第248話 群れを率いる魔物

 明星ダンジョンの十層にある中ボス部屋には、二組の先客が居た。E級のチーム『傍若ぼうじゃく無人ぶじん』とD級のチーム『値千金あたいせんきん』の冒険者たちだった。全員が年上の冒険者だ。


 自己紹介した俺は、二組の冒険者が話している中に参加した。

「今、アースドラゴンに挑戦した『群狼』の話をしていたんだ」

 値千金チームのリーダー水野が教えてくれた。昨日もここに野営した水野たちは、『群狼』と会って話をしたらしい。


 俺も興味があったので、どういう風に挑戦したのか聞いた。三十層の中ボス部屋は一人しか入れないと分かっていたからだ。


「あいつらは連続でアースドラゴンに挑戦して、ダメージを蓄積して倒そうという作戦を立てたんだ」


 一人が中ボス部屋に入り、逃げ回りながらアースドラゴンを攻撃して体力が限界に来たら、エスケープボールで脱出するという事を繰り返す作戦だったらしい。


 『群狼』は魔装魔法と攻撃魔法の両方の才能を持つ冒険者を集めたチームだという。ちょっと羨ましい。どういう魔法を使って攻撃したのかは分からないが、こういう作戦でアースドラゴンに挑むチームは偶に居るのだという。


 魔装魔法で素早さと防御力を上げて挑戦するという方法を取るらしいが、怖くはないのだろうか? まあ、アースドラゴンに挑もうとしている俺も同じか。


「ただ不運な事に、アースドラゴンにトドメを刺す役目の奴が無理をしたらしい。諦めればいいのに無理に倒そうとして、返り討ちに遭ったんだ」


 俺も無理だと思ったら諦めよう。また出直せば良いのだから。

さかきさんは、もしかしてアースドラゴンが目的ですか?」

 俺がB級冒険者だと知った水野が、丁寧な言葉で尋ねた。


「そうです」

「今がチャンスですよ。アースドラゴンは『群狼』が与えたダメージが残っているはずですから」

「そうかな。『群狼』が戦ってから数日経つから、回復していると思うけど」


 その夜は面白い話を聞けた。寝る直前になって、タア坊と為五郎を影から出すと皆がびっくりしていた。

「それはシャドウパペットですか?」

 水野が尋ねた。

「ええ、見張り用のシャドウパペットです」


「まさか、僕たちを疑っている?」

「違います。ここは中ボス部屋なんだから、リポップする恐れがある」

「いやいや、ないでしょう」


 俺は笑った。

「この前、中ボス部屋で野営していたら、リビングアーマーが復活したよ」

「マジですか?」

「マジです。タア坊が報せてくれなかったら、危なかった」


 ここでもシャドウパペットたちは人気だった。普通にシャドウパペットが買えるようになるまでは、この状況が続くだろう。


 翌日になって、俺は中ボス部屋を出て十一層へ向かった。

「『群狼』が与えたダメージが、アースドラゴンに残っていると思うか?」

 俺はメティスに尋ねた。


『どれほどのダメージを与えたかによりますが、数日経てば、回復すると思われます』

 自分でもそうだろうと思っていたが、メティスに言われるとガッカリする。心の中でもしかすると、と思っていたのだ。


 十一層から二十層までは問題なく通過した。二十層の中ボス部屋で一泊してから、二十一層へ下りた。二十一層と二十二層は、『ウィング』を使って通過。


 そして、二十三層へ下りた俺は、歩き始めた。ここは迷路になっている。しかも巨大迷路であり、巨人のために造られたかのようだ。


 天井までの高さが十二メートル、幅が八メートルもあった。通路の床は苔が生えており、低木まで生えている場所もある。


 迷路の天井が光を発していた。薄暗い光だが慣れれば十分な光である。

 俺は為五郎を出して、背後を守らせる事にした。迷路を進み始めると、メティスが話し掛けてきた。

『ここにダークリザードマンが居るはずです。気を付けてください』


「分かっている」

 この迷路にはソルジャーレックスの群れとダークリザードマンが居るのだ。影に気を付けなければと思ったのだが、ここの迷路には影が少ないようだ。


 角を曲がろうとしてソルジャーレックスの群れを発見した。俺は素早く戻り、『オートシールド』を発動してから、『俊敏の指輪』を嵌める。そして、『フライングブレード』を発動して斬剛ブレードを手に構えた。


 為五郎をどうするか考えたが、斬剛ブレードを振り回す場合は邪魔になりそうなので影に戻す。


 もう一度角から顔だけ出して、敵を確認する。十四匹の群れである。『バーストショットガン』を使おうかと考えた時に、俺に気付いた群れのリーダーらしいソルジャーレックスが鳴き声を上げた。その鳴き声に応えるように、他のソルジャーレックスが展開して、俺を取り囲む。


 リーダーの鳴き声で三匹のソルジャーレックスが口を開けて襲い掛かってきた。それを斬剛ブレードで薙ぎ払う。仲間が倒されるのを見たリーダーが、また命令を出した。


 二匹のソルジャーレックスが跳躍して上から襲い掛かってきたのだ。俺は右へ跳んで攻撃を躱し、跳躍した方向に居たソルジャーレックスを斬り捨てる。


 リーダーが不満そうな鳴き声を上げ、他のソルジャーレックスたちが次々に襲い掛かってくる。西洋剣術を学んだ御蔭で、俺の剣捌きは滑らかで素早いものになっていた。


 斬剛ブレードがソルジャーレックスたちの攻撃を迎え討ち、その首を刎ね飛ばす。俺は剣で攻撃すると同時に、『パイルショット』も使い始める。瞬く間にソルジャーレックスの数が減り、リーダーだけになった。


「ふうっ、こいつで最後か」

 リーダーがフェイントを織り交ぜながら攻撃してきた。右に跳ぶと見せかけて、左に跳んで足を狙ってきた。それを跳躍して躱し、リーダーの胸に斬剛ブレードを向ける。


 リーダーが後ろに跳躍して躱したので、俺も追って跳躍。斬剛ブレードを五メートルに伸ばして突き入れた。斬剛ブレードの切っ先がリーダーの胸に吸い込まれる。


 終わった、そう思った時にリーダーの影からダークリザードマンが飛び出してきた。その手には黒い剣があり、その剣が俺に向かって振り下ろされる。


 俺自身は対応できなかったが、『オートシールド』のD粒子シールドが反応した。剣の斬撃を受け止めたのである。


 ダークリザードマンが歯を剥き出しにして唸った。斬剛ブレードの刃をダークリザードマンの胸に向けて送り出す。それを黒い剣が弾いた。


 その瞬間、五重起動で『パイルショット』を発動。D粒子パイルがダークリザードマンの胴体を貫通した。よろめいた魔物を斬剛ブレードで薙ぎ払う。


『危なかったですね』

 決着がついて、メティスが声を上げた。

「ソルジャーレックスの影に、ダークリザードマンが潜んでいるとは思わなかった」


『あれには、私も驚きました』

 メティスでも魔物の影に魔物が潜んでいるとは予想できなかったようだ。俺はダークリザードマンが残した影魔石を拾い上げた。


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