第82話 オーク城(2)
俺はドアが開くか確かめてみた。ダメだ、開かない。オークジェネラルを倒すしか生き残る道はないようだ。
カリナ先生は、巨大な狼だと言っていたのに、オークジェネラルか……出て来る魔物が決まっている訳じゃないんだな。しかし、欲に目が
俺は『センシングゾーン』『オートシールド』『パワーアシスト』を発動させる。
オークジェネラルがゆっくりした歩みで迫ってくる。小手調べにクイントサンダーボウルを放った。オークナイトなら確実に気絶させる魔法である。
オークジェネラルが大剣を盾のように構える。その大剣にクイントサンダーボウルが命中して弾かれた。普通なら大剣に流れ込んだ電気が、オークジェネラルにダメージを与えるはずだ。だが、オークジェネラルは平気な顔をしている。大剣に特別な効果が有るのかもしれない。
オークジェネラルが大剣を横薙ぎに振る。俺は魔装魔法で強化された脚力で跳び退いた。目の前を、凄い風切り音を放ちながら大剣の刃が通り過ぎる。
血の気が引くのが分かる。それほどの威力を感じたのだ。オークジェネラルが間合いを詰めようとしたので、クイントプッシュを放つ。またも大剣で防御された。あの大剣は盾としても使われているようだ。
五重起動の魔法では、オークジェネラルへダメージを与えられないらしいので、七重起動に切り替える。セブンスプッシュを放つ。
同じように大剣を盾として受け止められたが、オークジェネラルを二、三歩後退させる事に成功した。オークジェネラルが顔を歪める。
次の瞬間、巨体が飛び込んできた。ヤバイ、ヤバイ。俺は後ろに跳びながら戦鉈を構える。大剣が伸びてきて、D粒子シールドが受け止める。そのD粒子シールドが砕けた。慌てて戦鉈で大剣を受け流そうとする。戦鉈の柄に大剣が食い込み切断された。
戦鉈は犠牲になったが、俺はダメージを受けずに済んだ。だが、精神的に大ダメージを受けていた。D粒子シールドを破壊され、戦鉈が真っ二つになったのである。動揺しない方がおかしい。
武器をなくした俺を見て、オークジェネラルがニタリと笑う。
辛うじて大剣の攻撃を避けた俺は、セブンスアローを放ち反撃した。だが、その攻撃は大剣で受け止められるか、スケイルアーマーで受け止められた。このスケイルアーマーは、憎たらしいほど防御力が高かった。普通なら傷くらいは付くものだが、全くの無傷でセブンスアローを跳ね返したのだ。
劣勢のまま戦いは続いた。俺は刀身がなくなった戦鉈を捨て、聖銀製短剣を持って戦っている。『センシングゾーン』と『パワーアシスト』を駆使して、オークジェネラルが振り回す大剣の攻撃を躱し続けている。その御蔭で段々と攻撃のリズムが分かってきた。
それに合わせてセブンスプッシュを放ち攻撃を邪魔すると、オークジェネラルも簡単に攻撃できないようになった。動揺が収まった俺は、オークジェネラルへの攻撃方法に気付いた。
それは三橋師範が最近使うようになった蹴りと『ブレード』を合わせる技である。三橋師範は『ブレード』を習得すると、手刀と蹴りに合わせてトリプルブレードを放つようになった。
そして、オークなどと戦う場合、ローキックに合わせてトリプルブレードを放つと、面白いように倒せる事を発見したのだ。オークは足から魔法を放つという相手に慣れていないらしい。まあ、オークだけではないと思うが。
俺はオークジェネラルの動きを観察しながら機会を待った。オークジェネラルが大剣を大きく振りかぶった時、ローキックを繰り出し、それに合わせてセブンスブレードを放つ。
そのセブンスブレードがオークジェネラルの膝の辺りを直撃する。オークジェネラルはグリーブと呼ばれる金属製の防具を付けていたのだが、そのグリーブが切り裂かれ足の骨が露出する。
苦痛に歪むオークジェネラルの顔。チャンスだった。セブンスプッシュで弾き飛ばす。踏ん張れないオークジェネラルは部屋の壁まで飛んで衝突する。
「グガアッ!」
オークジェネラルが悲鳴に似た叫びを上げる。俺はセブンスハイブレードを発動した。『ハイブレード』は間合い・タイミングが揃わないと出せない攻撃なので、今まで使えなかったのだ。
短剣を横薙ぎに振り、それをなぞるようにセブンスハイブレードがオークジェネラルを襲う。オークジェネラルは大剣で受け止めようとしたが、その大剣が弾かれて手を離れる。
あれほど頑丈だったスケイルアーマーも、セブンスハイブレードの攻撃力を撥ね返せなかった。オークジェネラルの身体は切り裂かれ倒れた。
部屋の床に魔物の血が広がる。そして、オークジェネラルの動きが止まり消失。俺の身体の中でドクンドクンと音がした。魔法レベルが上がったらしい。
オークジェネラルの死骸が消えた場所を見ると、そこに黒魔石<小>と黒いスケイルアーマー、それに鍵が残されていた。
俺はペタンと床に座る。危なかった。本当にヤバかった。革鎧がボロボロになり、あちこちから血が流れている。初級治癒魔法薬を取り出して飲んだ。御蔭で出血が止まり、傷口が塞がり始める。
「はあっ、危なかった。これはアリサたちには勧められないな。まるで、ダンジョンボスみたいじゃないか」
見覚えのある黒いスケイルアーマーを拾い上げる。
「こいつは、オークジェネラルが装備していたものに、似ているな。同じものなのか?」
ちょうど革鎧がボロボロになっていたので着替えてみる。装備した瞬間、少し大きかったスケイルアーマーが縮んで身体にフィットした大きさに変化した。魔導装備に間違いない。そして、頭の中にスイッチが浮かぶ。
このスケイルアーマーの機能を起動するスイッチのようだ。そのスイッチを入れると、身体から魔力が吸われるのを感じた。同時にD粒子リーフのような小さく透明なD粒子の鱗が現れ上半身に張り付いた。魔力障壁ではなく身体に小さなD粒子シールドを貼り付ける機能だったようだ。
賢者システムを立ち上げて調べてみる。俺が持つ賢者システムは生活魔法に関係するものなら調べられるのだ。
調べてみると、D粒子の鱗『D粒子スケイル』は、鋼鉄よりも頑丈で魔法も弾き返せるものだった。その仕組は、D粒子二次変異の<不可侵>の特性をD粒子スケイルに付加する事だった。
二次変異? 一次変異と何が違うのだろう?
黒魔石<小>と鍵を拾い上げてから、真っ二つになった戦鉈を回収する。悲しい事に黒鉄製の刀身部分も欠けているところが有る。『リペア』の魔法で修理可能だが、どうしても強度は戻らない。欠けた部分が脆くなるのだ。
「弱い魔物用の武器として使うか」
持ち帰って修理する事にした。立ち止まって『セルフ・アナライズ』の魔法を掛ける。生活魔法の魔法レベルを確認すると、魔法レベル12になっていた。そして、魔装魔法が魔法レベル2だ。
ここには他の魔物が入って来ないようだから、ここで休憩しよう。
マジックポーチから店で買ったサンドイッチとコーヒーが入っている水筒を取り出して食事を始めた。
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