第161話 戦いの結末

 磁気バリアはファイアドレイクの火炎ブレスを防ぎきった。洪水の時の濁流のように押し寄せていた炎が消えた瞬間、ドーム状に展開していた磁気バリアを解除する。すると、周りの熱気が押し寄せてきた。


 俺はクイントカタパルトで身体を斜め上に投げ上げた。空中に放り出された俺の正面にファイアドレイクの巨体があった。近くで見る化け物は凄まじい迫力がある。


 ファイアドレイクに向かってセブンスコールドショットを発動。凄まじい速度でD粒子冷却パイルが飛翔し、ファイアドレイクの右肩に命中する。


 D粒子冷却パイルの終端部分がコスモスの花のようにパッと開き、その凄まじい運動エネルギーをファイアドレイクの右肩に叩き込んだ。


 右肩の骨が粉砕しボコッと陥没する。そして、吹き出す血までも凍らせる追加効果を発揮した。俺は『エアバッグ』を使って着地。


 ファイアドレイクが狂ったように暴れまわり始める。手足や翼で俺を攻撃しようと接近したのだ。セブンスオーガプッシュをファイアドレイクに叩き付ける。


 弱体化していたファイアドレイクは、その一撃でよろめき後ろに倒れた。チャンスである。一気に駆け寄った俺は、倒れているファイアドレイクの胸にセブンスコールドショットを撃ち込む。


 その一撃は絶大な効果を発揮した。その胸の肋骨を叩き折り、胸の中心を陥没させ心臓や肺を凍らせたのである。ファイアドレイクは弱々しく藻掻いたが、最後には俺を睨んでから消えた。


 体内でドクンと音がした。魔法レベルが上がったのだ。ホッとした俺は全身から力が抜け、その場に座り込む。


『お見事です』

 メティスの声が頭に響いた。その時になって、顔や手がヒリヒリするのに気付いた。火炎ブレスの熱気を浴びた時に、軽い火傷をしたようだ。


 マジックポーチから水のペットボトルを取り出して、ヒリヒリする箇所に水を掛けて冷やす。ペットボトル二本ほど使って冷やした後、タオルで拭いてから、こういう時のために買っておいた火傷用の軟膏を塗る。


「さて、ボスドロップを確かめよう」

 俺はファイアドレイクが消えた辺りに行って探した。最初に黒魔石<大>を発見して拾い上げる。これだけで数年遊んで暮らせるだろう。


 次にファイアドレイクの牙を見付けた。これがファイアドレイクを討伐した証拠になるものだ。

「これは何だ?」

 次に拾い上げたのは、フード付きのマントだった。


 鑑定モノクルを出して調べて見た。これは『保温マント』だった。俺が二十八層で寒いと言ったからなのか? 誰かが俺の行動を見ていたという事になる。ダンジョンに神様でも住んでいるのだろうか?


『それは何ですか?』

 メティスが質問した。

「身体の周囲の気温を一定に保つマントだ。これは冬でも夏でも使えるものらしい」


『これを夏に身に着けたら、絶対変人だと思われます』

 夏にフード付きのマントを羽織った自分を想像してみた。交番から警官が駆けつけて来るかもしれない。夏の使用は諦めよう。


 最後に見付けたのは、おしゃれな感じの腕輪? いや二の腕に付けるアームレットだった。少し青みがかった金色の金属で出来ている。


 鑑定モノクルで確認すると、『収納アームレット』という魔導装備である。マジックバッグ系の魔道具をドラゴンは残すと聞いていたが、ファイアドレイクがこんなものを残すとは知らなかった。


 もしかしたら、ソロで倒したので特別なのかもしれない。鑑定モノクルで詳しいスペックを見てみると、縦・横・高さが十メートルの容量が有るらしい。滅茶苦茶高性能である。但し、時間の流れは同じだ。


 俺が左の二の腕に嵌めると、自動的に縮んでフィットする。使い方は簡単だった。使用者が収納するものを見て収納すると思えば収納され、出したい場所を見て出そうと思うだけで出てくるようだ。


 三十層の中ボスを倒したので、水月ダンジョンで最後の敵となるのはダンジョンボスとなる。但し、ここのダンジョンボスは厄介だった。


 魔法使いが幽霊となった『リッチ』と呼ばれるアンデッドなのだ。普通の剣や魔法では倒せず、聖属性の武器か生命魔法が必要になる。


 しかも強力な魔法が使えるので、非常に倒すのが難しいという。冒険者ギルドは挑戦して死ぬ冒険者が増えたので、ダンジョンボスに挑戦する事を禁止した。


『三十一層以降のエリアに興味はないのですか?』

 メティスが尋ねた。

「有るけど、上級ダンジョンに比べたら、月とスッポンだ」


 どうして冒険者の多くが新しい上級ダンジョンを目指して集まるかというと、新しいダンジョンで最初に発見された宝箱には、特別なものが入っている場合が有るからだ。その事をメティスに伝えると、興味を持ったようだ。


『後はC級の昇級試験を受けて、合格するだけなのですね』

「そうだ」

 俺は二日掛けて地上に戻った。冒険者ギルドでは、今日も鳴神ダンジョンの噂が飛び交っていた。B級冒険者の赤城が、二層に下りてサラマンダーを倒したというものだった。


 サラマンダーはオークキング以上ファイアドレイク未満という強さの魔物だ。俺は受付でマリアを見付け支部長に会いたいと申し出た。

「何かあったのですか?」

「いや、支部長と約束していた事が有るんですよ」


 俺は支部長室に案内された。

「グリム、約束というのは、まさか、例の化け物を倒したのか?」

「そうです。倒しました」


 俺はテーブルの上に、黒魔石<大>とファイアドレイクの牙を載せた。近藤支部長が驚き信じられないというように首を振った。

「本当にファイアドレイクを倒したのか。単独だったのだろ。よく倒せたな」


「支部長、約束ですよ。C級の昇級試験を受ける資格をお願いします」

「分かった。手続きをしよう」


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