第279話 教頭と剛田
カリナが校長から教頭と剛田の話を聞いた四日後、教育委員会の職員である
校長室に茂堂と鵜崎、それに教頭と剛田、カリナが集まり、話し合いが始まった。
「この魔法学院の狐山教頭と剛田先生が、生活魔法の授業を廃止して欲しいと請願されました。これはどういう事でしょう?」
鵜崎が校長に目を向けて質問した。
鬼龍院校長は教頭と剛田を睨んだ。
「今年は、在校中に生活魔法使いの二人がD級冒険者になりました。校長として、生活魔法の授業を始めた事は正しかったと思っております」
教頭が不機嫌そうな顔をする。
「ですが、生活魔法の授業に費やす予算を、攻撃魔法や魔装魔法に回してもらったならば、優秀な成績を収めた生徒が増えたはずです」
教頭の不満は予算だったようだ。だが、予算配分で攻撃魔法や魔装魔法に割り当てられていた予算が少なくなったとは言え、それは僅かなものである。
その事によって攻撃魔法や魔装魔法の授業内容の質が、それほど落ちたとは思えない。一方、生活魔法は少ない予算を有効に使って、D級冒険者を輩出したのだ。
教育委員会の茂堂が納得したように頷いた。
「なるほど、予算ですか。優秀な生徒を育てる事は重要です。教頭の意見も一理ありますな」
カリナは馬鹿な事を言う茂堂に厳しい目を向けた。
「生活魔法の授業を受けた生徒の中から、D級冒険者になった生徒が二人も出ました。優秀な生徒を育てる事が重要なら、もっと生活魔法に予算を割り当てた方が良いと思います」
それを聞いた教頭と剛田が歯ぎしりしそうな顔になる。
「それは素晴らしい。D級が二人も出たのですか。生活魔法の授業を増やした事に間違いはなかったようですな」
魔法教育課の鵜崎が誇らしそうに言う。その予算を出すように決めたのが自分だからだろう。その鵜崎を茂堂が睨む。
「待ってください。同じ予算を攻撃魔法や魔装魔法に回したら、もっと多くの優秀な生徒を輩出できたと教頭たちは言っているのですぞ」
「その通りです」
そう言って教頭が頷いた。それを聞いたカリナが黙っていられないという感じで口を挟む。
「教頭、どんな根拠があって、そんな事を言っておられるのですか? 生活魔法の授業を増やす前も現在と同じような実績だったではないですか?」
「望月先生、それは違う。生活魔法などに力を入れてどうするのです。長年の実績がある魔装魔法や攻撃魔法に予算を集中して、生活魔法の授業などなくすべきなのです」
それを聞いた校長が鼻息を荒くする。
「教頭、君は何を言っているのだね。生活魔法は大きな実績を上げているのだよ。実績を上げているものを廃止するとは、どうかしている」
「いや、その実績も一時的なものです。日本のC級以上の冒険者を分類して、魔装魔法使いと攻撃魔法使いの数を数えれば分かる事です」
剛田がその実績を認めようとしなかった。
「生活魔法使いの実績が少ない事は認めますが、それは発展を始めたのが遅かったからです。実際に新しいA級冒険者は生活魔法使いのグリム先生ではないですか?」
グリムの名前が出た時、教頭と剛田が苦虫を噛み潰したような顔をする。この二人がグリムを学院から追い出したからだ。
校長が力強く頷いた。
「A級になるという素晴らしい実力と教育への情熱を持ったグリム先生を、この学院から追い出したのはあなた方ですぞ。御蔭で我が学院は貴重な人材を失った。反省して頂きたい」
「あの時は、グリム先生を学院に相応しくないと思ったからだ」
それを聞いた鵜崎が教頭と剛田を睨み付けた後、茂堂へ視線を向ける。
「A級になった逸材を教師に相応しくないと、判断するような者の意見に耳を貸すのですか?」
茂堂が唇を噛んで視線を逸らした。それを見た剛田が、
「待ってください。A級冒険者になるような才能があったとしても、それが教育者として相応しいかどうかは別です」
カリナが溜息を漏らす。
「グリム先生の教えを受けた生徒の中で、この一年間で六人がD級冒険者となりました。剛田先生の教え子は何人がD級になりました」
