第138話 『プロテクシールド』と『デスショット』

 週刊冒険者の記者であるエミリは、アリサたちがどんな活動をしているのか尋ねた。それに対してアリサが代表して答える。


「中級の水月ダンジョンで、二十層の中ボスを狙っています」

「へえー、どんな魔物なの?」

「オークキングです」


 評論家の田島が、笑いながら首を振る。

「無謀だな。E級の生活魔法使い二人と魔装魔法使い、攻撃魔法使いだけで、オークキングは無理だ。オークキングが持っているトライデントをどうするつもりだね?」


 E級冒険者程度ではトライデントから放たれる魔力砲弾を対処できない、と田島は言いたいらしい。天音が「ふふふ」と笑う。


「その問題は解決済みです。あたしたちはガルムを倒して、凄い魔法を手に入れたんです」

 エミリは興味を持った。

「それは、どんな魔法なんです?」

「防御用の生活魔法です」


 魔装魔法は身体の周りに魔力の膜を纏って敵の攻撃を防ぎ、攻撃魔法は魔力障壁を作り出す魔法が有る。生活魔法の防御とは、どういうものなのだろうか、エミリは知りたくなった。


「『プロテクシールド』という魔法です。D粒子の大盾を作り出す魔法なんですよ」

 田島が疑るような目で天音を見た。


「本当に解決したのか、疑問だな。トライデントの魔力砲弾は、『デスショット』に近い威力を持つ。その『プロテクシールド』で、『デスショット』を受け止められるのかね?」


「たぶん」

「自信がないのかね?」

「『デスショット』で試した事がないだけです。もしかして、田島さんは『デスショット』を使えますか? 攻撃魔法使いなんですよね?」


 田島が苦い顔になった。

「できないんですか?」

「できる。だが、その『プロテクシールド』という魔法を打ち破るには、『デスショット』は必要ないだろう。『ヘビーショット』で十分だ」


 『ヘビーショット』は魔法レベル10で習得できる攻撃魔法である。『デスショット』の徹甲魔力弾ほどの貫通力はないが、命中した瞬間に爆発するので大きな威力を持つ。


 カリナはちょっと心配になった。

「大丈夫なの? 『ヘビーショット』で放たれる魔力榴弾は強力よ」

 アリサは首を傾げ計算した。

「貫通力は『デスショット』に劣るみたいだから、四重起動か五重起動で防げると思うけど、試してみたいな」


 それを聞いたエミリが賛成した。

「田島さん、『プロテクシールド』の強度を確かめたいので、『ヘビーショット』で攻撃してもらえませんか?」

「構わないが、どうせ一発で壊れてしまうと思うぞ」


 全員で訓練場へ向かう。一番素早い天音が『プロテクシールド』を発動させる事になった。

「まず、クイントPシールドを発動して、田島さんに『ヘビーショット』で攻撃してもらいましょう」


 アリサが提案すると、田島が口を挟んだ。

「ちょっと待て、クイントというと五重起動だろう? それが最高なのか?」

「いえ、七重起動までできますが、まずは五重起動の時の強度を確かめたいんです」


 田島は不満そうな顔をしたが、承諾した。自分の『ヘビーショット』に自信があるのだろう。

 天音がクイントPシールドを発動して、淡く黄色の光を放つD粒子堅牢シールドが現れると素早く逃げた。その瞬間、田島が真剣な顔で『ヘビーショット』を発動する。


 オレンジ色を放つ魔力榴弾がD粒子堅牢シールドに命中すると爆発した。爆風が収まった後に確認すると、D粒子堅牢シールドが元の姿で存在していた。そして、点滅してから消える。


「な、なんだと……私の『ヘビーショット』で破壊できない」

 田島はちょっとショックだったようだ。その反対に天音たちは大喜びしている。


 エミリは驚きと同時に感心していた。半々でクイントPシールドが破られるのではないかと予想していたのだ。


「よし、次は『デスショット』を試してやる」

 田島がちょっとむきになっている。天音はセブンスPシールドを発動して素早く逃げる。それを確認した田島がD粒子堅牢シールドを睨み集中する。


 そして、珍しい事を始めた。目標であるD粒子堅牢シールドを指差しながら詠唱したのである。


「デス・デス・デス・デス……デスショット!」

 気合を入れて発せられた詠唱の後に、『デスショット』が発動し徹甲魔力弾がD粒子堅牢シールドに当たった。徹甲魔力弾はD粒子堅牢シールドに弾かれて消える。


「ヤッター!」

 天音が飛び上がって喜ぶと、由香里が抱きついて一緒に喜び始める。その様子を見たエミリは、拍手した。


「どうです? 素晴らしいと思いませんか? これならオークキングの魔力砲弾も撥ね返せそうです」

 カリナがエミリに言った。

「ええ、『プロテクシールド』は素晴らしい。……でも、久しぶりに補助詠唱法が見れたのも収穫でした」


 補助詠唱法とは、その魔法を発動するのにちょっとだけ力が足りないという時に行う方法である。詠唱する事で魔力や気力を絞り出しているのだという。


 力を出し尽くした田島は、訓練場の地面に座り込んでいる。変な詠唱までして発動した『デスショット』が完全に防がれたので大きな衝撃を受けたようだ。


 アリサがカリナの近くに来て尋ねた。

「先生、田島さんが行ったのは何ですか?」

「あれは、補助詠唱法よ」


 カリナが説明した。それによると最近では使われなくなった方法らしい。

「呪文は決まったものなんですか?」

「いえ、気合が入れば、何でも良かったはず」


 アリサは感心したように頷いた。しかし、田島が補助詠唱法を使ったという事は、今の『デスショット』が最低レベルの威力だった事を意味している。なぜなら、攻撃魔法の威力は発動した者の力量に左右されるからだ。

 オークキングの魔力砲弾とほぼ同じ威力になっていたかもしれない。


 それに、あの詠唱はもっとどうにかならなかったのかという感想を持った。


 田島が立ち上がって、カリナたちに近付く。

「『プロテクシールド』がある程度の防御力を持っている事は認めよう。だが、それだけではオークキングに勝てるとは言えんぞ」


 エミリが田島へ視線を向ける。

「どういう意味です?」

「今回の取材前に、生活魔法について調べてきた。確かに新しい魔法が登録されているようだが、多重起動を使ってもオークキングの守りを打ち破れるとは思えん」


 田島は多重起動で生活魔法の威力が、どれほど上がるのか正確には知らないはずだ。だが、独自の計算方法で威力を計算してきたという。


 新しい魔法については魔法庁で調べたのだろう。現在、グリムが基準とした十一個の生活魔法の中で『ハイブレード』『ウィング』以外の登録を終えている。という事は、『ハイブレード』や『ヒートシェル』を田島は知らないのだろう。


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