第17話 鬼龍院校長の許可
俺たちが『コーンアロー』の使い方について話し合っていたところに、教師の剛田と黒月が現れた。
「グリム、訓練場で何をしているんだ?」
不愉快な気持ちを抑えて、剛田に視線を向けた。俺は剛田を教師だと認めていない。だから、心の中では『剛田先生』ではなく『剛田』と呼んでいる。
「生徒たちに、生活魔法を教えていたんですよ」
「ふん、生活魔法を習う暇があったら、魔装魔法の勉強でもした方がいいぞ」
余計なお世話だ。魔装魔法の才能がないから、生活魔法を習おうとしているんだ。
「先生、ここは母里さんたちが使っているようですから、他に行きましょう」
黒月の言葉を聞いた俺は、心の中で呟いた。そうだ、そうだ。訓練区画は四つあるんだから、他に行けばいいんだ。
「ふん、どうせ大した魔法など教えていないんだ。ここで訓練するぞ」
俺は天音とアリサに戻ろうと合図した。
「グリム先生、黒月先輩の訓練を見学しませんか?」
俺は剛田に視線を向けた。
「見学させてもらえますか?」
「チッ、グリムだけなら追い払うんだが、母里と結城のためだ、いいだろう」
トリプルプッシュを起動しそうになって抑えた。剛田―――いつか空を飛ばしてやりたい。
俺たちが少し離れた場所で見学を始めると、剛田と黒月が訓練を始めた。
黒月は本来攻撃魔法使いである。だが、魔装魔法の才能もあるらしく、剛田から高度な魔装魔法について教えを受けているようだ。
世の中は不公平だ。黒月のような才能豊かな者も居れば、俺や天音たちのように冒険者に適した才能がなくて、苦労している者も居る。
黒月が魔法を使った。たぶん『パワーアシスト』よりも強力な魔装魔法である。人間離れしたスピードで、黒月と剛田が戦い始めた。
アクション映画の中に『コマ落とし』という方法で撮影したものがある。この撮影方法で映像にしたものは、早送りで映像を見ているような感じになる。黒月と剛田の戦いは、そんな感じに見えた。
天音とアリサが羨ましそうに見ている。
「こんな動きができるのなら、戦いは楽になるんでしょうね」
「はあっ、そうね。私も羨ましいです」
二人の木刀が激しくぶつかり合う音が響き渡り、剛田が横薙ぎに木刀を振ると訓練場に土埃が舞い上がる。その木刀をのけ反るようにして躱した黒月が、剛田の足を刈り取ろうと蹴りを出す。
冒険者として登録している黒月は、E級である。すでに一人前として稼げる強さを身に付けているのだ。
訓練は続きそうなので、俺たちは訓練場を出て学生食堂へ向かった。
「黒月先輩は凄かったね」
「ええ、中級ダンジョンに挑戦している、というけど、納得の強さだった」
「グリム先生は、中級ダンジョンへ潜った事があります?」
天音の質問に、俺は首を振って否定した。
「まだないよ。習得した生活魔法を使い熟せるようになるまでは、無理だ。だから、休みの日にはダンジョンに潜ろうと思っている」
「私も一緒に行きたいです」
アリサが言い出した。それに天音も便乗する。
この学院の特徴の一つに自己責任を徹底させるという事がある。授業の場合は教師が責任を持つが、個人でダンジョンに潜った場合は自己責任となる。
例え、ダンジョン内で死んだ場合も自己責任である。世界が変貌し日本も変わったのだ。職業として冒険者を選んだ者は、ダンジョン内で死ぬ覚悟がある者だと世間は認識している。
危険を冒す代わりに莫大な収入を得るチャンスを手にするのが冒険者だ。俺も冒険者の端くれ、早く一人前の冒険者になりたいと思っているが、現実は初級ダンジョンにしか潜れないG級冒険者でしかない。
「ちょっと待て、生徒を一緒に連れて行くには、鬼龍院校長の許可が必要だ」
「グリム先生は、校長先生と親しいんでしょ。何とかならないの?」
天音が無茶を言う。お願いした程度で許してくれるとは思えない。だが、ダメ元でお願いしてみるか。
俺たちは学生食堂へ行く途中、校長室へ行ってドアをノックした。
中から返事があり、俺たちは校長室に入った。立派なデスクの前に座った鬼龍院校長が書類を読んでいた。
「グリムと、一年生の生徒だったかな?」
俺は天音とアリサを紹介した。
「それで、用件は何だね?」
「望月先生から、二人に生活魔法で魔物を倒すやり方を教えるように指示されて、生活魔法を教えています。でも、実戦で戦わないと技量が上がらないので、巨木ダンジョンで修練したいんです」
鬼龍院校長は真剣な顔で確認した。
「しかし、生活魔法で魔物を倒せるのか?」
「倒せます。それは信じてください」
「望月先生から、グリムと一緒にビッグサイズの鬼面ドッグを倒したと、報告が上がってきたのだが、少し信じられなかったのだ。だが、その顔を見て信じる気になった」
「ありがとうございます。では、巨木ダンジョンに潜ってもいいんですね」
「待て、ちゃんとグリムの実力を確認してからでないと、許可は出せんよ。明日にでも一緒にダンジョンに潜って実力を確かめよう」
俺は鬼龍院校長と一緒にダンジョンへ潜る事になった。鬼龍院校長は攻撃魔法使いである。冒険者としてB級にまでなった事がある、と言っていたので相当な技量を持っているんだろう。
俺は時間と集合場所を決めて校長室を出た。
「校長先生と一緒にダンジョンへ行くんですか。大変そうですね」
アリサの言葉に俺は頷いた。鬼龍院校長は現役を引退してから、ほとんどダンジョンへ潜っていないはずだ。大丈夫なのだろうか? それに普段から腰が痛いのでマッサージしてくれと言って用務員小屋へ来る事もあるので不安だ。
俺たちは学生食堂で夕食を食べてから別れた。
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