第266話 西條とアクアドラゴン
<空間振動>の特性を創った俺は、疲労困憊して寝た。
翌日起きて、賢者システムを立ち上げてD粒子一次変異を確認する。そこには<空間振動>という特性が存在した。ついでに登録してある生活魔法の一覧を確認すると新しい魔法である『トーピードウ』がある。
俺は朝食を食べてから、『トーピードウ』の威力を確かめるために有料練習場へ向かった。一番大きな練習場を借りて中に入る。
『新しい魔法の射程は、どれほどなのです?』
「三百メートルだ。威力が大きいので誤爆を防ぐために三百メートル飛翔したら、自爆するようにした」
メティスの質問に答えた。
『生活魔法に追跡するような機能が欲しいですね』
「それには探知と、飛行制御が必要だ。探知はなんとかなるかもしれないが、飛行制御は見当も付かない」
『<手順制御>が使えるようになれば、解決できそうです』
「そうかもしれないが、<手順制御>を使えるようにするために、何が必要なのかが分からない」
俺はメティスと話しながら標的であるコンクリートブロックから二百メートルほど離れた。振り向いてコンクリートブロックを見る。
「ここからだと、標的が小さく見えるな。命中させる自信がなくなる」
『魔装魔法の『サイトパワー』を習得したら、どうでしょう。習得可能レベルは『2』だったはずです』
俺でも習得できる魔法レベルだ。試してみて命中率が低かったら習得しよう。そう思いながら、コンクリートブロックに狙いを付ける。
標的のコンクリートブロックは、縦に前列・中列・後列と三つ並び、そのセットが横に五つ並んでいる。真ん中のコンクリートブロックを目掛けて七重起動の『トーピードウ』を発動した。
空中に魚雷のようなものが現れ飛翔を開始。それが着弾するまで約二秒だった。D粒子魚雷は狙った左隣のコンクリートブロックに命中して爆発。
次の瞬間、爆風が俺のところまで押し寄せる。倒れるほど強くはなかったが、踏ん張らなければ倒れそうなほどの強さがあった。
爆風が収まった後に確かめると、前列のコンクリートブロックが粉々に砕けて消え、中列のコンクリートブロックも崩壊。そして、後列のコンクリートブロックの前半分が砕けていた。
「威力は凄いけど、命中率は……」
溜息が漏れる。真剣に『サイトパワー』を習得する事を考えるべきかもしれない。それとも視力を強化する魔道具を探した方が早いだろうか?
威力が分かったので、それからは命中精度を上げるために三重起動で練習を続けた。魔力が尽きるまで『トーピードウ』の練習をしてから、冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドで情報を仕入れようと考えていると、鉄心と会った。
「西條がアクアドラゴンを倒すために、鳴神ダンジョンへ行ったそうだぞ」
「本当ですか?」
「ああ、石橋たちは見物に行った」
「ありがとう。俺も行って見てきます」
「気を付けろよ。手負いのドラゴンは滅茶苦茶暴れるというからな」
俺は冒険者ギルドを出て鳴神ダンジョンへ向かった。急いで三層まで下りて、『ウィング』を発動する。D粒子ウィングに乗って海中神殿へ向かう。
途中で石橋の船が見えたので、近寄って声を掛ける事にした。
「アクアドラゴンを見に来たんですか?」
「それも有るが、魔装魔法使いの西條がアクアドラゴンと、どう戦うのか興味があったんだ。それより一緒に見物しようじゃないか」
俺は石橋の船に乗り移った。石橋の船は、後藤の冒険者用小型船ほどではなかったが、頑丈そうな船だった。
俺たちが海中神殿近くの海に到着した時、西條が奇妙な事をしていた。船の上からサーフィンに使うサーフボードを二十枚ほど海に放り投げたのだ。
西條が船の上からサーフボードに飛び乗った。俺たちは遠くから西條の行動を見ていたのだが、石橋のチームの魔装魔法使いが説明してくれる。
