第351話 面倒な性格
俺とエルモアはホバービークルに乗って救出に向かった。
『あの装甲車に乗っているのは、誰でしょう?』
「まだ遠いから分からないな。でも四人組のチームらしい」
装甲車の攻撃魔法使いが、ランニングスラッグの群れに向かって大規模な爆発系魔法を放った。その魔法により多くのランニングスラッグが吹き飛ぶ。
その冒険者たちは、たった今出来たばかりの包囲網の穴から脱出しようとする。だが、彼らの予想以上にランニングスラッグの移動速度が早かったのだ。
包囲網の穴はランニングスラッグたちが素早く塞いでしまう。
「クソッ、ダメじゃねえか」
「何とかならないのか?」
「こうなったら、全滅させるしかない。全部、吹き飛ばすぞ」
攻撃魔法使いたちがランニングスラッグに爆発系の魔法を放ち始めた。このチームは攻撃魔法使いだけで構成されているらしい。
チームとしては攻撃魔法使い・魔装魔法使い・生活魔法使いが揃っていた方が良いが、戦術を工夫して攻撃魔法使いだけでも強い魔物を倒せるようなチームを編成できる。このチームはそういうチームを目指して結成されたようだ。
面白い事に、チームには鉄心の同級生だった清水も参加している。ゴーレムコアを手に入れた後、チームとなるメンバーを探して結成したのだ。鉄心たちとの探索で、ソロで活動する事が不安になったのである。
攻撃魔法を放ち続け、何匹ものランニングスラッグを爆死させた。そのせいで多くの魔力を消費して、四人とも残りの魔力が少なくなる。
そこに駆け付けたのが、俺だった。ランニングスラッグの包囲網の外から大声で確認する。
「おい、手助けが必要か?」
攻撃魔法使いたちが俺を見付けて、大声で救援を頼んだ。
「さて、どうやって助けよう」
『疲れておられるようですので、七重並列起動で『ガイディドブリット』を発動して、一気にランニングスラッグを片付けるべきだと思います』
メティスは短期決戦で勝負をつけるべきだと言う。戦いが長引くと疲れでミスをしそうなので従う事にした。
七重並列起動で『ガイディドブリット』を発動し、七つのD粒子誘導弾が空中に形成させる。それぞれに別々のランニングスラッグの頭を標的に割り当て放つ。
七匹ずつ片付けて一気にランニングスラッグの数を減らした。途中でランニングスラッグたちが俺に気付いて襲ってきたが、『ガイディドブリット』で返り討ちにする。
手がないランニングスラッグは、D粒子誘導弾を弾いて軌道を逸らす事もできずに消えていった。ランニングスラッグの数が減り、その包囲網に穴が開くと攻撃魔法使いたちが俺の方へ走ってきた。故障した装甲車はマジックバッグか何かに仕舞ったようだ。
「こいつに乗れ」
俺は攻撃魔法使いたちをホバービークルに乗せると、ランニングスラッグを置き去りにして蟠桃の森へ向かう。ランニングスラッグは蟠桃の森へは近付かないからだ。
「ありがとうございます」
攻撃魔法使いの村木が礼を言う。他の三人は疲れ果ててホバービークルの座席でグッタリしている。ホバービークルは五人乗りなので、エルモアは俺の隣で立ったままランニングスラッグの群れを観察していた。
「私は村木と言います。こっちが清水・遠藤・佐伯です」
「俺は榊、隣りで立っているのはシャドウパペットのエルモアです」
四人とも俺より年上である。冒険歴も長いはずだ。
「もしかして、グリム先生ですか?」
村木が尋ねると、グッタリしていた清水が顔を上げる。
「そうです。A級のグリムです」
榊という名前で『グリム先生』という通称が出て来るのは珍しい。榊という名前はあまり広まっていないからだ。
蟠桃の森に到着し攻撃魔法使いたちを降ろす。
「この乗り物は、何です?」
清水が質問の声を上げた。知りたくてうずうずしていたようだが、チャンスがなくて言い出せなかったようだ。
「これはホバービークルという乗り物です」
「どうやって浮いているんです?」
「魔力を使って浮いている魔道装置の一種ですね」
清水が首を傾げた。そんなものの存在を聞いた事がないからだろう。俺が作ったのが最初だから、聞いた事がないのは当然だ。
「ところで、装甲車は直せますか?」
俺が質問すると、村木が収納ブレスレットから装甲車を取り出した。ボンネットを開けてエンジンを確認する。
「穴に落ちた衝撃で、配線の一部が外れただけのようです」
それなら直せるだろう。俺は村木たちと別れて階段近くの森に戻る事にした。ダンジョンは暗くなり始めており、急がないと。
「一緒に野営しないんですか?」
俺がホバービークルに乗り込んで離れようとすると、清水が尋ねる。
「ええ、階段のところの森で野営する予定なんです」
「ここで一緒に野営してはどうです。いろいろ聞きたい事があるんです」
それが嫌だから離れようとしているのだ。俺は予定が有ると言って、攻撃魔法使いたちを置いてホバービークルを飛ばし始めた。
『あの装甲車、かなり急いで作ったようですね』
「たぶん、普通の四輪駆動車を補強して、装甲を追加しただけのものだろう」
元になった車は外国製のようだ。装甲車にするには日本の車は剛性が足りないと聞いた事がある。
俺は階段の近くで一泊し、翌日もサンドギガース狩りをした。それで四個の魔石リアクターを手に入れて、合計で八個になった。これで十分だろう。
地上に戻るために十一層に上がり、蟠桃の森に寄った。一個でも熟した蟠桃が有れば採取しようと思ったのだ。
蟠桃の森に近付き、ホバービークルを収納アームレットに仕舞い歩いて近付く。森の近くで清水たちが野営していた。驚いた事に、彼らだけでなくA級のサムウェルもだ。週刊冒険者に載っている写真で顔だけは知っている有名人である。
「A級のサムウェル氏ですね」
俺は英語で話し掛けた。
「君は誰だ?」
「A級のサカキ・グリムです」
サムウェルが俺に値踏みするような視線を向ける。
「確か生活魔法使いの冒険者だったな。後ろに立っているのは何だ?」
「シャドウパペットのエルモアです」
「ほう、シャドウパペットの技術は日本の方が進んでいるようだ。だが、そんな人形を頼っているようでは、冒険者として一流とは言えんな」
この辺は考え方の違いだろう。
『この人、何だか失礼ですね』
メティスの声が頭の中で響いた。俺は肩を竦め、言い返す。
「それは考え方の違いですね。便利なものが有れば活用する。それでなければ進歩がありません」
「ふん、私の考えが時代遅れだと言うのか? 冒険者なら習得した魔法で勝負するのが一流というものだ」
言いたい事は分かるが、面倒な性格のようだ。
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