第142話 オークキング

 オークジェネラルが俺たちに気付いて振り返る。その口元がニッと笑う。この魔物は戦う事が好きなのだと感じた。


 俺たちはオークジェネラルを取り囲むように半円状に散開する。由香里を除いた四人が『センシングゾーン』と『オートシールド』を発動。


 天音が小手調べとしてセブンスジャベリンを放ち、それをオークジェネラルが大剣で払った。千佳が跳び込んでセブンスブレードを放つ。この部屋は天井の高さが六メートルほどしかなく、真上から振り下ろすような『ハイブレード』は使えなかったのだ。


 オークジェネラルが大剣で受け止めた。だが、完全に受け止められた訳ではない。オークジェネラルは後ろに撥ね飛ばされる。


 それに追い打ちを掛けたのはアリサだった。空中に居るオークジェネラルにセブンスプッシュを叩き付ける。オークジェネラルの背中が部屋の壁に叩き付けられ跳ね返る。


 チャンスだと思った天音が、セブンスサンダーアローを発動。強力な電気を帯びた矢が凶悪な顔をした魔物に向かって飛ぶ。


 オークジェネラルが地面を転がって、天音の攻撃を避けた。そのまま起き上がると由香里に向かって跳躍する。凄まじい跳躍だった。剣の間合いに跳び込んだオークジェネラルが由香里に向かって大剣を振り上げた。


「任せろ!」

 俺が叫び、由香里の前に跳び込むとクイントPシールドを発動する。大剣がD粒子堅牢シールドにぶつかり鈍い音を立てた。


 その瞬間、アリサ・天音・千佳の三人がセブンスプッシュをオークジェネラルに叩き込んでいた。同時に三発の攻撃を食らった魔物は回転しながら宙を飛び壁にぶつかり血を吐き出した。


 防御力が高いと言われる魔導装備のスケイルアーマーでも吸収できない攻撃力だったらしい。

 俺の後ろに居た由香里が跳び出して、足を狙ってセブンスサンダーアローを放った。魔導装備に守られていない足に命中した由香里の攻撃は、オークジェネラルの全身に大電流を流し込む。


 オークジェネラルが絶叫する。そして、大剣を一番近い位置に居たアリサに向かって投げた。アリサはクワッドPシールドを発動する。回転しながら飛来した大剣は、シールドに当たって跳ね返された。


「離れて!」

 千佳が叫び、横殴りの『ハイブレード』を発動した。上から振り下ろすのがダメなら、部屋の広さを利用して薙ぎ払うようなセブンスハイブレードを繰り出したのである。


 壁に貼り付いているオークジェネラルに音速を超えたD粒子の刃が食い込んだ。その衝撃で背後の壁にヒビが走る。


 由香里が『プロミネンスノヴァ』を発動する。高熱の炎の塊がオークジェネラルを包み込んで焼く。それがトドメとなった。


 オークジェネラルの姿がバラバラに分解し消える。その後には、魔石と黒いものが残された。

 俺は由香里を守るために『プロテクシールド』を一回使っただけで終わった。アリサたちに経験を積ませるために戦いを譲ったのだが、あっさりと勝ってしまったので拍子抜けする。


 もう少し苦戦するかと思っていたのだ。

「グリム先生は、こいつを一人で倒したんですよね。凄いな」

「いや、皆も凄かったぞ」


「グリム先生、ありがとうございます」

 由香里が深々と頭を下げ礼を言った。

「余計なお世話だったかもしれないけど、ああいう攻撃は予想以上に強力な事が有るからな。それよりドロップ品を確認しよう」


 俺たちはオークジェネラルが残したドロップ品を確認した。黒魔石<小>と俺が装備している黒鱗鎧と同じものだった。


 アリサが黒鱗鎧を拾い上げた。

「この中で一番防御力に不安がある由香里が、これを装備するのがいいかも」

「でも、防刃マントもあたしが装備してるのに」


「オークキングの攻撃だと、防刃マントなんて紙装備と同じよ」

 アリサは黒鱗鎧を由香里に渡した。由香里が装備しているスティールリザードの革製鎧より、黒鱗鎧の方が防御力は上である。


 由香里が着替えると変な声を上げた。

「ひゃっ!」

 天音が首を傾げて、どうしたのか尋ねる。


「黒鱗鎧を装備したら、頭の中にスイッチが浮かび上がったのよ。グリム先生はいつも、このスイッチで制御しているんですか?」


「そうだよ。慣れると簡単だから試してみるといい」

 由香里はスイッチのオン・オフを試しているようだ。


「それじゃあ、少し休んでから、オークキングと対決する事にしよう」

 床に座ってそれぞれが好きな飲物を飲み、一息ついた。この部屋はオークナイトが入って来ないらしい。


「オークキングの居る部屋は、ここより天井が高いでしょうか?」

 千佳は『ハイブレード』が使い難かった事を気にしているようだ。


「オークキングが居る聖堂は、大きなドーム状の空間らしいから、『ハイブレード』も問題なく使えると思う」

 千佳が安心したように微笑んで頷いた。


「よし、行こう」

 俺たちはオークキングの居る聖堂へ向かった。聖堂への道は、この部屋の奥にある扉から入れるらしい。


 奥の扉を開き通路に出る。その通路の先には白い扉があった。あれが聖堂の入り口のようだ。扉の前で事前に発動しておいた方がいい魔法を使い、それから扉を開けた。


 誰かが背中を押したような感じで聖堂に移動すると、扉が閉まりロックが掛かったようだ。俺は聖堂の中を見渡した。直径五十メートルほどのドーム状の空間の中に、身長二メートル半、黄金の鎧を装備したオークキングが立っていた。


 その手には三つに分かれた穂先を持つ大槍がある。トライデントと呼ばれる魔導武器だ。その全身からオーク族の王と呼ばれるだけのオーラというか、存在感が放たれている。


 そのオークキングがギョロリと俺を睨んでから、トライデントを突き出した。俺は慌ててセブンスPシールドを発動する。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る