第73話 オークナイトの弱点

 『エアバッグ』が完成したので、全力で『カタパルト』の改良ができるようになった。その日の夕方まで改良を頑張り、ようやく完成し登録。但し、仮の完成である。しばらく使って問題がないようなら、アリサたちに教えてもいいだろう。


 次の日、アリサたちと一緒に修業するために水月ダンジョンへ向かった。そこでアリサたちとカリナが待っていた。

「あれっ、どうして、カリナ先生が?」


 アリサが申し訳ないという顔で頭を下げた。

「カリナ先生に、グリム先生と修業すると言ったら、連れて行って欲しいと頼まれたんです」


 カリナが俺の前に進み出て、頭を下げた。

「グリム先生、よろしくお願いします」

 押しが強い。俺は苦笑いして承諾した。


「今日は、どんな修業するの?」

「その前に、アリサたちに確認したいんだが、『センシングゾーン』と『オートシールド』を習得できたか?」


 アリサと天音、千佳は習得したらしい。カリナが首を傾げた。

「その『センシングゾーン』と『オートシールド』というのは、何なの?」


 アリサたちは『センシングゾーン』と『オートシールド』をカリナにも黙っていたようだ。カリナも生活魔法を本格的に習うと言っているので、教えてもいいだろう。


「『センシングゾーン』は、D粒子の動きを感知する魔法なんです。『オートシールド』は防御用の魔法です」

「へえー、そんなものまで有るんだ」


 俺はアリサたちに視線を向け、

「今日は、多数の魔物を相手にする修業をしようと思う。相手は十層のブラックハイエナだ」


 それを聞いたカリナが顔をしかめた。ブラックハイエナはベテラン冒険者の彼女でも嫌な相手なのだ。

「ブラックハイエナは、大きな群れになると二十匹を超えるのよ。大丈夫なの?」


 知らなかった。いつも七匹くらいの群れだと思っていた。でも、問題ないだろう。

「大丈夫です。行きましょう」

 俺たちは最短ルートで十層まで進んだ。アリサたちは七層・八層・九層は初めてだったが、何の問題もなく攻略した。


 その途中で聞いたのだが、カリナは『プッシュ』『コーンアロー』『スイング』『ブレード』『ジャベリン』を習得していた。生活魔法は魔法レベル5だと言う。

「早いですね。後は『オートシールド』を覚えれば、一人前の生活魔法使いです」


「ちょっと待って、私には『センシングゾーン』を教えてくれないの?」

「必要ですか? カリナ先生は魔装魔法の『センスアシスト』が有るから、必要ないと思いますけど」


 『センスアシスト』は、人間の聴覚・視覚・嗅覚・触覚などをアシストする魔法である。これを使う事で、索敵能力が飛躍的に向上すると聞いている。


 カリナが必死に頼むので、魔法レベル8になったら、改めて検討するという事にした。これを機会にカリナが生活魔法の教師になってくれれば、アリサたちの後輩が救われるのだけど。


「グリム先生、ブラックハイエナです」

 天音が声を上げた。その声で数を確かめる。二十匹くらいである。

 アリサと天音、千佳には『センシングゾーン』と『オートシールド』を発動するように指示、由香里には数を減らすために『クラッシュバレット』で攻撃させた。


 『クラッシュバレット』の破砕魔力弾が、群れの中心で爆発し数匹を吹き飛ばす。その中にアリサたちが飛び込んだ。アリサたちの戦い方は、まだまだぎこちない。


 それでもD粒子シールドに助けられながら、ブラックハイエナを駆逐した。

「はあはあ、一匹一匹は弱いのに、数が集まると強敵になるのね」

 アリサは息を切らしている。


 それでも何回かブラックハイエナの群れと戦う事で、多数の敵に囲まれた時の戦い方が身に付いてくる。カリナがジッと見ていて、D粒子シールドがブラックハイエナの攻撃を弾くのを嬉しそうに見ていた。


「嬉しそうですね。どうしてです?」

 俺は不思議に思ったので、尋ねてみた。

「この魔法を覚えたら、私の戦い方に、どう応用できるのかと考えると嬉しくなったのよ」


 カリナの心の中は、まだ現役なんだと分かった。引退して教師になっても、強くなろうとしている。

 ブラックハイエナを殲滅させたアリサたちが、俺の周りに集まってきた。


「どうだ、戦い方が分かってきた?」

「少しずつですが、戦えるようになりました」

「よし、最後にオークナイトを狩りに行こう」


 それを聞いたカリナが慌てた。三年の生徒たちがオークナイト狩りをしていて大怪我を負ったからだ。

「グリム先生、オークナイトは早すぎませんか。彼女たちはF級冒険者になったばかりですよ」


「大丈夫です。オークナイトには弱点が有りますから」

「そ、そうなんですか?」

 オークナイトの弱点と聞いて、カリナも確かめたくなったようだ。


 アリサたちに休んでもらい、俺とカリナだけが戦って十一層の廃墟エリアを突破する。

「わーっ、お城がある」

 由香里が大きな声を上げた。天音たちも城に見惚れている。


「グリム先生は、ここでオークナイト狩りしてるんですよね?」

 千佳が尋ねた。

「最近は、そうだ。この城の宝物庫を探そうと思っているんだ」


 千佳たちはなるほどという顔をするが、カリナは心配そうな顔をする。

「この城の中には、オークナイトが数十は居ると聞いています。無謀じゃないですか?」

「オークナイトは問題ないと思っています。ただオークナイト以上の化け物が居るらしいという噂を聞いて、それがちょっと」


 カリナが苦笑いする。

「その噂なら聞いた事が有る。巨大な狼だという話だった。その前に、本当にオークナイトに弱点が有るのか知りたいのよね」


「たぶん攻撃魔法使いは知っていると思うんですが、オークナイトは電気系の魔法に弱いようです」


 俺は最初に遭遇したオークナイトを相手に、トリプルサンダーボウルとクイントブレードのコンビネーション攻撃を披露した。


 トリプルサンダーボウルが命中してバタリと倒れるオークナイトに、クイントブレードを叩き込んで仕留める。瞬殺である。アリサたちは目を丸くして驚き、カリナは口を開けたまま呆然としている。

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