第158話 試行錯誤

 ブルーオーガが鳴神ダンジョンの一層に棲み着いているのなら、C級の昇級試験を渋紙市の冒険者ギルドで行える事になる。


「上級ダンジョンに潜るような冒険者なら、ブルーオーガを瞬殺して二層へ行ったんでしょ」

「ところが、紅い鎧を装備していたというんだ。かなり防御力の高い鎧で、倒すのに苦労したらしい」


 紅い鎧か? 何で作られているのだろう。未知の金属か、それとも魔物の素材なんだろうか?


「ブルーオーガなのに、紅い鎧を装備しているなんて、ちょっとどうかと思わないか?」

 鉄心がニヤニヤした顔で言った。

「いいじゃないですか。ブルーオーガのファッションセンスなんですよ」


 装備品だからファッションセンスではないと思うが、質問が適当だから答えも適当だ。気になるのは、どんな武器を使っていたかである。それを鉄心に尋ねた。


「蒼銀製の戦鎚だ。そんな武器を持つ魔物が一層に居るというのが驚きだ」

「さすが上級ダンジョンというところです。しかし、蒼銀製の戦鎚か。ブルーオーガの力で振り回されたら、必殺の武器になる」


 と言っても、戦鎚の間合いに入るつもりはない。『パイルショット』か『コールドショット』の間合いで倒すのが良いだろう。


 情報をくれた鉄心に礼を言ってから、資料室に向かった。

 ファイアドレイクと魔法について調べるためだ。ファイアドレイクを仕留めるには空中戦で一発命中させる必要がある。


 機敏に飛翔するファイアドレイクに、どうやって命中させるかが問題なのだ。『フライ』を使ってファイアドレイクと空中戦をした攻撃魔法使いの報告を読み返した。


「ん、ファイアドレイクは空中戦で近付かれるのを嫌がったのか」

 ファイアドレイクは、三十メートルより近くに攻撃魔法使いを近寄らせなかったようだ。


『三十メートルでは、生活魔法の攻撃が届きません』

 メティスの声が頭の中で響いた。

「そうだな。だけど、今回はこちらの方が飛行速度で勝っている。それを利用して近付けるはずだ」


『強引に近付いて、魔法を放つのですね。命中するでしょうか?』

「どうだろう」

 追われているファイアドレイクは、必死で逃げ回るだろう。直進しかしない魔法では命中させられないかもしれない。俺とメティスはファイアドレイクが逃げ回るという前提で話している。それはファイアドレイクが警戒心の強い魔物だからだ。


『それに火炎ブレスで、反撃してくるかもしれません』

「その恐れもあるか。至近距離から火炎ブレスとか浴びたくないな。強引に近付くというのも危険か」


『射程を伸ばす方法はありませんか?』

 そうだ。D粒子の形成物を魔力でコーティングすると形を維持できると分かっている。ならば、魔力でコーティングしたものなら射程を伸ばせるかもしれない。


 俺はすぐにでも試してみたくなって、有料練習場へ行った。一番大きな練習場を借りて中に入る。


 賢者システムを起ち上げ、D粒子で長さが三十センチほどある短剣の刀身のようなものを形成し、魔力でコーティングした後に撃ち出すような魔法を創った。


 標的のコンクリートブロックから五十メートルほど離れた場所で、新魔法を発動する。赤く輝くD粒子ダガーが形成されコンクリートに向かって飛ぶ。


 D粒子ダガーがコンクリートに命中して跳ね返された。実験は成功だったが、重大な事に気付いた。魔力でコーティングすると多重起動ができず、多重起動による相乗効果を発揮できない。


 生活魔法において威力を上げる基本的な方法は二つ。多重起動と大量のD粒子を集めるという二つだ。多重起動ができないのなら、大量のD粒子を集めるしかなかった。


 俺はD粒子ダガーを全長二メートルほどに巨大化させ、できる限り飛翔速度を上げた。発動すると、D粒子ダガーではなくD粒子グレートソードみたいなものが目の前に現れた。


 それが高速で標的に向かって飛んだ。D粒子グレートソードがコンクリートにガツンと音を立てて突き刺さる。


『射程は伸びましたが、威力が足りません。それに命中するかどうか?』

「そうだな……こいつに<放電>の特性を付加して、命中前にD粒子を電気に変えて放出してみよう」


 そうする事で、稲妻のようなものを再現できないかと思ったのだ。

『面白いアイデアです。命中前というタイミングは、『センシングゾーン』の応用で探知させましょう』


 賢者システムで新魔法を改良して『サンダーソード』を創り上げた。威力を試すために、コンクリートに向かって発動する。


 電流とは自由電子の流れだ。コンクリートに接近したD粒子サンダーソードのD粒子のすべてを自由電子に変えて前方に放出する。


 その瞬間、青白い稲妻がコンクリートに向かって空中を走り命中した。ドーンという凄まじい轟音が響いて、コンクリートが火花を上げる。


 焦げ臭いにおいが漂ってきた。コンクリートに目を向けると黒い焦げ跡が見え、中心部は溶けて溶岩のようになっている。


「電気が熱に変わったのか。威力は上がったけど、これで命中するんだろうか?」

『ファイアドレイクは、雷を引き付けやすいはずです』

「本当なのか?」


『ダンジョンアーカイブからの情報では、ファイアドレイクは体内に静電気を溜め込みやすい体質のようです』


 ファイアドレイクは火炎ブレスを放つ時に、その静電気を利用して点火するらしい。最初に<放電>の特性を付加するアイデアを言った時に、メティスが賛成したのは、この情報を知っていたからのようだ。


 避雷針のような役割をファイアドレイクがするので、避けようとしても直撃するはずだとメティスは言った。


「これで仕留められるかどうかは、微妙なところだけど、地上に落とせば『コールドショット』で倒せるだろう」

『私もそう思います』


 俺は『サンダーソード』を何度も試して、改良を加えた。ただ大量の魔力を消費する魔法なので、撃てる数は限られるようだ。


 取り敢えず満足できるところまで改良したので賢者システムに登録した。但し実戦で確かめていないので、仮登録になる。今後も改良するかもしれないという事だ。ちなみに習得できる魔法レベルは『13』である。


 これでファイアドレイクを倒すのに必要な魔法は揃った事になる。後は二十八層と二十九層を攻略して、三十層のファイアドレイクを倒すだけだ。


 そうだ。まだ防寒具を用意していない。帰りに買おう。


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