第421話 武器庫の宝箱

 スケルトン要塞の武器庫で戦っているアリサたちは、魔法が無効化されて焦っていた。ただ絶望はしていない。まだ試していない事が多く残っていたからだ。


 千佳は雷切丸の【瞬斬】を試してみる。雷切丸に魔力を流し込み、魔力の刃をスケルトンジェネラルの顔を目掛けて振り抜いたのだ。スケルトンジェネラルは身体を捻って鎧の肩の部分で受け止める。


 残念ながら、魔力の刃は消え去りダメージを与える事ができなかった。スケルトンジェネラルがまた顎の骨をカクカクと動かしながら千佳を目掛けて戦斧を振り下ろす。その戦斧を千佳がぎりぎりで躱す。


 千佳はグリムから【超速視覚】の技術を学んでおり、戦斧の軌道が見えていた。完全に習得した訳ではなかったが、スケルトンジェネラルの動きくらいなら見える。


 その動きを見ていて天音は凄いと思った。グリムが同じ事をしているのを見ているが、グリムは特別だという意識が強いので凄いと感じるより、グリムだからと思ってしまう。


 だが、千佳は天音と同じ普通の冒険者である。剣術を子供の頃から修行していたという経験はあるが、こんな動きができるほどの実力はなかったはずだ。


 天音はグリムが持つ技術を手に入れたいと思った。厳しい修行になるかもしれないが、本当に欲しいと思ったのだ。


 但し、今は『不動明王の指輪』を使い熟せるようになるのが先である。指輪に魔力を流し込んだ天音は、雪刃鎚を握り締める。雪刃鎚の重さは一キロほどあるが、『不動明王の指輪』に魔力を流し込んだ時に感じる重さは、ボールペンほどの重さにしか感じない。


 千佳に注意を向けているスケルトンジェネラルの背後に回り込んだ天音は、その雪刃鎚を骨だけとなっている膝関節の裏に叩き込んだ。


 爆発したような音が響き膝関節が砕け散る。よろけたスケルトンジェネラルがもう一方の膝を突いた。それをチャンスだと感じた天音は、スケルトンジェネラルの頭に向かって跳躍し頭蓋骨を雪刃鎚で叩いた。衝撃で頭蓋骨が首の骨から外れて、アリサに向かって飛んだ。


 アリサは叫び声を上げて避けた。巨大な頭蓋骨が飛んできたので、反射的に避けたらしい。転がった頭蓋骨が由香里の足元に落下。由香里は頭蓋骨が被っているヘルメットを外した。そして、頭蓋骨を砕いて仕留めようとした時、頭蓋骨の顎がカクッと動いて転がる。


 転がった頭蓋骨に向かって、アリサがクイントバーニングショットを発動しD粒子放熱パイルを放つ。頭蓋骨の脳天部分にD粒子放熱パイルが突き刺さり大きな穴を開ける。その一撃が致命傷になりスケルトンジェネラルの巨体が消えた。


「最後はあっさりと終わったな」

 千佳が呟くように言うと、他の三人が頷いた。

「天音、凄いじゃない」

 由香里が声を上げると、天音は首を振った。

「凄いのは千佳よ。スケルトンジェネラルの攻撃を引き受けてくれたから、攻撃できた」


 アリサが頷いて千佳を称賛した。

「魔法が効かない魔物を倒す方法を、考えないとダメね」

「グリム先生には『プロジェクションバレル』が有るけど、あれは魔法レベル19じゃないと取得できないから」


 由香里の言葉に天音が頷いた。生活魔法の才能が『C』の天音や『D+』の由香里には、習得できないのだ。


「攻撃魔法には、そういう魔法はないの?」

 天音が由香里に尋ねた。

「そうね。『フレアバースト』や『メガボム』なら倒せるかも」

 『フレアバースト』なら直接相手に命中させなくても、炎で取り囲んで熱で倒すという事はできそうだ。『メガボム』は爆発で周りの土砂を敵に浴びせ、爆風でダメージを与えられるだろう。


 千佳が割り込んで話を中止させた。

「まず、宝箱を確かめよう」

 という事で、アリサたちは宝箱を確かめた。中に入っていたのは、金属製の棒とチャクラムだった。アリサが鑑定すると、金属製の棒は不動明王の眷属である制多迦せいたか童子どうじの武器である『金剛棒』だという。


 この金剛棒の形状は六角柱であり、長さ百二十センチの中で先端二十センチほどが螺旋状に捻れていた。その捻れた部分は角がドリルの刃のように尖っている。重さは二キロほどだろう。間違いなく魔導武器であるが、ランクや特殊な力は不明だった。


 もう一つのチャクラムとか円月輪と呼ばれる武器は、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌが使う『スダルシャナ』という投擲武器のようだ。投げると高速で飛翔し敵を切り裂いて戻って来る武器らしい。


「へえー、不動明王の眷属が使う武器という事は、天音が使うのがいいかな」

 千佳が金剛棒を天音に渡す。天音は嬉しそうに金剛棒を手に取った。


 アリサも納得して頷き、スダルシャナを由香里に渡す。

「私と千佳は、魔導武器を手に入れているから、これは由香里が使って」

「ありがとう。使い熟せるかな?」

「それは練習するしかない」


 その後も要塞の部屋を一つずつ探して宝箱を見付けたが、ほとんどの宝箱は空だった。他の冒険者が探し当てて中身を回収したようだ。武器庫の宝箱は倒す相手がスケルトンジェネラルだったので、敬遠されたのだろう。


 ちなみに、エスケープボールが入っている宝箱は、割と早めに復活するのだろうという話だ。

 一階の探索が終わり、二階へ行くと残念な状況が待っていた。ほとんどの宝箱は空で、スケルトンナイトを倒しても魔石を回収しただけだったのである。


 そして、スケルトンエンペラーの部屋に辿り着いた。スケルトンジェネラルより強い魔物がスケルトンエンペラーという事になっているが、実は残念な魔物だった。


 このスケルトンエンペラーは体長五メートルという巨体で、金糸や銀糸で刺繍を施された豪華な服を着ていた。ところが、その服は豪華なだけで防御力が青トカゲの革鎧程度でしかなかったのだ。もちろん、魔法を無効化するような機能もない。


 但し、スケルトンエンペラーはスケルトンナイトを召喚する能力を持っており、好きなだけ召喚できたので冒険者たちからは嫌われていた。


 ただ早撃ちを得意とする生活魔法使いが相手だと、スケルトンエンペラーは弱かった。召喚したスケルトンナイトを片っ端から倒され、『クラッシュボール』や『クラッシュボールⅡ』の集中攻撃に遭うと簡単に倒れてしまった。


「エンペラー、弱っ」

 天音が戦った感想を言う。アリサは苦笑して宝箱へ近寄る。『トラップ・アナライズ』で罠をチェックしてから、蓋を開ける。


 中にはオーク金貨と宝石が詰まっており、金貨の数は二千枚以上ありそうだった。そして、宝石の数は少なかったが、良質な宝石ばかりである。

 これらを換金すれば、五億円ほどになるだろう。


 目的のものを手に入れたアリサたちは、地上へ戻る事にした。


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