」


 石橋が教えてくれた。それを聞いて、飛竜型シャドウパペットのハクロを使おうと考えた。ハクロは偵察型なので感覚共有機能付きソーサリーアイが組み込んである。


 感覚共有機能付きソーサリーアイは、サングラスのような表示装置に映像を映し出すタイプと直接頭の中に映像を映し出すタイプが有るが、ハクロのものは直接頭の中に映し出すタイプである。


 ハクロを影から出すと、石橋たちが珍しがって、指で突いたりする。

「へえー、こんなシャドウパペットもあるのか。皆が欲しがる気持ちも分かる」

 小さな飛竜型のハクロは、愛嬌のある顔をしているので可愛く見えるのだ。


 ハクロを三階へ飛ばす。頭の中に三階の光景が見えてくる。三階の壁には新しい文字の文章が刻まれていた。四階・五階・六階を調査したが、新しい文字の分析をしないと分からない。


 七階へ上がって壁を調査すると、秘蹟文字で階段の位置が刻まれていた。第四遺跡の入り口から右側の通路を進んだ先の行き止まりに隠し部屋があり、そこから階段へ行けるようだ。


 俺はハクロを呼び戻し影に戻すと、隠し部屋がある場所まで行った。壁の一部がボタンのようになっていて、そこを押すとガタガタと音を立てながら扉が開く。


 俺と一緒に付いて来た石橋たちが、『おおっ』という声を上げる。中は小さな部屋で、奥に階段が見えた。


「階段発見、おめでとう。さあ、十五層を見てみよう」

 石橋が声を上げた。俺たちは階段を下りて、十五層に到着する。


 十五層は岩山が連なる荒野だった。岩山の間が谷になっており、それが迷路のように広がっている。

「攻略に時間が掛かりそうなエリアだな」

 石橋が眉間にシワを寄せている。岩山には洞穴のようなものが、いくつも口を開けている。その一つ一つを調査するとなると、時間が掛かるだろう。


 試しに一番近い洞穴に入ってみた。幅三メートル、高さ四メートルほどの穴がかなり奥まで続いているようだ。洞穴は暗いので暗視ゴーグルを出して装着する。奥へと進むと大きな部屋に辿り着いた。


「魔物だ!」

 石橋の声が響く。巨大な蛇かと思ったが、頭の部分に人間の上半身のようなものが付いている。十四層の遺跡に有ったラミアである。


 人間の上半身みたいだったものが、悲しそうな顔をした絶世の美女に変化していた。石橋たちはラミアの姿に驚き、魅了されたように動きを止めている。


 俺も構えただけで攻撃できずにいた。何で、そんなに悲しそうな顔をしているのだろうと、考えていたのだ。その時、頭の中で『チリン、チリン』と音が響いた。この音は何だ? そうだ、精神攻撃の警告音だ。俺は『鋼心の技』のスイッチを押した。


 その瞬間、精神の核に障壁が構築される。すると、絶世の美女に見えていたラミアの上半身が崩れて、元の人間の上半身みたいなものに変化する。


「これが精神攻撃かよ」


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