第14話 問題児の二宮

 二宮は魔装魔法使いである。身体に魔力を纏ってパワーと防御力を上げ、武器で敵を倒すという戦闘スタイルだ。今回は魔装魔法を使わなかったようだが、偉そうな事を口にするほどの技量はなさそうだった。


「先に進みます」

 カリナの声で、奥に向かって歩き始める。二宮も魔石を拾ってカリナの横に並んだ。


「次の魔物も、俺に任せてください」

「ダメに決まっているでしょ。次は母里さんに戦ってもらいましょう」


 その声が聞こえた天音が驚いたような顔をする。

「あたしですか」

 カリナは天音に向かって頷いた。


 次に遭遇したのは血吸コウモリだった。ひらひらと飛ぶコウモリが、天音の背後に回り込もうとする。その血吸コウモリに向かって、天音が生活魔法の『ロール』を発動した。


 血吸コウモリが空中で回転を始め、その回転が止まった瞬間にポトリと落ちた。

「えい!」

 天音は戦鎚を振り下ろして、血吸コウモリを仕留めた。


 俺が生活魔法での戦い方を教えた天音以外の全員が首を傾げている。

「天音、コウモリが回転していたようだけど、何をしたの?」

 由香里が尋ねた。


「忘れたの。この前話したじゃない。生活魔法の『ロール』を使ったのよ」

 由香里がこちらに顔を向け、カリナも視線を送ってきた。


「生活魔法の中にも、魔物に有効な魔法はあるという事です。血吸コウモリに対しては、『ロール』が有効なんです。もしかしたら、大蜘蛛にも有効かもしれません」


 比較的小さな体躯の魔物には、有効な気がする。

「へえー、そうなんだ。初めて聞いた」

 俺は初めて岸の声を聞いた。


 この『ロール』は、指定した物の周りにD粒子が集まり、その物体を回転させるという魔法である。大したパワーもないので、体重の軽い小型の魔物にしか効果がない。


 俺は賢者システムを手に入れたので、生活魔法についてだけは詳しくなっていた。

「使えそうな魔法じゃない。なぜ広く使われていないの?」

 カリナの質問に、俺は肩を竦めてから答える。


「『ロール』の効果があるのは、小物だけだからです」

「そうなんだ。オークなんかに効果があったら、面白かったのに」

 俺は身長百八十センチほどもあるオークが回転する光景を想像して、ニヤッとした。


「さあ、次は結城さんよ」

 次に遭遇した魔物は、大蜘蛛が二匹だった。カリナはアリサと岸を指名する。岸は魔装魔法使いであり、『パワーアシスト』を使って運動能力を増強した後に、ショートソードで大蜘蛛を仕留めた。


 一方、アリサは襲ってくる大蜘蛛を『プッシュ』で撥ね飛ばし、地面を転がる大蜘蛛を追って短槍で突き刺そうとする。二回失敗した後に三回目で成功した。


「ほう、結城さんも生活魔法を使うのね。珍しいチームだこと、グリム先生が教えたの?」

「少しだけ、戦い方の参考例を教えました」

「私の生活魔法のランクは『D』なのよ。真面目に生活魔法も勉強したら、もう少し長く現役でいられたかもね」


 カリナは魔装剣使いである。魔力でパワーアップするとは言え、身体が動く全盛期は短く三〇代で現役を退く冒険者が多いらしい。


 魔物を倒していない生徒は、由香里だけになった。

「失敗した。私も生活魔法を覚えておけば良かった」

 天音がジト目で由香里を見る。


「何を言っているの。由香里は攻撃魔法使いなんだから、必要ないでしょ」

「でも、習得した魔法は『バレット』だけなのよ」

「怠けていた由香里が悪い」

 そんな会話をした由香里だったが、次に遭遇した血吸コウモリを『バレット』の一撃で仕留めた。


 一層を問題なく通過したチームは、二層に下りた。二層は背の高い草が生えた草原である。出てくる魔物は鬼面ドッグらしい。鬼のような形相と鋭い牙を持つ大型犬だった。


「鬼面ドッグは、一人じゃ危ないので、全員で攻撃して」

 二宮が不満そうな顔をする。

「俺なら一人でも倒せます」

「これは授業なの、先生の言う通りにしなさい」


 問題児の二宮は、その真価を発揮し始めたようだ。鬼面ドッグと遭遇した時、勝手に一人で飛び出した。慌てたカリナが追い駆ける。


「待ちなさい!」

「俺に任せて」

 『パワーアシスト』でパワーアップした二宮は、鬼面ドッグと戦い始めた。大蜘蛛を相手にした時とは違い、素早い動きで攻撃と防御を繰り返している。


 アリサたちがボーッと見ているのに気付いた俺は、声を掛けた。

「全員で倒すんじゃなかったのか」

「そうでした」


 アリサと天音が走って行くと、岸と由香里が追い駆ける。俺はゆっくりした歩みで進み始めた。元D級冒険者であるカリナが居るので、鬼面ドッグが一匹なら慌てる必要はない。


 その時、鬼面ドッグが一匹ずつ二方向からこちらに近付いてくるのを見付けた。

「望月先生」

 俺は二匹の鬼面ドッグを指差した。


「仕方ない。一匹を頼めるかしら」

「いいですよ」

 俺は一匹の鬼面ドッグへ向かい、狩猟刀を抜いた。


 吠えながら襲い掛かってきた鬼面ドッグに、トリプルプッシュを発動する。鬼面ドッグは車に撥ねられたように、宙を飛んだ。


 転がって起き上がろうとしたところに、トリプルスイングを叩き込む。脳天に警策プレートを受けた鬼面ドッグは、ふらふらと酔っ払ったように歩き出す。


 そこに駆け寄り、狩猟刀で首を斬りつける。その一撃が致命傷となって鬼面ドッグが消えた。残った魔石を拾って、生徒たちが戦っている場所に戻る。


 生徒たちはまだ戦っていた。由香里の『バレット』で後ろ足に怪我をしたようだが、鬼面ドッグは健在だった。由香里は『バレット』を撃とうとするのだが、二宮が接近戦を始めてしまい発動できないようだ。


「おやおや、私の方が遅かったの。グリム先生は、思っていた以上に凄腕なんだね」

「偶々です。それより生徒たちはいいんですか?」

「苦戦しているな。連携が全く取れていない」


 カリナが指示を出し始め、間もなく生徒たちは鬼面ドッグを仕留めた。魔物を倒したのに、二宮が不機嫌な顔をしている。


「お前たちが邪魔しなきゃ、もっと早く仕留められたんだ」

 二宮がまた問題を起こし始めたようだ。


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