第420話 スケルトンジェネラル

 アリサたちは迷路を分かれ道のところまで戻り、今度は右へ向かって六層へ下りた。六層は砂漠エリアであり、アリサたちの目の前には乾いた土地が広がっている。


「ここはホバービークルで行きましょう」

 アリサが提案した。ホバービークルは二機作製し、一機はアリサたちが運用している。

「ここに棲み着いている魔物は、確かサンドウルフとデビルスコーピオンだよね?」


 天音の質問にアリサが頷いた。

「但し、サンドウルフの上位種であるデザートウルフも居るかもしれないという情報よ」


 デザートウルフは体長が五メートルもある巨大狼である。その爪による攻撃は凄まじい威力が有るらしい。


「遭遇したら、どうする?」

 由香里が確認した。

「デザートウルフは、ほとんど魔石しか残さないというから、遭遇したら逃げる」

「えっ、逃げちゃうの?」


 由香里が意外だという顔になる。これだけの戦力が有れば、倒すのは難しくないと思ったのだ。

「ここのデザートウルフは、戦いの時に配下のサンドウルフを呼び寄せるらしいの」

 集団で囲まれると面倒だから、逃げるという判断である。


「千佳、お願い」

 アリサが千佳にホバービークルを出すように頼んだ。千佳が持つ収納ペンダントが、四人の持つ収納魔導装備の中で一番大きな容量を持っていた。なので、ホバービークルは千佳が預かっていたのだ。


 千佳がホバービークルを出すと四人が乗り込んだ。操縦するのは由香里である。全員が操縦できるのだが、一番操縦が上手いのは由香里だったからだ。


 砂漠の上をホバービークルで飛んでいると、デビルスコーピオンと遭遇した。戦うより進む事を優先させたので、大きく避けて通過する。


 順調に進んでいると、デザートウルフに遭遇。打ち合わせ通り由香里は、デザートウルフを避けて通り過ぎようとした。だが、ホバービークルに気付いたデザートウルフが前に回り込もうと全力で疾駆する。


 デザートウルフはアリサたちの予想よりスピードがあり、前に回り込まれてしまう。デザートウルフは跳躍し、ホバービークルに飛び掛かった。


 全員がプッシュ系の魔法で迎え撃つ。千佳とアリサが『ティターンプッシュ』を放ち、天音と由香里が『サンダーバードプッシュ』を放つ。


 四つのプッシュ系魔法で迎撃されたデザートウルフは、宙を舞った。三トンを超える体重が有るデザートウルフは、縦回転しながら飛び、鼻先から地面に叩き付けられる。


 その衝撃でデザートウルフの首があり得ない方向に曲がる。だが、魔物の生命力は凄まじく、ひ弱な人間のように簡単には死なない。


 デザートウルフは即座に起き上がって、獲物を追おうとする。だが、激痛で動けなくなった。死ななかったが重度の頸椎捻挫けいついねんざ、即ち鞭打ちとなったのである。


「アリサ、追って来ないね」

 天音が不思議そうな顔で声を上げた。

「そうね。珍しく諦めたのかな」

 魔物が鞭打ちになっているとは、思いもしなかったアリサたちだった。


 六層を通過したアリサたちは、七層の森林エリア、八層の湖エリアを通り過ぎ九層へ到着する。九層は冒険者ギルドの資料で調べた通り廃墟の町だった。アリサたちは徒歩で進み始める。


「ここにはファントムやレイスが居るから、気を付けて」

 実体を持たないファントムやレイスは、聖属性を付与されていない剣や槍では倒せない。さらには普通の魔法でも倒せないので厄介なのだ。


「基本的にファントムやレイスだったら、由香里に任せるから、生命魔法で倒してね」

 アリサが指示した。由香里に生命魔法で倒させる事で、魔法レベルを上げようという指示だ。魔力の消費を気にしないのなら、全てのアンデッドを倒させるのだが、そんな事をしたら由香里の魔力が尽きてしまう。


