第270話 アクアドラゴンのドロップ品

 俺は後藤の船に乗り移って、海の中を覗き込んだ。その様子を見て、後藤が頷いた。

「そうか、ドロップ品か。俺たちも手伝おうか?」

「本当ですか。それは助かります」


 後藤たちは感覚共有機能付き蛙型シャドウパペットを二体持っている。それを使って一緒に探してくれるというのだ。後藤と白木が蛙型シャドウパペットを影から出して、サングラス型映像受信機を掛ける。


 俺は後藤たちに見付からないようにゲロンタの指輪をメティスの入っている巾着袋に入れる。メティスが制御する方が、探しやすいと考えたのである。


 メティスは俺の影からゲロンタを出して、水中ライトを持たせて海に飛び込ませた。

「今の蛙型シャドウパペットは、感覚共有機能付きじゃないのか?」

 俺がサングラス型映像受信機を掛けないので、後藤が尋ねた。


「あれは普通のシャドウパペットです。但し、ドロップ品を探すように訓練してあります」

「なるほど、さすがシャドウパペットの第一人者だな」


 三体のシャドウパペットは海底を探し、三つのものを探し当てた。一つは白魔石<中>である。次に魔道具の『D粒子結晶器』だった。これは大気中のD粒子を集めて結晶化する魔道具らしい。D粒子を扱う生活魔法使いにとって、貴重なものになりそうなのだが、調べてみないと分からない。


 そして、最後のものは巻物である。しかもD粒子二次変異の魔法陣だと思われる特徴があった。早く確かめたかったが、ここで確かめるのはまずいと思い地上に戻る事にする。


「赤城たちの遺品はなかったな」

 後藤が呟くように言った。

「プチロドンに丸呑みされたんでしょうか?」


 嫌な最期だと思う。だが、冒険者を続けていけば、知り合いが酷い死に方するという事は何度も経験するだろう。仕方ない事だった。


 地上に戻った俺は、後藤たちに礼を言ってから冒険者ギルドへ向かった。赤城たちの最期の様子と、アクアドラゴンを倒した事を報告しなければならない。


 冒険者ギルドへ着いて、近藤支部長に会い三層での出来事を報告した。

「そうか、赤城たちが死んだのか」

 支部長が暗い顔になって言った。


「赤城たちの死は痛ましい事だが、グリム君がアクアドラゴンを倒した事は快挙だ。おめでとう」

「ありがとうございます。A級になれるでしょうか?」


 支部長が頷いた。

「大丈夫だと思う。ただA級になるには、日本の冒険者ギルドから推薦状と実績明細を世界冒険者ギルド本部に送って審査する事になる。通常は書類審査だけで決定されるのだが、グリム君の場合、面接が有るかもしれない」


 十九歳の天才攻撃魔法使いや片腕がない冒険者がA級になった時に、面接があったらしい。イレギュラーな存在がA級になる時に、面接が行われるのだと言う。


「初めて生活魔法使いがA級になるから、面接ですか。仕方ないですね」

「ところで、本当にアクアドラゴンを倒したのかどうか、確認せねばならん。ドロップ品は回収したのかね?」


「ええ、後藤さんたちに手伝ってもらって、海底から探してきました」

「そうか、蛙型シャドウパペットを使ったのだな。しかし、プチロドンは邪魔をしなかったのかね?」

「アクアドラゴンが死んだと同時に居なくなりました。たぶん逃げたのか、海中神殿に戻ったかのどちらかだと思います」


「では、魔石を確かめさせてくれ」

 俺は白魔石<中>を出して渡した。支部長は加藤を呼んで調べさせる。加藤は魔石専用の分析魔法を使って鑑定した。


「間違いありません。アクアドラゴンが残した魔石です」

「分かった。ありがとう」

 加藤が出て行くと、俺は支部長に尋ねた。


「あの魔法は、どんな魔物が残した魔石か分かるんですか?」

「そういう分析魔法も有るのだ。但し、あの魔法を使える人材は少ないから、どこの冒険者ギルドでもできるという事ではないぞ。それにどのダンジョンのアクアドラゴンかまでは分からないから、本当にドラゴンが居なくなったのかを確かめるのは必要なのだ」


 俺の場合は後藤たちの証言が有るから、問題ないと言う。

 支部長への報告を終えて待合室へ行くと、冒険者たちの拍手と祝いの言葉が俺を出迎えた。後藤たちがアクアドラゴンを倒した事を皆に話したようだ。


「凄えな、日本で最年少のA級になるんじゃないか」

「しかも、生活魔法使いでは初めてだろ。記録ものだ」

「おれにも生活魔法を教えてください」


 俺は皆に御馳走と酒を振る舞う事にした。ゴルフでホールインワンを達成すると、ラウンドを回った仲間や周囲の人に対してお祝いを振る舞うという習慣が有るそうだが、今回はそんな感じだ。


 様々な店から出前を取り、酒屋から大量のビールと日本酒を取り寄せた。もちろん、支部長の許可はもらった。他の冒険者から妬まれないためにも必要な事だと、近藤支部長は言っていた。


 夜中まで騒いでから、俺は屋敷に戻って寝た。翌朝起きると二日酔いで頭痛がするが、気分は良かった。


 テレビを見ていたコムギが振り向いて俺の顔を見た。

『顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?』

「二日酔いだから、大丈夫だ」


 俺がアクアドラゴンを倒した事は、その日のうちに新聞やテレビが報道した。冒険者は興味を持ったようだが、一般の人々はそれほど興味を惹かなかったようで、二、三の新聞と週刊誌が取材に来たくらいで終わった。


 これには訳がある。同じ頃に、A級冒険者の高瀬が個体名があるネームドドラゴンを倒したのだ。そのドラゴンの名前は『ファフニール』である。


 北欧神話やゲルマン神話に出てくるドラゴンで財宝を集める習性があり、ファフニールを倒した者は莫大な財宝を手に入れられると言われていた。


 高瀬はファフニールを倒し、総額二百億円以上の財宝を手に入れたらしい。


 取材などを受けていたので確認が遅くなったが、新しく手に入れた巻物を確認する。この巻物はD粒子二次変異の魔法陣で、<反発(水)>の特性が得られるものだった。


 <反発(水)>と<反発(地)>の特性を使えば、水陸両用の浮遊移動魔法を創れるようになる。ダンジョン産の『フロートボックス』は陸上でしか使えず、海では使えないものだったので便利そうだ。


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