第204話 フォートスパイダーのドロップ品

 俺は鑑定モノクルを取り出して、そのタトゥーを鑑定してみた。すると、『鳴神ダンジョンの転送ゲートキー』とだけ表示された。


 それをメティスに伝える。

『なるほど、この鍵は鳴神ダンジョンに限定されるが、五層だけに限定されていない可能性が高いですね』


 それを聞いて、水月ダンジョンで宿無しの魔物を倒した時の事を思い出した。あの時は鍵のタトゥーなど刻まれなかった。確かに鳴神ダンジョン限定というのは正しいのかもしれない。


「次はドロップ品を確認しよう」

 俺は探す手伝いをさせるために為五郎とコムギを影から出した。コムギはメティスが操作するので大丈夫だが、為五郎には細かく指示を出す。


 為五郎が最初にメガロックゴーレムの赤魔石<中>を探し出して持ってきた。

「偉いぞ。次はドロップ品だ。小さいかもしれないから、注意して探してくれ」


 為五郎がメガロックゴーレムのドロップ品を探している間に、俺とコムギはフォートスパイダーのドロップ品を探した。


 フォートスパイダーが大きすぎたので捜索範囲が広い。コムギが黒魔石<中>を発見して持ってきた。

「あんな大物が、ドロップ品がなしという事が有るのかな?」

『このダンジョンで最初に倒した宿無しですから、ドロップ品は有ると思います』


 俺もそう思うのだが、指輪とかだったら、見付からない恐れもある。その時、アイデアが閃いた。『マジックストーン』の魔法を使うというものだ。


 『マジックストーン』はD粒子を大量に含んでいるものを集める魔法である。それが魔石でなくとも集めるはずだ。『マジックストーン』を発動してみる。


 すると、D粒子が一箇所に集まり始めたのを感じた。それはヒノキに似た木の根元だ。そこに行って確かめると、何かの金属製の短弓のようなものをD粒子が持ち上げようとしている。


 だが、短弓が重すぎて持ち上がらないようだ。『マジックストーン』は軽い魔石を持ち上げるだけのパワーしか与えていないので、金属製の短弓は運べなかったらしい。


 俺は『マジックストーン』を解除して、奇妙な短弓を持ち上げた。重い、三キロぐらい有るのではないか?


 メティスがその奇妙な短弓を見て言った。

『魔導弓ですね』

 俺が奇妙な短弓のようなものと思ったのは、その短弓には弦がなくスイッチみたいなものが付いていたからだ。


「このスイッチを押すのか」

 俺は魔導弓のグリップの下に付いているハンドル部分に取り付けられたトグルスイッチのようなものを押した。その瞬間、上下両端のしなる部分であるリムからD粒子が噴き出し弦が張られた。


 その弦も特徴的で、中央にガラス玉のようなものが付けられていた。全体的な形は洋弓のベアボウに似ている。


「矢がないな、試射はできないか」

『魔導弓に矢は必要ありません。そのガラス玉のようなものを引いてください』

 俺は弓を構えてガラス玉を引っ張った。軽く引くと自分の身体から魔導弓に魔力が流れ込むのを感じる。その魔力は紅い光を放つ矢となった。


「へえー、紅い魔力の矢か」

 その紅魔矢を五十メートルほど離れた木に向けて放った。高速で飛んだ紅魔矢は、幹を貫通して消えた。


『その魔導弓は、射程が長そうですね』

「それに威力も有りそうだ」

 俺とメティスが魔導弓を試していると、為五郎が指輪を口に咥えて戻ってきた。


 俺は為五郎を褒めてから、鑑定モノクルで調べる。

『何の指輪ですか?』

「こいつは『治療の指輪』のようだ。但し、連続使用はダメで、三十分ほどのクールタイムが必要だと表示された」


 『治療の指輪』は上級治癒魔法薬ほどの効き目はないようだ。重傷を一瞬で治すという事はできないが、五日ほどで治るような傷なら、一回の発動で治せるらしい。


 全治五日ぐらいの傷とは、どれくらいの傷なんだろう? まあ、死にそうな時に使えば、生き残れそうなので売らずに保管しておこう。


 これでドロップ品は全部らしい。

「上級ダンジョンの宿無しが残すドロップ品にしては、魔導弓が一ちょうというのは少なくないか?」

『それをオークションに出せば、五億円ほどになるはずです』


 それを聞いて、俺は固まった。一瞬でもしょぼいと思った俺が間違っていました。心の中でフォートスパイダーに謝った。


 為五郎はフリーズした俺の様子が心配になったのか、『大丈夫?』みたいな感じでもふもふの体を擦り寄せた。


 為五郎のもふもふ効果で落ち着いた俺は、次は抜け道探しだと思った。だが、何だか疲れた気がする。周りを見回すと広大な山岳地帯である。抜け道を探すのも容易でないと感じて、今日は終了する事にした。


 地上に戻った俺は、ダンジョンハウスで着替えてから冒険者ギルドへ向かった。ギルドに到着すると、支部長に面会を求める。あの金属板に書かれていた文言と抜け道について報告しようと思ったのだ。


「何か大発見でもしたんですか?」

 マリアが尋ねた。

「大発見じゃないけど、五層のフォートスパイダーを倒した」


 マリアが目を丸くする。

「凄いです。ソロで倒したんですよね?」

「まあね」

 それを聞いた冒険者たちが騒ぎ始める。それを聞きつけて支部長が奥から出てきた。


 俺がフォートスパイダーを倒したと聞くと、支部長室で詳しい話を聞くと言い出す。俺たちは支部長室に向かった。


「本当に倒したのか?」

 近藤支部長が確認するので、黒魔石<中>と魔導弓を取り出して見せた。

「魔導弓か、本当らしいな。しかし、B級冒険者のチームでも倒すのが難しいのによく倒せたな」


「生活魔法の可能性は無限です」

 支部長が笑い出した。

「そうか、無限か。それで、どんな魔法で倒したんだ?」


「『ダイレクトボム』という生活魔法です」

「新しい魔法だな。あの魔導書に載っていたものか、羨ましいな」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る