第366話 バジリスクゾンビ討伐の宣伝効果

 『ファイアワークアロー』を発動して、虹色に輝く矢を上空に打ち上げた。この魔法は賢者審査会で作らされた魔法である。


 その輝く矢を見た『心頭滅却』チームが、中ボス部屋へ来た。

「グリム先生、感謝します。これで元のように探索活動ができます」

 熊本に礼を言われた。

「俺は『知識の巻物』が欲しかっただけですから、礼は必要ないです」


 北川が辺りを見回した。

「ドロップ品は、回収したんですか?」

「もちろん、後は中ボス部屋を覗いてから帰るだけです」

 俺たちは中ボス部屋に行った。石造りのドーム状建物で、中を覗くと巨大なスケルトンが黄金色の鎧と兜、それに大剣を持って立っていた。


 部屋の入り口から顔を引っ込めると、熊本たちと相談する。

「中ボスが復活している。どうしますか?」

 熊本がニヤッと笑う。

「あれはミノタウロススケルトンです。倒しましょう」


「俺はちょっと疲れたので、中ボスは譲ります」

「そうですか。じゃあ、おれたちだけで始末します」

 そう言った熊本を先頭に『心頭滅却』チームが中ボス部屋に入った。


 疲れているのは事実だが、もう一戦できないというほどではなかった。戦いに参加すれば、主導権を俺が握って戦う事になる。ここは案内してくれた礼として、獲物を譲ろうと思ったのだ。


 熊本たちとミノタウロススケルトンの戦いが始まった。三人の魔装魔法使いが魔導武器でミノタウロススケルトンにダメージを与え、攻撃魔法使いが大威力の魔法で大きなダメージを与えるという戦いになった。


 ミノタウロススケルトンの装備している鎧と兜は、俺も持っている『身躱しの鎧』と同種のものらしい。熊本たちが攻撃しても中々致命傷を与えられなかった。


 熊本たちは集中的に足を狙う事にしたらしい。二本の骨だけの足が切り刻まれ、ミノタウロススケルトンは倒れた。熊本が魔導武器の刃をミノタウロススケルトンの首に滑り込ませて首の骨を断ち切った。


 頭が転がり落ちて、北川の足元まで転がる。それを拾い上げた北川が兜を外そうとする。首から下のミノタウロススケルトンが、北川に向かって大剣を振り回す。


 避けようと後ろに跳躍した北川の手から、兜が外された頭蓋骨が滑り落ちる。その頭蓋骨をミノタウロススケルトンの手がキャッチする。


 その瞬間、熊本の剣が頭蓋骨を断ち割った。ミノタウロススケルトンの動きが止まって消える。

 ミノタウロススケルトンのドロップ品は、上級治癒魔法薬と伝説級の魔導武器で『シャルーア』と呼ばれる鎚矛つちほこ、それにオーク金貨が入った袋だった。


 バジリスクゾンビの方がずっと手強かったのに、ミノタウロススケルトンのドロップ品の方が豪華なように感じる。と言っても、『知識の巻物』の価値は、それを使った時にどんな知識を得るかで変わるので、どちらが豪華だったかは判断できない。


 俺たちは地上に向かって戻る事にした。

 地上に戻り支部長に報告するために冒険者ギルドへ向かう。ギルドに入り受付で支部長に会いたいと言うと、外出中なので少し待って欲しいと言われた。


 待合室で待つ事にする。『心頭滅却』チームが待合室に居る冒険者たちへバジリスクゾンビ討伐の件を話し始めた。


「やっとバジリスクゾンビが倒されたのか、倒したのは長瀬さんか?」

「情報が古いんだよ。長瀬さんは嵐山ダンジョンのダンジョンボスを倒した時の怪我で入院しているよ」

 北川が首をゆっくりと振りながら言う。

「だったら、誰なんだ?」


 北川が自慢そうに胸を張った。

「A級の生活魔法使い、グリム先生だよ。瞬殺じゃなかったが、かなり短時間で倒したんだぞ」

 北川たちは『プロジェクションバレル』の爆発音で戦いの始まりを知り、虹色の矢で戦いの終わりを知った訳だが、短いと感じたようだ。


 話している北川の傍に大勢の冒険者たちが集まった。

「しかし、生活魔法でバジリスクゾンビを倒せるものなのか?」

「生活魔法で、バジリスクゾンビの後ろ足を吹き飛ばして、最後には魔導武器で頭を真っ二つにしたらしい」


「魔導武器か、A級が持っているものなら、神話級かな」

「一度実物を見てみたいな」

 冒険者たちの間では、A級が持つ魔導武器は神話級というのが常識になっているようだ。こういう言葉を聞くと、A級の長瀬がどうしても神話級の魔導武器を欲しいと思ったのも無理はないと納得する。


「魔導武器はともかく、生活魔法でバジリスクゾンビを吹き飛ばしたというのは凄い。俺も習おうかな」

 生活魔法の才能が『D』である冒険者が言い出した。

「そうね。私も習おうかな。グリム先生の若いお弟子さんが、C級になったと聞いたし、グリム先生だけが強くなるという訳じゃないらしいから」


 その言葉が聞こえてきた俺は、心の中で『いいぞ』と声を上げた。その後、俺のところにも話を聞きたいという冒険者が来て大騒ぎとなる。


 そこに支部長が帰ってきたという報せが聞こえた。俺は集まった冒険者たちに報告に行かなきゃならないと言って支部長室へ行く。


 中に入ると支部長がニコニコしているのが目に入った。

「さすがはA級冒険者。長瀬君が嵐山ダンジョンで大怪我をしたと聞いた時は、バジリスクゾンビ討伐が遅くなるかもしれないと覚悟したが、御蔭で助かりました」


「バジリスクゾンビを倒すのに、最適な武器を手に入れたので倒せたんです」

「ほう、それはどんな魔導武器か聞いてもいいですか?」


 A級冒険者なら、神話級の魔導武器を持つのは当然と思われているようなので隠す必要はないと判断した。長瀬も神話級の魔導武器を手に入れたようなので、羨ましがられる事もないだろう。俺は光剣クラウ・ソラスを所有していると教えた。


「……光剣クラウ・ソラスですと、それは凄い。まさに対アンデッド用の武器ですな」

 支部長の話によると、神話級と呼ばれる魔導武器の中でも優劣が付けられており、メジャー・トリプルA・ダブルA・シングルAに分かれるようだ。


 この分け方は名前が有名だからというのではなく、威力を比較して分けるらしい。光剣クラウ・ソラスがどれに該当するかは、まだ分からない。


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