カリナの言葉で、剛田はぐうの音も出なくなった。
「お二人はどうして生活魔法を目の敵にするのです。その理由を教えてください?」
そう尋ねられた教頭と剛田が顔を見合わせ
その様子を見ていた校長が何か閃いたような顔をする。
「まさか……二人は魔法陣の費用を誤魔化しているのではないだろうね?」
才能のある生徒が居た場合、教科書に載っていない魔法を習得させるために、魔法陣を買う予算を用意している。その予算の管理は教頭がする事になっていた。
「馬鹿な……そ、そんな事はしておりません」
青い顔になった教頭にカリナが視線を向ける。
「私が生活魔法の魔法陣を購入するために、多くの金額を申請したから、生活魔法の授業を廃止しようと思ったのですか? まさか、剛田先生も?」
それを聞いた剛田が、顔を真赤にして怒った。
「デタラメを言うな!」
剛田がカリナに殴り掛かろうとする。これは正気を失ったとしか思えない暴挙だった。カリナはトリプルプッシュで迎撃する。
魔装魔法を使っていない剛田は、D粒子プレートで跳ね飛ばされて壁に身体を打ち付けた。大きな音が響き脳震盪を起こした剛田が床に倒れる。
「彼の行動は常軌を逸している。その理由を追求せねばならんな」
顔を強張らせた鵜崎は教頭に鋭い視線を向けた。
疑惑が持ち上がった以上、教頭が管理している帳簿をチェックする必要があるという事になった。その結果、教頭たちの犯罪が暴かれる。剛田も一枚噛んでいたようだ。
教頭と剛田は懲戒免職となり、魔法学院から叩き出された。二度と教師になる事はできないだろう。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺は教頭たちの話をカリナと校長から聞いた。屋敷を訪ねてきた二人が詳しい経緯を説明してくれたのだ。
「へえー、教頭たちはそんな事をしていたんだ。俺が居た時からやってたのかな?」
校長が溜息を漏らす。
「そのようだ。儂も叱責を受けた」
魔法学院の責任者だからだろうが、教頭が魔法教育に関する予算を管理するように決めたのは、教育委員会なのだ。それを棚に上げて校長だけを叱責するというのは納得できない。
「あの教頭を魔法学院に送り込んだのは、教育委員会の連中ですよ。それなのに校長だけ叱られるなんて」
カリナが怒っていた。
「教頭は年だから、引退だろうけど、剛田はどうするのかな?」
俺は疑問に思った事を口にした。とは言え、一ミリも剛田の事など心配していない。
「冒険者に戻るしかないかもしれんな。だが、活躍は期待できんだろう」
校長の言葉を聞いて、ジービック魔法学院に巣食っていた害虫が退治された事を喜んだ。教頭たちの懲戒免職以後の処分は裁判になるか、示談にするかは教育委員会が決める事になるという。
カリナに魔法レベルが上がったか尋ねた。『クラッシュボール』を習得できるか確かめたのだ。『クラッシュボール』は『ブーメランウィング』と組み合わせて使うと効果的なのだが、魔法才能が『D』の冒険者は、『クラッシュボール』は習得できても『ブーメランウィング』は習得できない。
その場合、どう使えば効果的か知りたいと思い、『クラッシュボール』を習得して試してみて欲しかったのだ。
それにドラゴンでさえ倒せるほどの威力が有る『クラッシュボール』を習得して、無茶をしたいと思わないか確かめたかった。
「まだ、魔法レベル9よ。さすがに魔法才能『D』の限界である魔法レベル10へ上がる時には、時間が掛かるみたい」
話を聞くと、大物を狩る時に使える生活魔法が少なくて苦労しているらしい。攻撃魔法などは魔法レベル9で習得できる威力が有る魔法が多いらしい。
それを聞いた俺は、魔法レベル9で習得できる威力有る魔法というのを開発するべきだろうか、と思った。
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