魔装魔法の中には身体を軽くする魔法が有るらしい。その魔法を使ってサーフボードを足場として、アクアドラゴンと戦うつもりだろうという。乗っていた船は低速で海中神殿の上から離れ始めた。
西條がデュランダルを抜いて切っ先を海面に入れる。次の瞬間、海面から水飛沫が上がった。デュランダルから空間振動波が放たれたのである。
「さあ、戦いが始まるぞ」
石橋の声が耳に届く。アクアドラゴンは敵が来た事を悟り海面に向かって移動。海面からジャンプして頭上から西條に襲い掛かった。ド迫力の攻撃を受けたのが俺なら、顔を青褪めさせていただろう。
西條は別のサーフボードへ跳躍しアクアドラゴンのダイビング・ボディ・アタックを避ける。ドラゴンの巨体が着水すると爆弾が爆発したような水飛沫が上がる。
海中に潜ったアクアドラゴンを西條は探しているようだ。そして、発見したらしく海中のアクアドラゴンを目掛けて空間振動波を放つ。
その攻撃がアクアドラゴンに命中したらしく、海面に血が浮き上がってきた。西條が何かに気付いたのか、サーフボードを蹴って別のサーフボードに飛び移る
その直後、海中から水刃ブレスが放たれ元のサーフボードがバラバラに破壊される。サーフボードを破壊した水刃ブレスは海面から上へと水柱を形成する。それを見ていた俺は、『うわーっ!』と声を上げた。
「海中からでもブレス攻撃できるのか、厄介だな」
石橋が渋い顔をして言う。
「あのブレスが有るなら、船に乗って攻撃なんて、危なくてできませんよ」
アクアドラゴンは海中からのブレス攻撃で、次々に海面に浮かんでいるサーフボードを破壊していった。西條は残っているサーフボードへ飛び移りながらブレス攻撃を避けていたが、最後には漂流している船に戻り撤退を開始する。
その船をアクアドラゴンが追い掛け始める。命を賭けた追走劇を俺たちは見ていた。
「あれはまずいんじゃないか」
石橋が言った。俺もそう思う。
「手助けが必要ですね。ちょっと行ってきます」
俺は『ウィング』を発動してD粒子ウィングに乗り飛び上がった。収納アームレットからロープを取り出して、端を腰に結び付ける。
俺が西條の船に近付いた時、アクアドラゴンの水刃ブレスが船を破壊した。西條は海に投げ出されるが、さすが魔装魔法使いである。そのまま海の上を走り始めた。
「ああいうところは、凄いな。どうやって海面を走っているんだろう」
とは言え、海面だと走り難いようでスピードが足りず、アクアドラゴンに追い付かれそうになっている。
俺はロープを垂らして西條に声を掛ける。
「西條さん、ロープに飛び付いて!」
それが聞こえたのか、西條がロープに飛び付いた。その重みを感じてから、俺は上昇させた。アクアドラゴンが水刃ブレスで攻撃したが、その射程外に逃げ切る。
アクアドラゴンが諦めて海中神殿へ戻り始めたのを確かめて、俺はホッとした。西條が悔しそうな顔をしながら、俺に礼を言う。
石橋の船に近付き西條を下ろした。
「石橋さん、先に帰ります」
俺は石橋に声を掛けてから飛行速度を上げて戻り始める。
「メティス、西條さんとアクアドラゴンの戦いをどう思った?」
『アクアドラゴンのブレス攻撃を見誤っていました。海中から攻撃できるほど強力なのだと分かり、見物に来た価値があったと思います』
「そうだな。ああいう相手との戦いにおいて、魔装魔法使いは不利だ」
空を飛べる攻撃魔法使いや生活魔法使いがまだ有利に戦えるだろう。だが、魔装魔法使いの中には神話級の魔導武器を所有している者が居る。それほどの強者になると、アクアドラゴンなど一撃で仕留められるので、空を飛べないという点は関係なくなる。
そう考えると、西條のデュランダルは神話級ではなく伝説級なのだろう。もしかすると<偽>が付いている魔導武器なのかもしれない。
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