第201話 爆発・爆轟
近藤支部長に誘われて支部長室に行った。
「どうかしたんですか?」
「ソロで戦うつもりじゃないだろうな、と言った時、少し考え込んでいたのに気付いた。まさか、本当にソロでフォートスパイダーと戦うつもりじゃないだろうな?」
俺の事を心配しているらしい。
「俺は無謀な男じゃないです。それなりの勝算がなければ、フォートスパイダーという化け物とは戦いませんよ」
「すると、勝算があると?」
「少しずつですけど、俺も強くなっているんです。それに仲間も居ます」
「おっ、チームを作るのか?」
「そういう意味じゃないんですが、俺の仲間を紹介しましょうか?」
支部長が会いたいというので、影から為五郎を出した。熊型シャドウパペットを見た支部長が「あっ」と驚く。
為五郎は俺に擦り寄り、支部長を見てちょこんと首を傾げる。支部長は目を大きく開いて為五郎を見ていた。
「こ、こいつは?」
「熊型シャドウパペットの為五郎です。俺の頼もしい仲間ですよ」
「これほど大きなシャドウパペットが作れるものなのか。D粒子を練り込む作業が大変なので、あまり大きなものは作れないと聞いたぞ」
「支部長、これでも生活魔法使いとして、初めてC級冒険者になった男ですよ」
「そうだったな。シャドウパペット製作法の発見者でもあるから、これくらいはできるという事か。どれくらい強いんだ?」
「オークナイトくらいなら、倒せますよ」
為五郎の頭を撫でると、為五郎の耳がピコピコと動く。支部長が羨ましそうに見ていた。
「何だか、私もシャドウパペットが欲しくなった」
「生活魔法使いと手先の器用な者が居れば、作れますよ。その時は、きちんとライセンス料をもらいますけど」
そう言うと、為五郎を影の中に戻した。
「そうやって、戦力を増やせるというのは凄いな。新しい戦闘スタイルのチームができるかもしれん」
支部長はフォートスパイダーに手を出すのは危険だと言わなくなった。勝てるのかもしれないと思い始めたのだろう。
支部長と別れて、俺は資料室へ向かう。フォートスパイダーについて調べようと思ったのだ。資料室には誰も居なかった。影の中からコムギが出てくる。
『私も調査に協力します』
俺とメティスは資料を調べ始めた。ようやくフォートスパイダーの資料を見付けた時には、昼が過ぎていた。
腹が減ったので、近くの定食屋で昼飯を食ってから資料室に戻る。すると、俺とメティスで探した資料をC級冒険者の石橋が見ていた。
「石橋さん」
「ん、もしかして、この資料はグリム君が用意したものなのか?」
「ええ、五層でフォートスパイダーが出たと聞いたので、調べようと思ったんです」
「先に読ませてもらったよ。フォートスパイダーはかなり手強いようだ。攻撃魔法の中でも通用するのは『メガボム』か『スーパーノヴァ』ぐらいしか、私は知らない」
攻撃魔法は数が多いので、習得する魔法に攻撃魔法使いの好みが反映されるようになる。石橋は爆発系の攻撃魔法を得意としているようだ。
石橋が資料室から去ったので、俺とメティスでフォートスパイダーについて調べ始めた。調べれば調べるほどフォートスパイダーが厄介な化け物だと分かってくる。
足の長さだけで八メートルほどだと書いてあるので、全体の大きさを想像すると身震いする。俺が戦った中で最大の魔物になるだろう。そして、頑丈さは第一次大戦中に存在した戦艦並みに頑丈だと書いてあるが、戦艦も色々あったから、どれほど頑丈かはよく分からない。
習得している生活魔法の中で仕留められる可能性が有るのは、『サンダーソード』と『ライトニングショット』だけだろう。それもフォートスパイダーが電気に弱いならという条件が付く。
「これだけだと心許ないな」
『新しい魔法を創るのですか?』
「さすがに今の戦力で、フォートスパイダーに戦いを挑むのは無謀だと思う」
メティスも賛成した。問題はどんな魔法にするかである。俺は冒険者ギルドを出て有料練習場へ向かった。そして、一番大きな練習場を借りる。
その中に入って考え始めた。
『どのような魔法を考えているのです?』
「まず、威力かな。あのコンクリートブロックを粉々にするくらいの威力は欲しい」
この練習場に置かれている標的のコンクリートブロックには、一辺が一メートルのものと二メートルのものがある。俺が指差したのは、二メートルのものだった。
『あれを粉々にするとなると、爆薬が必要だと思います』
「そうなんだよな」
ほとんどの通常兵器には爆薬が使われている。D粒子に爆薬の代わりをさせるとなると、どうすれば良いのか?
『新しい特性が必要なのではありませんか』
「特性? どんな特性だ?」
『D粒子が爆発的な勢いで全方向へ拡散するような特性です』
「なるほど、D粒子を爆薬に変えるという事か。でも、爆発というのは燃焼だろう。D粒子は燃えないのに、そんな特性を創れるのか?」
『衝撃波を伴いながら爆発的に拡散するという現象を、真似るだけでいいのです。酸素と結合して燃焼する必要はないと思います』
メティスが言うには、『衝撃波を伴いながら』というのが重要らしい。俺は『痛覚低減の指輪』を取り出して指にはめる。
賢者システムを起ち上げてから、苦痛を覚悟してD粒子一次変異の特性を創り出す作業を開始した。例の頭脳を乗っ取られたような感覚が俺を襲う。『痛覚低減の指輪』が有るので気を失うほどの激痛ではないが、かなり激しい頭痛が発生した。
今回は<放電>を創り出した時より、倍近い時間が掛かったように思う。頭痛が消え特性を創り出す作業が完了した。
「……ふうっ、『痛覚低減の指輪』が有るから我慢できるけど、毎回、二度とやりたくないと思わせる」
賢者システムを確認するとD粒子一次変異のところに<爆轟>という特性が追加されていた。
「成功したぞ」
『良かった。早速、試してみましょう』
俺は『コールドショット』を元に<冷却>を<爆轟>に変えた魔法を創り上げた。その威力を試すために、コンクリートブロックを狙って三重起動で発動する。
コンクリートに突き刺さった瞬間、爆発が起きた。D粒子の塊が一瞬で分解し音速を超える速度で周囲に飛び散る。その周囲にある原子を弾き飛ばしコンクリートをバラバラにした。
コンクリートブロックの一部が砕けて周りに弾け飛んだ。確認すると三十センチほどの穴が開いている。
「中々の威力だな」
『威力の割に爆発音が小さかったようですね』
「やっぱり普通の爆発とは違うのか……」
五重起動で試すと、爆発した瞬間一メートルのコンクリートブロックが粉々に砕け周りに飛び散った。爆音が響き渡り、十五メートルほど離れた位置に立っていた俺の所にも破片が飛んでくる。そればかりか発生した爆風で、俺の身体が薙ぎ倒された。
半身を起こしてむせる。大量の埃を吸い込んだようだ。
「ゴホッ、これは近距離で使える魔法じゃないな」
『『プロテクシールド』か『マグネティックバリア』を使えば、どうでしょう?』
「よし、『マグネティックバリア』を使ってみよう」
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