第338話 タイチの相談
階段に逃げ込んだ俺は、『ガイディドブリット』の使い勝手を思い出す。多重並列起動で起動した場合、標的を設定するのにもたついてしまった。
『不満そうな顔ですが、どうかしたのですか?』
俺が標的設定にもたついたと話すと、メティスは仕方ないだろうと言う。
「まあ、初めての事なので、仕方ないだろうと思っているが、D粒子誘導弾の射程と飛翔速度が気になった」
『ガイディドブリット』は、追尾機能をテストするために必要な最低限の機能しかない。集めるD粒子の量を制限したので、十分な量のD粒子を加速に使う事ができずに弓矢ほどのスピードしかでないのだ。
と言っても、小さな銃弾が弓矢ほどの速さで飛翔すれば、D粒子の感知能力が優れている魔物でも避けるのは難しい。但し、シルバーオーガなどの素早い魔物は例外である。シルバーオーガなら武器で弾き飛ばす事が可能だろう。
『射程は<分散抑止>の特性を付与しなければ伸ばせません』
「しかし、D粒子二次変異の特性は、すでに二つ付与しているからな」
『鍛練の成果で、D粒子への干渉力が上がったのですから、もしかすると三つ付与できるようになったかもしれませんよ』
そう言われて、試してみたくなった。
「そうだな。帰って試してみよう」
俺はエルモアを影に戻し、地上に向かった。十層の転送ゲートから一層へ移動し、地上に出ると後藤たちがダンジョンに入るところだった。
「おっ、十一層へ行っていたのか?」
「ええ、どうやってナメクジ草原を突破しようかと、試していたんです」
「ほう、それで突破できそうなのか?」
「まだ分かりません。後藤さんたちは突破できそうですか?」
後藤は照れたように笑う。
「恥ずかしいが、今回は石橋さんたちの真似をしようと思っている。凄い効果が有る蟠桃が十一層にあるという評判が広まって、一流の冒険者が集まって来そうなんだ。それで先に蟠桃を確保しようと思っている」
屋敷に引き籠もっていたんで、その情報は知らなかった。
「どんな冒険者が来るんですか?」
「スペインからはランキング九十六位のレオカディオ・モンタネール、アメリカからはランキング四十三位のクレイグ・サムウェルが冒険者ギルドに問い合わせて来たそうだ」
この二人は薬となる素材を専門に集めている冒険者らしい。
これらの冒険者が集まる原因となった蟠桃を、石橋がオークションに出したところ、上級治癒魔法薬を超える値段で落札されたらしい。
蟠桃の効果である血管の再生は、老化防止に繋がるので高値になったようだ。そうなると、俺も確保したい。
「それから、冒険者ギルドが蟠桃は熟したものしか、採取してはいけないというルールを決めた」
「なぜです?」
「血管の再生という効果が有るのは、熟したものだけらしい」
俺は情報を教えてくれた礼を言ってから後藤たちと別れた。ダンジョンハウスで着替えて屋敷に戻ると、根津とタイチが食堂でテレビを見ていた。
「お帰りなさいませ」
金剛寺とトシゾウが声を揃えて言う。
「ただいま。何か変わった事はなかった?」
「特にはございません。強いて言えば、タイチ様が資料室で調べ物をしておられたくらいです」
タイチは俺が購入した『魔物百科事典』という本で、ファイアドレイクについて調べていたらしい。
「グリム先生、鉄心さんや亜美たちと一緒にファイアドレイクを倒そうと思っているんですが、どのように修業すればいいでしょう?」
ファイアドレイク狩りには『ブーメランウィング』『マグネティックバリア』『サンダーソード』が必要になる。これらの生活魔法は、すでに魔法庁に登録していた。
俺としては生活魔法使いも上級ダンジョンで活躍して欲しいと思っているので、魔法レベル15までの生活魔法をどんどん登録していきたい。だが、あまり急ぎ過ぎると目立ってしまい、賢者は生活魔法使いじゃないかと考える者が出てきそうなので抑えている。