 屋根が崩れ落ち壁に大きな穴が開いている家々を見ながら通りを進むと、要塞が見えてきた。スケルトンエンペラーが支配している要塞で、数多くの宝箱が有るらしい。


 要塞に近付いて観察すると、要塞の壁も所々に穴が開いている。鉄製の門は閉まっているが、一階の壁に穴が開いているので、そこから入る事ができる。


 中に入ったアリサたちは、通路を進み各部屋をチェックする。一階には兵士が使っていたと思われる部屋がいくつもあった。こういう部屋にはほとんど宝箱はないようだ。


 アリサたちは朽ち果てたドアから中を覗いて、『またか』という顔をする。中にはスケルトンナイトが槍と盾を持ってうろうろしていたからだ。


「次に行こう」

 千佳が言うと、天音が止めた。

「待って、あれは宝箱じゃない?」

 天音が指差す方向を見ると、部屋の隅に小さな宝箱があった。片手で持ち上げられるほどの大きさだが、形は完全に宝箱である。


 千佳が中に入って、雷切丸の一閃でサクッとスケルトンナイトを倒してから、宝箱を確認した。

「あっ、エスケープボール」

  天音が宝箱に入っていたエスケープボールを掴んだ。それ以降、小さな宝箱を発見してエスケープボールを手に入れる事が続いた。


 そして、ついに大きな宝箱のある部屋に辿り着いた。その部屋は武器庫だったようで、朽ち果てた槍や剣が散乱しており、戦斧を持ったスケルトンジェネラルが待ち構えていた。身長四メートルほどで立派な鎧を装備している。


 巨人族のスケルトンなのかもしれない。四人が気になったのは鎧だった。鎧から魔力が感じられ、魔導装備だと分かったからだ。スケルトンジェネラルが顎をカクカクさせている。


「あれは何だと思う?」

 由香里の質問に、天音が首を傾げながら、

「たぶん、笑っているんじゃないかな」

 そう言った瞬間、戦いが始まった。戦斧を振り上げたスケルトンジェネラルが素早く踏み込んで、千佳に戦斧を振り下ろす。


 その戦斧を左にステップして躱した千佳は、雷切丸でスケルトンジェネラルを斬り付ける。鎧に当たった雷切丸の切っ先が金属音を発して鎧の表面を滑った。


 スケルトンジェネラルの鎧は、ラメラーアーマーと呼ばれているものだった。ドラゴンの鱗のようなものを紐で繋ぎ合わせたもので、光の当たり方によって虹色に輝いた。また頭には同じ素材のヘルメットやレッグガードを使っているようなので防御力は高そうだ。


 千佳が跳び退くと、すかさずアリサが五重起動の『サンダーバードプッシュ』を発動し稲妻プレートをスケルトンジェネラルに放つ。その稲妻プレートがスケルトンジェネラルの鎧に命中して消滅する。スケルトンジェネラルはダメージを受けた様子もなく戦斧を振り回す。


 その戦斧が空振りして要塞の壁に命中した。巨大な斧の刃が壁に食い込み大きな傷を刻み込む。スケルトンジェネラルが力任せに斧を引き抜くと壁がガラガラと崩れた。ゾッとするような威力である。


 由香里が連続で『クラッシュボール』を発動しD粒子振動ボールをスケルトンジェネラルに向かってばら撒く。D粒子振動ボールがスケルトンジェネラルの鎧に命中して消滅した。


「どういう事?」

 驚いて声を上げた由香里が退いたので、天音と千佳が前に出て戦い始める。由香里の声を聞いたアリサは、冷静に考えて結論を出した。


「邪神と同じで、魔力を剥ぎ取っているのかも」

「それじゃあ、魔法は効果がないという事?」

「そうね。ホバーキャノンがないから、邪神戦の時のような戦い方はできないし、鎧がカバーしていない顔を狙うしかないかな」


 由香里が攻撃の準備を始めた時、天音が下がって来た。

「ちょっと試したい事が有るんだけどいい?」

「何を試すの?」

 アリサが確認すると、天音は『不動明王の指輪』を見せた。パワーを使って状況を打ち破ろうと考えたようだ。


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