第46話 ゴブリンロード対策
翌日、冒険者ギルドの資料室で水月ダンジョンの八層と九層について調べた。地図は有料だが、資料室に有る資料は無料である。
八層は森林エリアだ。そこにはレッドコングとリザードソルジャーが棲み着いている。リザードマンより強くオークナイトよりは弱いという魔物である。
そして、九層は石壁で造られた迷路であり、その奥には中ボスの棲家である中ボス部屋がある。その九層にはゴブリンとハイゴブリンが徘徊しているらしい。
ゴブリンはどうにでもなるが、ハイゴブリンは曲者だった。ハイゴブリンの中には魔法を使う個体が居るのだ。
「魔法か。ソロだと全ての方向に注意を向けるという事はできないからな」
チームだと手分けして全方向を警戒するという事ができるが、ソロで全方向を警戒するとなると魔法を使うしかない。だが、魔法には魔力が必要になる。九層を進んでいる間中ずっと魔法を使うなら、魔力が尽きてしまう。
資料室のドアがガチャリと開いて、誰か入って来た。
「おや、グリム先生じゃないですか?」
入って来たのは、ジービック魔法学院トップ5、風祭と倉石、蒼井、辻元、黒月だった。
「もしかして、中ボス狩りバトルに備えて、水月ダンジョンを調べに来たのか?」
「まさか、僕たちは水月ダンジョンの十四層まで攻略しているんですよ」
そうだった。トップ5はE級冒険者の集団だ。E級は中級ダンジョンの十層~二十層を中心に活動している冒険者である。中ボス狩りバトルの優勝候補と言えるだろう。
「だったら、どうしてここに?」
「十五層の草原エリアに棲み着いている、アーマーベアを倒す方法を探しに来たんですよ」
風祭の代わりに、蒼井が教えてくれた。
「グリム先生、中ボス狩りバトルに参加するのは、やめた方がいいんじゃないですか」
「どうしてだ?」
「生活魔法だけで、ゴブリンロードを倒すなんて無理だからですよ」
俺は生活魔法使いというだけで無理だという連中にうんざりした。風祭が特別な訳ではないので、こいつに腹を立てるのは筋違いだと思う。だが、風祭にはオークナイトを倒した事を話したはずだ。
「オークナイトの事を忘れたのか?」
「先生、見栄を張るのは、そこまでだ。これ以上無理すると死ぬよ」
風祭……俺の言葉を全然信じていないようだ。怒るより先に、ちょっと悲しくなった。
「それが忠告だというのなら、そんな必要はないとだけ、言っておこう。俺の実力は、ダンジョンで示してやるよ」
風祭が仕方ないというように肩を竦めた。何か、ムカつく。
俺は調べが終わったので、場所を風祭たちに明け渡し外に出た。バス停に向かって歩きながら、中ボス狩りバトルについて考え始めた。
中ボス狩りバトルに参加する者は、F級とE級の冒険者がほとんどである。なぜかと言うと、D級以上の冒険者はマジックバッグの所有者が多いので、そういう者は参加しないからだ。
中ボスのゴブリンロードを倒して手に入るマジックバックは、容量が二百リットルほどのものが多いそうだ。二百リットルというと一人用の浴槽に相当する容量である。
大した量は入らないが、有るか無いかではダンジョンでの活動が大きく変わってくる。ダンジョンの十五層以上を探索する場合、ダンジョン内に泊まり込む必要が有るのだ。
泊まり込む場合、大きな荷物が必要になる。その荷物を運ぶためにマジックバッグは必須のアイテムなのだ。
俺が先に進むにはマジックバックが必要であり、今年は無理だとしても来年くらいには手に入れたい。そのために今度の中ボス狩りバトルに参加して、情報を集めたかった。
アパートに戻った俺は、風祭の忠告が気になり始めた。ゴブリンロードは何か特別な力を持っているのだろうか? だから、あんな忠告をしたのか。それとも、ゴブリンロードより強い魔物がリポップする事があるのか?
段々不安になった俺は、賢者システムを立ち上げて、オークナイトやゴブリンロードより強い相手を倒す魔法を考え始めた。と言っても、簡単に思い付くものでもない。
そこで『ブレード』や『ジャベリン』の強化版を考えてみた。『ジャベリン』の射程を伸ばしD粒子コーンを大型化する事は可能だ。だが、命中率が低くなりそうなので諦めた。
『ブレード』の強化版は、射程を伸ばしV字プレートを大型化して振り抜く速度を上げる事ができると分かった。強化版を作成し『ハイブレード』と名付ける。
翌日、水月ダンジョンへ行って、四層まで下りた。四層の大岩が点在する場所で、『ハイブレード』を試す事にする。大岩から八メートルほど離れた位置に立ち、戦鉈を抜く。『ハイブレード』の射程は十メートルほどに伸びたのだ。
戦鉈を上段に振り上げ、振り下ろすと同時に『ハイブレード』を発動。大きなV字プレートが形成され、かなりのスピードで大岩を斬り付けた。
大岩に傷が生まれ、細かい岩の欠片が飛び散る。ただ大型V字プレートは粉々に砕け散った。
「多重起動しない『ハイブレード』でも、人を殺せる威力が有りそうだ」
次にトリプルハイブレードを大岩に叩き込んだ。大型V字プレートは、大岩の半分ほどまで切り裂き粉々に砕け散る。
「マジか。トリプルで、この威力は凄い」
クイントハイブレードは大岩を完全に真っ二つにした。最後にセブンスハイブレードを試した。七つの大型V字プレートが形成され重ね合わさり、二メートルほどの大岩に向かって振り下ろされる。それは予想以上のスピードに達した。
大型V字プレートの先端部分が音速を超えたのだ。ドンという衝撃音と衝撃波が生まれ、俺を吹き飛ばした。草原に転がった俺は、大岩の方から爆発音のようなものを聞く。
「この魔法は斬撃のはずなのに、何で爆発するんだよ」
呻き声を出しながら起き上がる。大岩を見ると崩壊していた。セブンスハイブレードにより真っ二つとなると同時に衝撃波が二つになった岩を破壊したらしい。
「何か、ゴブリンロードが可哀想に思えるほどの威力だな。あっ、魔力が……」
残存魔力量がだいぶ減ったように感じる。まだ魔力量を計測する『マナ』の魔法を習得していないので、正確な残存魔力量は分からないが、半分くらいになったというのは感覚的に分かる。
この魔法は大量の魔力を消費するようだ。連発できるような魔法ではないという事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます