第162話 ブルーオーガ

 昇級試験が認可されるまでに少し時間が掛かるようだ。

 俺は新しい魔法の練習をしながら、認可が下りるのを待った。定期的に冒険者ギルドを訪れて、認可が下りたか確かめるのだが、冒険者ギルドの本部に書類が回っているらしく時間が掛かっている。


 そんな時、冒険者ギルドで鉄心と会った。

「ちょっと聞きたいんだけど、十八層の峡谷エリアでムサネズミに邪魔されて、谷に落とされそうになるんだが、グリムはどうしている?」


「十八層の崖の上から『ウィング』を使って、崖下まで下りています。偶に飛んでくるムサネズミも居ますけど、ほとんど邪魔されずに下りられますよ」


「やっぱり『ウィング』か。早く魔法レベル8になりたいぜ」

 雑談している中で、昇級試験の話になった。

「ファイアドレイクを倒して、昇級試験の認可が下りるのを待っているところなんです」


 鉄心が首を傾げた。

「C級の昇級試験は、ソロでブルーオーガを倒す事だったはず。ファイアドレイクを倒した後に、それより弱いブルーオーガを倒す試験なんて」


「ファイアドレイクを倒すという条件は、チームでも構わないというものだから、単独での強さを昇級試験で確認するんですよ」


「グリムには必要ないんじゃないか?」

「ただでさえ特別に認可してもらっているんだから、俺だけ免除するという訳にはいかないんです」


 それから三日後、認可が下りた。俺は早速試験を受ける事にした。試験官はC級冒険者の石橋連だった。自己紹介をしてから、頭を下げた。

「今日はよろしくお願いします」


 石橋は三十代後半の攻撃魔法使いだ。石橋は攻撃魔法使いのバタリオンを設立すると発表して評判になった人物である。


「若いな。二十歳くらいだろ?」

「そうです」

「上級ダンジョンに入った事は有るか?」

「D級の昇級試験を受けた時に一度だけ入りました」


 石橋と一緒に鳴神ダンジョンへ行き、中に入った。

 このダンジョンはリアル型と呼ばれている。上級ダンジョンにはいくつか種類が有る。その中でリアル型と呼ばれているダンジョンの特徴は、夜が訪れるという事だ。


 地上と同じように朝・昼・夕方・夜と時間の経過があり、一層ごとのエリアが広い。しかも広いエリアに様々な魔物が共存しており、気が抜けないダンジョンなのだ。


 鳴神ダンジョンの一層は森林と草原が入り混じったエリアだった。ここには弱いゴブリンからブルーオーガまで棲息している。


 その種類は確定しておらず、調査中の段階だった。俺たちは草原を奥へと進んだ。

「君は生活魔法使いだそうだね?」

「そうです」

「評判になっている君の生活魔法を見たいと思っていたんだ。途中で遭遇する魔物も君に任せて大丈夫か?」


 以前は、生活魔法に対する評価が低かった石橋だが、俺の活躍を聞いて評価を変えたようだ。

「ええ、構いませんよ」

 今までの試験も、途中で遭遇した魔物は受験者が倒していた。初めから倒すつもりだったので、反対する理由はない。


 最初にゴブリン三匹と遭遇した。三匹同時に襲い掛かってきたので、黒意杖を薙ぎ払う動作を引き金として、トリプルブレードを発動。V字プレートが鋭い刃となって横に薙ぎ払われ、ゴブリンの首が連続で刎ね飛ぶ。


「ほう、凄いね。それは魔法レベルがいくつで習得できるのかね?」

「魔法レベル5です」

 三匹を別々の魔法ではなく、一つの魔法で仕留める。これも魔力を節約する技術の一つだ。


 奥に進むと、オーク・リザードマン・リザードソルジャー・アーマーベアなどと雑多な魔物が襲ってきた。俺は全てを一撃で仕留めた。


「そう言えば、石橋さんはバタリオンを設立したんですよね?」

「ああ、水月ダンジョンの近くにバタリオン本部がある」

「どうして、バタリオンを運営しようと思ったのです?」


「四十歳が近くなって、後進の育成に力を貸そうと思い始めたんだ。まあ、自分の才能に限界を感じたからというのもある」

「限界? でも、C級じゃないですか。相当稼いでいたはずですよね」


「金を稼ぐより、後進を育成する事にやり甲斐がいを感じ始めたのだよ」

 バタリオンではメンバー同士で情報を交換し、魔物の攻略法を文章で残すという事もしているらしい。こういう情報が受け継がれていくというのも大事な事だと思う。


「あの森がブルーオーガの棲み家だ」

 俺たちは森に入り、ブルーオーガを探した。十五分ほど探した頃、目当てのブルーオーガと遭遇。自動的に戦闘開始となった。


 俺は黒意杖を構えて前に出た。ブルーオーガは身長三メートル、青い角を額から生やし蒼銀製の戦鎚を持っている。


 俺を目にしたブルーオーガは、咆哮を上げて襲い掛かってきた。戦鎚を振り上げたブルーオーガにクイントオーガプッシュを叩き込む。


 顔面に高速回転するオーガプレートが命中すると、ブルーオーガが一歩二歩と後退する。恐ろしい顔から血が流れ出し、怒気を含んだ叫びを上げて突進してきた。


 もう一度クイントオーガプッシュを発動する。だが、ブルーオーガは横にステップして避け、地面の土を舞い上げるような強い踏み込みで、俺に向かって跳躍する。


 五重起動で『プロテクシールド』を発動し、ブルーオーガの正面に固定する。ブルーオーガの戦鎚がD粒子堅牢シールドを叩いた。だが、D粒子堅牢シールドは耐えてブルーオーガの跳躍を止めた。


 動きの止まったブルーオーガに、クイントコールドショットを発動する。飛翔するD粒子冷却パイルを咄嗟に上半身を捻って躱すブルーオーガ。


 的を外したD粒子冷却パイルは、背後にあった大木に命中し幹を粉砕する。大木が轟音を立てて倒れ、ブルーオーガが俺を睨んだ。


 動きが慎重になったブルーオーガは、足元の石を拾って投げつけた。反射的にクイントPシールドを発動しD粒子堅牢シールドで投石を防ぐ。


 その瞬間、目が付いていかないような速さでジグザグに動いたブルーオーガが戦鎚を振り上げる。俺はD粒子の動きでブルーオーガの位置を割り出しセブンスオーガプッシュで迎撃した。


 魔物の胸に命中したオーガプレートが、ブルーオーガを弾き飛ばす。ブルーオーガの突進力とセブンスオーガプッシュの威力が相乗効果を発揮して、巨体を大木の幹に叩き付けた。その衝撃で大きな木が揺れる。


 俺は素早くクイントコールドショットを発動。D粒子冷却パイルがブルーオーガの胸に命中した。その先端が魔物の心臓を貫き致命傷を与え、ダメ押しの追加効果で破壊した心臓を凍らせた。


 ブルーオーガは赤魔石<中>を残して消える。

「お見事」

 石橋の声が聞こえた。


「生活魔法の素早い発動と威力は驚異的だ。君が上級ダンジョンでも活躍できる事を認めよう。合格だ」

「ありがとうございます」


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