第194話 シャドウパペット作製用魔法

『グリム先生、熊型シャドウパペットは、どれくらい大きなものを製作するのです』

 メティスが確認した。まだ決めていなかったのだ。


「護衛役・見張り番として使う予定だからな。最低でも大人一人分の体重くらいはないとダメだと思う」


『しかし、魔物が相手です。もう少し大きくした方がよろしいのでは?』

「シャドウベアを倒して得られるシャドウクレイは、九十キロほどだったから、二回分の百八十キロで作るか」


『それなら十分な戦力になるでしょう』

「本物のシャドウベアに比べたら、貧弱だけど、シャドウベアより大きな魔物は多数居る。それより大きいものを作ろうと思ったら、限がない」


 護衛役のシャドウパペットを使う場合は限られる。数の多い魔物に取り囲まれた場合などが使い所となる。そういう魔物は個体としては弱い魔物が多いので、百八十キロのシャドウパペットで十分だろう。

 それに狭い迷路のような場所で戦う事も考えると、そのくらいが限界だ。


 現在、所有するシャドウクレイは二百七十キロ、シャドウパペットの製作でミスする事も考慮すると、三回分の五百四十キロは欲しい。


『そうなると、まだ半分という事になります』

「まだ半分なのか……今日は疲れたから、十層の中ボス部屋で一泊しよう」

 俺は、十層に下りて中ボスの居ない中ボス部屋で野営した。ここの中ボスは、生きている鎧『リビングアーマー』だそうだ。


 リビングアーマーは二ヶ月ほど前に倒されて、復活待ちの状態だった。他に冒険者が居ないので貸切状態である。


『見張りとしてコムギを出します』

 メティスがそう言って、俺の影からコムギを出した。

「そう言えば、ワイバーンの魔効骨はシャドウパペットに使えなかったのか?」


『使えない事もなかったのですが、魔効骨を加工して作る魔導武器は、それほど威力が高くないのです』

 魔効骨はメティスの好みには合わなかったようだ。俺も魔効骨については不勉強で、よく分からなかった。メティスと相談して売らないで保管しておけば、という意見も出たのだが、それは良くないとメティスが言った。


 こういうものは溜め込み始めると死蔵する事になるそうだ。その考えは間違っていないような気がする。


 メティスと色々話してから寝た。

 翌日もシャドウベアの狩りを続け、シャドウクレイが五百四十キロになったところでやめて、地上に戻る事にした。


 八層は灼熱の火山エリアなので、戦闘ウィングを出して飛ぶ事にする。

「暑いというより、熱い・・な」

『それなら保温マントを使えば、よろしいのでは?』


「戦闘時に使うと破れそうなんで、ダンジョンでは使わなかったんだけど、飛んでいる時は大丈夫か」

 俺は保温マントを取り出して羽織り、フードを被った。その瞬間、熱気を感じなくなる。


「ふうっ、これは快適だ。何で使わなかったんだろう」

 俺は保温マントを纏ったまま戦闘ウィングに乗って飛んだ。


 七層へ上がる階段へ到着した俺は、保温マントを脱いで仕舞う。七層の雪原エリアでは、戦闘が発生するはずだ。こんな高価な魔導装備を羽織ったまま戦う気にはなれなかった。


 また防寒着を着て階段を登り、吹雪で視界が悪い雪原を進み始めた。その後は特別な事はなく、地上に戻った。


 渋紙市に戻った俺は、本屋に行って取り寄せた本が届いているか尋ねた。ちゃんと届いていた。熊の解剖図などが載っている獣医学の学術書である。俺は代金を払って購入した。


 それから魔道具ストアに寄って、注文していた熊用のソーサリーアイとソーサリーイヤーを三組受け取った。


 マンションに帰ると、そのまま寝た。それだけ疲れていたらしい。

 翌日、俺は魔法学院の学生寮に居る亜美とカリナに連絡した。熊型シャドウパペットを製作する時に手伝ってもらう約束をしていたのだ。


 魔導人形師の弟子でもある亜美には、シャドウパペットの製作法を教えるつもりだ。習い事や道場の弟子ではないので指導料はもらわないが、一人前と認めるまでは弟子の作った作品は師匠である俺がもらって売却する事になる。


 粘土細工で試して、亜美は俺よりも造形力という点では優れていると分かった。だが、顔の部分に関しては実物とはかけ離れたものになり勝ちである。どうやら顔は可愛くないとダメだという信念があるらしい。


「そうだ。今のうちにシャドウクレイにD粒子を練り込んでおこう」

 俺はシャドウクレイを取り出して、その量の多さにうんざりした。これを手で練りながらD粒子を混ぜるのかと思うと……モチベーションが下がった。


 これは新しい生活魔法を作るべきだな。メティスに相談すると、

『『カタパルト』のD粒子リーフ葉っぱを応用するのはどうでしょう?』

「D粒子リーフか、良さそうだな」


 賢者システムを起ち上げて、シャドウクレイを練りながらD粒子を添加する魔法を創り上げた。発動させてみると、床に広げたシートの上にあるシャドウクレイがぐにゃぐにゃと変形し、平たくなったり丸くなったする。


 その間にD粒子がシャドウクレイに注入され、均等に混ざっていった。手作業で行えば何時間掛かるか分からなかった作業が、十数分の時間で終わった。


「こいつはいいな。『クレイニード』と呼ぼう」

 俺は全てのシャドウクレイを処理して、マジックポーチに入れた。その後、魔導コアと指輪を作製すると、学院へ行く時間になった。


 放課後に魔法学院に行くと、入り口でカリナが待っていた。

「済みません。待たせてしまいましたか?」

「いえ、大丈夫ですよ。作業は学院の美術室でやってもらいます」


 美術室へ行くと亜美が熊の写真を見ていた。

「今日はよろしくお願いします」

 俺は亜美に手順を簡単に説明する。

「D粒子を練り込むという作業が大変そうですね」


「その作業は、俺が終わらせてきた」

 亜美には優れた造形力で手伝ってもらう事にした。カリナにも手伝ってもらう。最初は練習として九十キロのシャドウクレイの塊を熊の形に成形する。かなりの重労働だ。


 この作業で活躍したのは、カリナだった。魔装魔法で筋力を強化したカリナが強力なパワーで基本的な形を作り上げ、俺と亜美が細かい仕上げをする。


 カリナの協力で短時間に完成した。すでにソーサリーアイとソーサリーイヤーが組み込まれているのだが、ちょっと変な熊になっている。


 カリナが出来上がった作品をジッと見た。

「熊の顔は、慈光寺さんが作ったのよね?」

「そうですよ。可愛いでしょ」

 実物の熊というより、ぬいぐるみの熊のような顔になっていた。


「まあ、練習だからいいけど。仕上げもやってみる?」

 俺が亜美に尋ねると、嬉しそうに頷いた。なので、熊の解剖図が載っている本を渡して、イメージさせる。


「やります」

 イメージが固まったらしく、亜美が魔導コアを組み込んでから魔力を注入する。黒い粘土の熊だったものが、本物の熊のように変化を始める。内側で何かが形成される様子が見えてから表面に毛が生え始める。足の爪や顔が本物らしくなり完成した。


 但し、顔は可愛いぬいぐるみ顔である。

「完成しました」

 亜美が満面の笑顔で報告する。イメージ通りのものが完成したのだろう。ただ俺の考えていた護衛用シャドウパペットは違う。


 この作品を売るのもどうかと思ったので、

「それは弟子になった証として、プレゼントしよう」

「ほ、本当ですか」

 亜美は飛び上がって喜んだ。

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