第103話 十七層の巨人

 峰月は頻繁に『マナウォッチ』を使い魔力を放つ存在をチェックしているようだ。この『マナウォッチ』は消費する魔力が少ないので、よく使っているのだという。こういう点は見習わなければならない。


「アーマーベアを発見した。もうすぐ姿が見えるはずだ」

「逃げられないんですか?」

「無理だな。こちらに気付いている」


 アーマーベアは、俺たちの姿が目に入った瞬間、凄まじい咆哮を発した。その咆哮で心臓がバクンと波打ち、肝が冷える。


「私が仕留める。グリムは後ろで見ていてくれ」

 手強い魔物は峰月が仕留めるという約束だったので、俺は準備だけをして峰月を見守った。相手はスティールリザードには劣るが、それに次ぐ防御力を誇るアーマーベアだ。セブンスハイブレードか、セブンスヒートシェルでないと仕留められないだろう。


 俺はセブンスハイブレードの準備をして、アーマーベアの動きを観察した。この魔物の武器は鋭い爪と牙、そして恐ろしい怪力だ。


 その怪力と爪の組み合わせは、凶悪な攻撃方法となる。アーマーベアが木の幹を爪で薙ぎ払うと、その木が引き裂かれ大きな音を立てて倒れた。


 それを見た峰月は、ニッと笑う。

「私を脅しているのか?」

 峰月は迫ってくるアーマーベアを睨み、『デスショット』を放つタイミングを待つ。仕留められる魔法で確実に終わらせようと考えているのだ。


 アーマーベアが猛烈な速さで駆け始める。峰月はアーマーベアの胸に向かって徹甲魔力弾を放った。徹甲魔力弾は狙った場所に命中。アーマーベアの鱗のような装甲が徹甲魔力弾を弾き返そうと力を発揮する。


 徹甲魔力弾に込められた魔力とアーマーベアの鱗に秘められた魔力がせめぎ合い、徹甲魔力弾の速度が落ちた。だが、せめぎ合いは徹甲魔力弾が勝利し、アーマーベアの鱗を貫き体内の臓器に襲い掛かる。

 徹甲魔力弾はアーマーベアの装甲を抉り心臓を破壊した。


「お見事です」

 峰月が当然だという感じで頷いた。

 攻撃魔法使いの戦い方は、遠い間合いで攻撃を受ける前に倒すというものだと思っていたが、確実に倒すために引きつけてから仕留める事もあるようだ。


 魔石を拾った峰月が、

「こっちだ」

 と言って階段へと案内した。森の中にある一本の巨木の根元に、階段があった。


 俺たちは十六層に下りた。十六層は巨大な迷路だった。そこでデンジャーワームや虫型の魔物を倒しながら進み、十七層に到達。


 十七層は巨木の森で、遭遇する魔物は巨人だそうだ。

「ここの巨人とは戦わない」

 峰月が意外な事を言った。

「戦わないで、通り抜けられるんですか?」


「『マナウォッチ』で、巨人を探知して避ける。ここのエリアで、巨人と戦ってはダメなんだ」

「どうしてです?」

「仲間を呼ぶからだ。巨人の集団と戦う事になる」


 二人だけで巨人の集団と戦うのは、さすがに遠慮したい。俺は峰月に従い、巨人を避けながら森の奥へと進んだ。だが、階段の前まで来て、二匹の巨人が階段の前に座っているのを見付けた。


「はあっ、よくある事だけど、どうして階段を守るように居るんですかね?」

「たぶん、私たちみたいに、魔物を避けて通り抜けようとする者が、多いからじゃないか」


 ダンジョンは、人間が戦う事を望んでいるのだろうか? ダンジョンの存在理由や正体を研究している学者は多いが、それを突き止めた者は居ない。いつになったら分かるのだろう。


 このエリアの巨人は、キュクロープスと呼ばれる一つ目の巨人である。身長は五メートルを超え、額の下にある独眼は、瞳が赤かった。


 峰月が俺に視線を向けた。

「生活魔法でスティールリザードを倒したと言っていたな。あれを仕留められるか?」

 キュクロープスは防御力が高く力が強い、それに加えて巨大な棍棒を振り回す。その棍棒の破壊力が半端なものではなく、D級の魔装魔法使いでも攻撃を食らうと死ぬかもしれないという。


 俺はセブンスプッシュを受け止めた剛田の事を思い出した。ああいう冒険者が棍棒の攻撃を受けて死ぬのだ。生活魔法使いなら、『オートシールド』を発動していても死ぬだろう。

 セブンスプッシュで棍棒の攻撃を跳ね返せるだろうか? 難しいかもしれない。


「ええ、仕留められると思います」

「だったら、一匹ずつを仕留めて、階段を下りよう。仲間が集ってくるまでに仕留めないとまずい事になるぞ」


 黒意杖を握り締めた俺は頷いた。俺と峰月は左右に分かれて、別々の巨人を攻撃する事になった。俺は左の巨人に狙いを定めて、セブンスサンダーアローを放った。


 セブンスサンダーアローが巨人の肩に命中して落雷したかのような轟音と火花を散らす。その一撃で仕留められなかった。心臓や頭に命中しなかったからだ。早撃ちの課題はほとんどクリアしたので、この先の課題は命中率になるかもしれない。


 魔法は発動できるようになっただけでは、使い熟しているとは言えない。発動までの時間や命中率が課題となるのだ。


 巨人が無事な方の手で棍棒を振り上げ、俺に向かって振る。俺は後ろ斜めに跳びながら、セブンスプッシュを棍棒に叩き込む。セブンスプッシュは棍棒の速度を遅くしたが、撥ね返す事はできなかった。

 さすがに七重起動でも魔法レベル1で習得できる生活魔法では限界なのだ。


 棍棒は背後にあった巨木に当たって止まった。その巨木を計算して後ろに跳んだのだから、当然である。俺は黒意杖を掲げ、セブンスハイブレードを巨人の首に叩き込む。


 斜めに入ったV字プレートの刃は、巨人の首を刎ね飛ばした。峰月の方を見ると、すでに巨人を始末していた。

「そちらも終わったようだな」

 俺は肯定してから、赤魔石<小>を拾い上げる。


 周囲から巨人たちが集まってくる足音が聞こえてくる。

「急いで十八層に下りるぞ」

 俺たちは階段を駆け下りた。


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