第140話 週刊誌
最後にセブンスヒートシェルを見せる事になった。エミリが説明を求める。
「この生活魔法は、特殊なものなんですよ。魔法を発動するのに金属が必要なんです」
「金属? どういう事なんだね?」
田島が質問した。だが、詳しく説明するのは面倒なので、実際に見せる事にする。
「あのコンクリートに向かって発動するので、少し離れてください」
俺が忠告したのに、田島は標的にするコンクリートの近くから離れなかった。命中した瞬間をじっくりと確かめるつもりのようだ。
まあいい。警告はしたのだ。あのくらいの距離だったら、怪我はしないだろう。
俺はセブンスヒートシェルを発動させた。田島は射線からは外れているが、俺とコンクリートの中間辺りで魔法が発動する様子をジッと見ている。
銅リングを投げ入れたのを見たエミリが、目を丸くしている。完成したD粒子シェルがコンクリートへ向かって飛んだ。
命中したD粒子シェルはメタルジェットを噴き出した直後に爆発。その爆風が田島を襲った。これほど強い爆風が発生するとは思っていなかった田島は、吹き飛ばされて地面を転がる。
「うわっ!」
俺とエミリの所にも爆風が来たが、身構える時間があったので耐える。エミリも顔の前に腕を交差して防御している。
爆風が収まった後に田島の様子を見ると、ふらふらしている。高速で回転したので目を回したらしい。それに涙目になっていた。倒れた拍子に腰を強く打ったようだ。
「田島さん、大丈夫ですか?」
エミリが田島を心配して駆け寄った。
「……爆発するなんて聞いていないぞ」
エミリが溜息を漏らした。
「だから、グリム先生が離れるように、言ったじゃないですか。そんな警告を出すのは、理由が有るに決まっています。それを無視したのはあなたですよ」
何も言い返せない田島だった。その様子を見て、俺は思わず笑ってしまう。
「もういい。それより威力を確かめるぞ」
田島は腰を
コンクリートの表面が蜘蛛の巣のようにヒビ割れ、その中央に穴が開いていた。その穴はコンクリートブロックを貫通しており、後ろにあったコンクリートブロックにも穴が開いている。
それを確認した田島は唸り声を上げた。威力に関して言えば、『デスショット』より上だと分かったからだ。明確な証拠が有れば、認めざるを得ない。
「凄いですね。これならオークキングも仕留められますよ」
エミリが興奮して声を上げた。
田島も威力のある魔法を確認して目をギラつかせている。
あまり時間がなかったので、取材を手早く終わらせた。エミリたちはもう少し取材を続けたかったようだが、俺はこういう取材が好きではないようだ。必要な情報は渡したので十分だろう。
その取材が記事として載った週刊誌が発売された。日本中で週刊冒険者を購入した人たちが、新しい生活魔法の事について知った。生活魔法の歴史は大きな一歩を踏み出したのである。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
生活魔法についての記事が出た数日後に、オークキングが復活した。俺とアリサたちは一緒に水月ダンジョンへ潜り二十層へ向かう。
「グリム先生は、写真が嫌いなんですか?」
天音がそう尋ねた。
「別に嫌いじゃないけど」
「だったら、なぜ週刊冒険者には、あたしたちの写真しか載っていなかったんです?」
たぶんイケメンでもない男を載せるより、魔法学院の女子生徒を載せる事を編集者が選んだのだろう。つまりビジュアルで選んだという事だ。
俺がC級やB級の冒険者だったら違ったかもしれないが、D級の冒険者など写真を載せる必要はないと判断されたのだ。
「たぶん、写りが悪かったんだ。それより一気に十五層まで行くから頑張れよ」
「はい」
アリサたちは張り切っていた。待ちに待ったオークキングが復活したという報せが入ったのである。他の誰かが倒す前に倒さなければならない。
俺たちは十五層まで一気に下りて休憩する事になった。ここはアーマーベアの居るエリアだが、これだけの冒険者が揃っていれば負ける事はない。
弁当屋で購入した弁当をマジックポーチから取り出して配った。アリサがマジックバッグから水筒を取り出して温かいお茶を配る。
食事を終えて、雑談が始まった。と言っても、魔物の接近には注意を払っている。
「皆はもうすぐ三年生になるんだな。進路は決まっているのか?」
アリサと由香里は、大学に行くらしい。天音と千佳はプロの冒険者になりたいというのだが、家族に反対されていると言う。
「大学に行ってからでも遅くないだろう、と両親が言うんです」
「私のところも同じです」
天音と千佳の両親は、大学に行けるだけの余裕が有るのだから、行った方が良いという意見だそうだ。
そんな話をした後、俺たちは十五層の草原エリアを奥へと向かった。
十分ほどでアーマーベアに遭遇する。天音と千佳がセブンスハイブレードで瞬殺する。ほとんど同時に二つのD粒子の刃がアーマーベアを切り裂き息の根を止めた。
その調子でアーマーベアとレージスパイダーを蹴散らして階段まで行き十六層へ下りた。十六層は迷路エリアである。初めての者は攻略に時間が掛かるが、俺は峰月と一緒に一度攻略している。
問題なく十六層の迷路を突破して、十七層に下りた。ここは巨木の森エリア、一つ眼の巨人キュクロープスが居る場所だった。
キュクロープスは敵に遭遇すると仲間を呼び集める習性があるので、『センシングゾーン』を使って先に発見して見付からないように突破するのがベストである。
「へえー、キュクロープスには、そんな習性が有るんですか。面倒な魔物なんですね」
俺の話を聞いた天音が感想を言う。
やっぱりというか、十八層へ下りる階段がある場所に、キュクロープスが三匹待ち構えていた。
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