第139話 生活魔法の将来性

 エミリはアリサたちから取材してから、彼女たちの先生であるグリムに取材したいと言い出した。田島も会いたいと言っている。


「グリム先生は、水月ダンジョンに潜った後、魔石を換金するために冒険者ギルドへ寄るはずですよ」

 天音が教えた。それを聞いたエミリは、困ったという顔をする。


「それだと、遅くなるかもしれませんね」

「大丈夫です。今日は魔法文字の勉強をする日なので、早く戻ってくると思います」


 偶々予定を知っていた天音が答えた。それを聞いたカリナが笑って尋ねる。

「そんな事まで知っているの?」

「オークキングを倒す行動計画を一緒に立てているので、予定を聞いたんです」


 エミリと田島は冒険者ギルドへ行く事にした。その途中、エミリが質問した。

「田島さん、彼女たちの生活魔法をどう思いました?」

「魔法学院の生徒としては、上位二十くらいに入る実力は有るだろう。だが、トップ3には入っていない。アメルダ魔法学院の羽柴やD級冒険者の御堂が上だろう」


「そう判断した理由は?」

「彼女たちは中級ダンジョンの二十層を狙うレベルだが、御堂たちは三十層で活動している。やはり経験が違うだろう」


「今から会うグリム先生は、どうでしょう? 本当にC級やB級になれる人物なんでしょうか。会うのが楽しみです」


 二人は冒険者ギルドに到着すると待合室でグリムを待った。そして、若い冒険者が入って来て、換金を済ませるとエミリたちの方へ歩み寄った。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「こんにちは。榊ですが、俺に用が有るそうですね?」

「週刊冒険者の記者をしている鬼塚エミリです。取材をさせて欲しいんですが、よろしいですか?」


 『週刊冒険者』という言葉にちょっと感動した。有名な週刊冒険者の記者が取材に来るなんて思った事もなかったからだ。俺の本名が広がる以外なら問題なかったので、『グリム先生』という事で書いてくれるなら、という条件で承諾した。


 事情を聞くとアリサたちから紹介されたのだと言う。

「そちらの方も記者さんですか?」

「ああ、紹介を忘れていました。週刊冒険者で記事を書いてもらっている魔法評論家の田島陽一さんです」


「魔法評論家? そういう職業の人が居るんですね。初めて知りました」

 田島が少し不機嫌な顔になる。それを見たエミリが、

「まあ、魔法評論家は少ないですから、知らないのも無理ありません」


 俺は何を知りたいのか尋ねた。

「生活魔法の将来性です。グリム先生はC級、B級の冒険者になると彼女たちが言っていました。本当に生活魔法使いが一流の冒険者になれると思いますか?」


 冒険者はA級・B級・C級を一流、D級・E級を二流と呼ばれる事が有る。D級・E級の冒険者に対して失礼な言い方だが、一般的に呼ばれているのだから仕方ない。


「もちろんです。将来は上級ダンジョンを活動場所にしたいと思っています」

 田島が口を挟んだ。

「簡単に言うが、C級冒険者への昇給試験は難しい。ある上級ダンジョンでの課題は、ブルーオーガを倒す事だったのだが、倒せる自信が有るのかね?」


 ブルーオーガという名前だけは知っているが、どれほど強いか分からない。

「そのブルーオーガは、オークキングより強いんですか?」

「同じか、少し弱い程度だな。まあ同等と思っていいだろう」


 だったら、倒せそうだ。問題はブルーオーガのスピードだ。オークジェネラルより素早いなら苦戦しそうだ。


「同等なら勝てると思います」

 簡単に勝てると言い切った俺に、田島が鋭い視線を向ける。

「ダンジョンの魔物を舐めていないだろうね?」


「そんな事はありません」

「魔法学院の生徒たちもそうだったが、防御力の高いオークキングを仕留める魔法が有るのか訊いても、有るとだけしか答えなかった」


 たぶん、田島の質問の仕方に問題が有ったのではないだろうか? 魔法評論家という職業なのだから、既存の魔法に関しては豊富な知識を持っているのだろう。だが、それが尊大な態度として表れ鼻につく。


「それはまだ魔法庁に登録していないので、答えなかったのだと思います」

 俺が適当に誤魔化すと、エミリが身を乗り出した。

「というと、グリム先生が発見した生活魔法という事ですか?」


 俺は頷いた。

「そうです。『ハイブレード』と『ウィング』は、これから登録する予定なのです」

「でも、交流会では説明していましたよ」

 エミリが指摘した。


「交流会では、生活魔法を広めるために、特別に許可していたのです」

「そうだったんですか」

 なんとか誤魔化せたようだ。田島の態度が気に入らなかったからじゃないかとは言えない。


 田島が俺を睨む。

「それで、その『ハイブレード』と『ウィング』を使えば、オークキングが倒せるのかね?」

 セブンスハイブレードを二十発ほど叩き込めば、仕留められるかもしれない。だが、反撃もせずにジッとしているような魔物ではないので、現実には無理だろう。


 『ハイブレード』で仕留めるなら、D粒子収集器を使ったナインスハイブレード。『ヒートシェル』ならセブンスヒートシェルが必要だ。


 アリサたちを嘘つきにする訳にはいかないので、切り札の一つを教える事にした。

「彼女たちには、切り札として『デスショット』に似た生活魔法を教えてあります。それならオークキングを仕留められるはずです」


 田島が疑うような目で俺を見た。

「本当に、そんな生活魔法が有るのかね?」

 俺は時間を確かめた。魔法文字を教えてもらっている村瀬講師が自宅に来るのは一時間後だ。有料練習場へ行く時間は有る。


「いいでしょう。実際にお見せします」

 俺が有料練習場へ行こうと言うと、エミリが冒険者ギルドと交渉して車を借りた。エミリの運転で有料練習場へ到着。


「グリム先生、まず『ウィング』と『ハイブレード』を見せてもらえませんか?」

「いいですよ」


 俺は『ウィング』で空を飛び回ってみせた。それを見た田島が目を丸くする。

「『フライ』と同じようなものかと思っていたが、全然違う。これはダンジョンでの活動に革命を起こしそうだ」


 次にセブンスハイブレードを見せた。D粒子の刃がコンクリートの標的に食い込み大きな溝を作ると、エミリは目を瞠り、田島は唸り声を発した。


「凄い、この威力は『デスショット』に匹敵するかも……」

「早すぎる。こんな短時間に発動するのに、この威力とは」

 エミリはその威力に驚き、田島は発動するまでの時間に注目したようだ。


「だが、まだだ。セブンスハイブレードでもオークキングを倒せるとは思えん」

 その通りなのだが、田島に言われると何だかイラッとする。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る