「まずは、魔法レベルを『14』にまで上げる事が必要だ。それから『ブーメランウィング』『マグネティックバリア』『サンダーソード』を習得して、空中戦の訓練をすべきだな」
「レベル上げなら、アイアンゴーレムが効率的ですよね」
タイチは今にもダンジョンへ向かいそうな勢いで言う。
「待て、タイチは急激にD級になったせいで、魔力量に不安がある」
調べてみると、アリサたちがファイアドレイクに挑戦した時の魔力量に比べると、今のタイチは七割ほどだった。これは『ウィング』などの便利な魔法を習得して、ダンジョンへ潜っている時間が短くなったからだ。
俺もダンジョンに潜ってから戻ってくるまでの時間は短かったが、他の冒険者より回数が多かったので、同じ経験年数の冒険者に比べると魔力量が多い。
本当は十分に疲れを取ってからダンジョンに潜るべきなのだが、休みを取らずにダンジョンに潜った結果なので、この方法をタイチに勧めるつもりはない。但し、初級ダンジョンのような場所ならリスクが少ないだろう。
「タイチは魔法学院で臨時教師をしているんだから、巨木ダンジョンで早撃ちの練習や空中戦の練習をするのもいいかもしれないな」
「空中戦というと、『ウィング』を使って練習するんですか?」
まだ『ブーメランウィング』を習得していないのでそうなる。
「そうだ。『エアバッグ』を使って、空中から下りる訓練もするといい」
俺はタイチたちの防具や武器が貧弱なのも気になった。武器は生活魔法が有るので良いとしても、もっと防御力が高い防具は必要だ。その点を指摘した。
「分かりました。防具については考えてみます」
魔法学院にはカリナや鉄心も居るので、相談する相手には困らないだろう。俺とタイチが話しているのを、根津は黙って聞いていた。少し羨ましそうだ。
と言って、昇級試験を受けてE級になったばかりの根津には、ファイアドレイクは早すぎる。それにファイアドレイク狩りをする人数は五人までという制限が有るので、人数を増やす事はできない。
タイチが帰り、根津が屋根裏部屋に戻った。俺は一人で作業部屋に行き、影からシャドウパペットたちを出してから賢者システムと立ち上げる。
「さて、『ガイディドブリット』の改良ができるか試してみよう」
『射程と飛翔速度が気になると言っておられましたが、どちらを改良するのです?』
「両方の改良をしたいけど、まずは射程だな」
俺は『ガイディドブリット』から一度<手順制御>と<演算コア>の特性を剥ぎ取った。そして、<編成>を使って、<手順制御><演算コア><分散抑止>の三つの特性を纏めようとする。
以前ならどうしても纏らずに断念したのだが、今回は干渉力を強めれば何とかできそうな感じがする。俺は集中して<編成>の力を引き出した。
五分ほど試行錯誤していた時、三つの特性がカチッと纏まった。
「やった。後は付与するだけだ」
俺は『ガイディドブリット』に<手順制御><演算コア><分散抑止>の特性を付与する事に成功した。
ただ手応えからして四つは無理なようだ。もしかすると、D粒子への干渉力が強化されれば可能になるのかもしれない。
『おめでとうございます。後はどう改良するのです?』
「D粒子を集める量を少し増やして、そのD粒子で飛翔速度を上げる」
D粒子誘導弾の大きさは拳銃の弾丸ほどだったのだが、三倍ほど大きくなりライフル弾ほどになった。拳銃弾やライフル弾に様々な大きさが有るのは知っているが、これはあくまでも俺が最初に頭に浮かんだ拳銃弾やライフル弾の大きさと比較している。
この改良により飛翔速度が五割増しとなり、空間振動波が放射される範囲が直径二十センチほどに拡大した。これ以上D粒子を集める量を増やす事もできたのだが、それをすると発動時間が長くなりそうなのでやめた。
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