第379話 邪神と偵察

 後藤の一報で邪神復活を知った冒険者ギルドは、A級冒険者に討伐を依頼する事にした。


 近藤支部長からの連絡で、俺は冒険者ギルドへ向かう。たぶん鳴神ダンジョンの十三層で何かあったのだろうと見当をつけて行くと、鳴神ダンジョンで活動しているA級全員が揃っていた。


「これで全員揃ったな」

 近藤支部長が英語で話し始めた。モンタネールやサムウェルが居るからだろう。たぶん長瀬も英語は分かるのだ。英語を勉強しておいて良かった。


 俺は支部長に鋭い視線を向けた。

「A級冒険者を集めて、何事です?」

 近藤支部長が渋い顔をして話し始める。

「十三層の神剣グラムを抜いた者が居る」


「そいつは生きているのか?」

 長瀬の質問に、支部長が否定するように首を振る。

「グナワン、ハルタント、シャハブというC級冒険者が鳴神ダンジョンに潜って、戻っていないという連絡があった。たぶん復活した邪神に殺されたのだと思われる」


「C級冒険者が、なぜ邪神という大物に手を出そうと思ったのだ?」

 サムウェルが不思議そうな顔をしている。

「決まっている。神剣グラムというお宝に目がくらんだというだけの事だ」

 モンタネールが答えてから鼻で笑う。


 俺は邪神というのが、どんな化け物か気になったので尋ねた。

「巨大な蜘蛛だと報告があった。全長三十メートルほどもあるらしい」

 支部長が後藤たちが目撃した巨大蜘蛛の邪神について伝えた。


「後藤君たちの報告では、巨体なのに素早い動きをする化け物だったようだ」

 蜘蛛ならアラクネのように糸を飛ばすのだろうか、一度偵察に行くべきだな。


「ワーベアの街は、どうなったんです?」

「後藤君たちが居る間は、まだ無事だったらしい。ただワーベアたちは街を捨てて山へ避難したようだ」


 普通の反応だな。ワーベアたちは邪神の下僕という訳ではないようだ。ワーベアたちが邪神の下僕で、自分たちでは抜けない神剣グラムを誰かが抜くのを待っているという事もあり得ると思っていたが、違うようだ。


 支部長が邪神を倒せる自信のある者は居ないかと質問した。それを聞いてサムウェルが苦笑する。

「それを聞く段階ではないな。まだ邪神の正体も分からず、強さも判明していないのだから」


 支部長が溜息を漏らす。

「そうだな。当然の事だ」

 支部長は、十三層を封鎖する許可を冒険者ギルドの本部に申請しているらしい。ただ許可が下りるのには時間が掛かるようだ。邪神の正体が分からないうちは、簡単にA級で対処できるという可能性も否定できないからである。


 近藤支部長が邪神の正体について調べると約束した。その日は解散する事になり、長瀬とモンタネール、サムウェルが先に帰る。俺も帰ろうとした時、支部長に呼び止められる。


「率直に答えて欲しいのだが、神が居ると信じているかね?」

 その質問を聞いて、俺は笑った。

「全知全能の神というなら、信じていません。ただ人間よりも力があり、進んだ文明を持つ存在は居るだろうと考えています」


「グリム君らしい答えだ。君のような冒険者なら、邪神と呼ばれている魔物を倒せるかもしれんな」

 宗教心が強い者だと、邪神を倒す事をためらうかもしれないと支部長は考えたようだ。


 俺は支部長と別れてから屋敷に戻った。作業部屋でボーッとしながら、邪神という存在について考える。


 邪神とはどれほどの存在なのだろう? 邪神と言っても蜘蛛の神『アトラク=ナクア』の従者らしいから、本当の神ではないのかもしれない。


 神の従者を倒したら祟られそうだけど、倒しても大丈夫なものなのだろうか? まあ、調査をしてからでないと倒せるかどうかも分からない。それにダンジョンが創り出した神だ。祟りとかはないだろう。


 俺が十三層に偵察へ行く準備をしていると、アリサと千佳が一緒に行きたいと申し出た。邪神という存在を見てみたいそうだ。


 天音と由香里は、大学での勉強や研究が忙しいらしい。天音が手に入れた魔導書に載っていた『フォーストブレーキ』という魔法が、魔導職人の間で話題になり、大学の教授たちも興味を持ち共同研究を始めたという。


 由香里は医学の勉強をして『医療魔法士』という資格を取るために頑張っているようだ。医療魔法士は医者ではないが、医療が行える資格である。


 その二人に比べると、アリサと千佳は暇があるらしい。という事で、俺たち三人は一緒に鳴神ダンジョンへ潜り、十二層の砂漠エリアまで来た。


「先生、ホバーキャノンは完成したんですか?」

 ホバーキャノンに興味が有る千佳が質問した。

「完成したよ。試射もしてみたけど、問題ないようだ。見せようか?」

「お願いします」


 収納アームレットからホバーキャノンを出して、『プロジェクションバレル』を発動する。磁気発生バレルをホバーキャノンに接合すると完成である。


 二人に扱い方を教えると、ホバービークルと同じなので操縦方法はすぐに理解した。だが、照準装置や給弾装置の扱いは、細かく説明する必要があり時間が掛かる。


 その時、三体のサンドギガースが近付いてきた。

「おっ、いい標的が来た。あれを標的にして試し撃ちするといい」

「いいんですか?」

 千佳とアリサがホバーキャノンに乗り込んだ。砲弾は九発装填されているので十分だろう。千佳が砲手でアリサが操縦手らしい。


 俺は時間切れで消えそうな磁気発生バレルを交換してからホバーキャノンを送り出した。アリサは手間取る様子もなくホバーキャノンを操縦している。ホバービークルを操縦した経験が有るので戸惑いはないようだ。


 千佳は先頭のサンドギガースに照準を合わせて引き金を引いた。狙ったサンドギガースより右上に逸れ、砂丘に命中して爆発する。


 照準装置を調整した千佳は、もう一度照準を合わせて引き金を引く。極超音速で飛び出した砲弾が、サンドギガースに命中して爆発、横に並んでいたサンドギガースも一緒に吹き飛んだ。


 一体だけになったサンドギガースは、ホバーキャノンを目掛けて走り出す。千佳はサンドギガースに狙いを付けると引き金を引いた。発射された砲弾はサンドギガースの胸に命中して爆発し砂で出来た体を粉々に砕いて仕留める。


 操縦手と砲手の息が合っているようだ。俺はすぐに使い熟せるようになるとは思っていなかったので、少なからず驚いた。


「あれは魔石リアクターじゃないか。運がいいな」

 魔石と魔石リアクターを拾うと、戻ってきた二人に渡す。

「ありがとうございます。ホバーキャノンはいいですね」

 千佳が目を輝かせている。どうやら気に入ったようだ。


 俺たちは十二層を通過して、十三層に下りた。そして、破壊されたワーベアの街を見る事になる。邪神によって破壊されたのだろう街は、無残な姿を晒している。


「あ、あそこを見てください」

 アリサが珍しく大声を上げる。その指の先には、邪神の姿があった。ドラゴンよりも巨大で、何か禍々しい感じを覚える存在が平原を動き回っている。


 アリサと千佳は顔を青褪めさせ見詰めていた。俺も恐怖を覚え、身体が固まる。邪神とはそれほどの存在だったのだ。


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