第15話 生活魔法の工夫
「やめなさい。全員で倒せと指示したのは、私よ。それが不服だと言うの?」
強い言葉で言われ、二宮がカリナから目を逸した。
カリナは進むように指示した。天音が俺の横に並ぶ。
「グリム先生、別の鬼面ドッグが出たみたいだけど、先生たちが倒したの?」
「そうだ。カリナ先生と一匹ずつ仕留めた」
「やっぱり凄いですね」
アリサも会話に加わった。
「凄くはないよ。二人も何回かダンジョンに潜れば、倒せるようになるんじゃないか」
俺は巨木ダンジョンに一人で潜ったので、魔物を倒した数も吸収したD粒子の量も多かった。だが、チームで行動するアリサたちは、魔物もD粒子も分け合う事になるので成長に時間が掛かりそうだ。
D粒子の蓄積については、D粒子の濃度が濃いダンジョン内に居るだけで少しずつだが蓄積する。また魔物を仕留めて、その死骸が消える時にD粒子も放出され、それも吸収して蓄積するという。
魔法レベルが上がる条件は、D粒子量と魔物を倒した瞬間に放出される未知の何かだと言われているので、一人でダンジョンに潜る事が、成長の早道だと考える者も多い。
それを考えると、天音が一人で巨木ダンジョンに潜っていたのは、天音なりの考えがあっての事だろう。
だが、ダンジョンの危険を考えると、チームで行動する事が正解なのだ。
アリサが不安そうな顔をする。大蜘蛛を仕留めるのに手子摺った事を思い出したようだ。
「グリム先生が、最後に見せてくれた切り札を、私に教えてもらう事はできないんですか?」
「魔法レベルが足りないから、習得できないと思う。なので、代わりになる魔法を用意した」
アリサがパッと顔を輝かせた。
「本当ですか」
「グリム先生、あたしにも」
天音が元気に声を上げた。俺は苦笑してから、明日の放課後に訓練場に来るように指示した。
「グリム先生」
カリナの声が聞こえた。見ると、二宮たちも立ち止まって前方を見ている。俺はカリナの横に並んで前方を見た。三層へ下りる階段の前に、大きな鬼面ドッグが寝ていた。
巨木ダンジョンでもそうだったが、階段の前で魔物が番をするように待機している事が多いようだ。ここで待機していれば、獲物が現れると知っているかのようだ。
「普通の鬼面ドッグより二倍くらい大きいかも」
俺の言葉に頷いたカリナは、腕を組んで鬼面ドッグを睨んだ。
「邪魔ですね」
「あいつを、生徒たちに任せるのは、無理かな」
「そうね。私たちで倒しましょう?」
「その方がいい」
カリナは生徒たちに待機するように指示を出す。自分一人で戦うと言っていた二宮も、このビッグサイズの鬼面ドッグには恐怖を感じているらしい。
ダンジョンボスの巨大狼と比べている自分に気付いた。あいつに比べれば大した事はない。俺とカリナは前に進み出た。俺は狩猟刀を構え右側に回り込み、カリナは左側に回り込む。
その時、俺たちの接近を感じた大鬼面ドッグが、立ち上がって唸り声を発した。
最初に狙われたのはカリナだった。魔物が跳躍してカリナに飛び掛かる。その攻撃をカリナは回避して、剣を叩き込んだ。
剣を躱した大鬼面ドッグは、反対側に居た俺に襲い掛かった。四重起動した『プッシュ』を発動し魔物にぶつける。大鬼面ドッグがトラックに撥ねられたように宙に舞った。
ドサッと地面に落ちた大鬼面ドッグの頭に、トリプルスイングを叩き込む。その一撃は一瞬だけ大鬼面ドッグの動きを止めた。
その一瞬をカリナは見逃さなかった。魔装魔法でパワーアップした力で、剣を振り抜き魔物の首を刎ねた。般若のような顔をした頭がポトリと地面に落ちる。
「お見事です」
「いや、グリム先生の攻撃が良かったのよ。本当に、生活魔法は使えるのね」
生活魔法使いとしては、そういう風に思ってもらえると嬉しい。
「ちょっと待てよ。今のが生活魔法だというのは嘘だろ」
二宮が文句を言い出した。
「俺が使ったのは『プッシュ』と『スイング』だ。生活魔法に間違いない」
「でも、威力が全然違うだろ」
「そこは工夫しているからだ。魔装魔法や攻撃魔法だって、その人なりの工夫や修練で威力が変わる事があるはずだ」
そう言われて、二宮が不機嫌な顔のまま黙った。
「時間が惜しいから、先に進みましょう」
カリナの指示で三層へ下りた。
三層は廃墟の村だった。そこに棲み着いているのは『小鬼』や『ゴブリン』と呼ばている魔物だ。身長は百二十センチほどで緑の皮膚をしている。
身に付けているのは腰布だけで、武器は棍棒を装備しているものが多い。
「今日の課題は、人型の魔物と戦う事よ。ゴブリンは人型の魔物の中で最弱と言われているけど、力は互角だと考えて戦いなさい」
半壊している家から、ゴブリンが現れた。初めてゴブリンを見たが、人を不快な気分にさせる化け物だ。特に顔が醜悪で、嫌悪の感情が湧き起こる。
カリナは、また一人ずつ戦わせ始めた。二宮や岸、由香里は余裕を持って仕留めたが、天音とアリサは苦戦した。
だが、『プッシュ』を有効に使って、何とか二人とも仕留める事ができた。
「二人は課題が多そうね。グリム先生、二人に戦い方を教えてもらえないかしら」
カリナは、魔法才能が偏っている二人をどう成長させるか、担任として悩んでいたらしい。だが、俺の戦い方を見て、参考になるのではないかと思ったようだ。
「グリム先生、よろしくお願いします」
「あたしもお願いします」
二人の必死な顔を見て、俺は引き受ける事にした。本当は生活魔法の可能性について調べたかったのだが、用務員小屋で夜に調べれば良いかと考え直した。
生徒たちがゴブリンと戦うのを見て、鬼面ドッグより弱いと感じた。鬼面ドッグには素早さがあったが、ゴブリンはあまり素早くないと感じたのである。
武器にさえ気を付ければ、一撃で仕留められそうだ。
演習は目的を達成して終わり、生徒たちには課題が出された。二宮には【冷静な判断】、岸には【積極的な攻撃】、由香里には【『バレット』以外の魔法】だ。
そして、アリサと天音には【生活魔法を基軸とした戦い方】が課題として出された。次の演習までに、考え修練しなければならない。
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