第13話 コーンアロー
『ブレード』について口止めした後、俺は天音とアリサの二人と別れて用務員小屋へ戻った。
考えているのは、魔法による攻撃手段を持っていないと言っていたアリサの事だ。
アリサに『ブレード』の魔法を習得させる事はできない。秘密にしているからという事ではなく、『ブレード』は魔法レベル5にならなければ、習得が難しい魔法だからだ。
『スイング』が魔法レベル2で習得できるのに、『ブレード』が魔法レベル5なのには理由がある。『スイング』の警策プレートより、V字プレートの強度を高くした事と射程を五メートルに伸ばしたからだ。この『ブレード』は五メートル離れた魔物も攻撃できる。
「魔法レベル1でも習得できる生活魔法で、魔物を攻撃できるようなものが有ればいいんだよな」
攻撃魔法の中で、初歩の攻撃魔法となるものは『バレット』という魔力弾を放つ魔法である。威力は鴨撃ちの空気銃と同じほどだという。
狂乱ネズミやリッパーキャットなら仕留められるが、突貫羊は仕留められないだろう。それくらいの威力なのだ。但し、それは魔法レベル1の場合の話だ。攻撃魔法の特徴は、魔法レベルが上がれば、威力が上がるというものだ。魔法レベル3になれば、『バレット』で突貫羊を仕留められるようになるだろう。
ちなみに、攻撃魔法が使えるようになった生徒は、この『バレット』を習得する。そして、小型の魔物を倒しながら魔法レベルを上げ、次の攻撃魔法を習得するという感じらしい。
そうか、攻撃魔法の『バレット』のようなものがあれば、生活魔法を習得する人が増えるかもしれない。賢者システムを立ち上げて、その仮想空間を使って新しい生活魔法を考えてみた。
今度は『プッシュ』を元にして構築してみよう。『プッシュ』はD粒子をプレート状に形成して前に突き出す魔法だ。このプレートの形状をソフトクリームのコーンのような円錐形で中身が空の形状にした。
底の直径は五センチ、長さは三十センチほどになる円錐形のD粒子コーンが、どれほどの速さで押し出されるか試す事にした。
起動すると眼の前にD粒子コーンが形成され、時速七十キロくらいで飛び出し加速する。だが、五メートルくらいで時速百キロほどになってD粒子コーンが崩壊する。射程が五メートルらしい。
「悲しいくらい射程が短いな。魔法レベル1で習得できるほどの魔法陣となると、こんなシンプルなものしかできないからな」
威力の有る魔法や便利な魔法は、魔法陣が複雑になる。そうなると魔法レベルが高い者しか習得できなくなるので、魔法レベル1でも習得できる生活魔法を創造する場合は、色々なものを犠牲にするしかなかった。
俺は『コーンアロー』を試してみたかったが、空が暗くなり始めた。明日は演習なので早めに寝る事にした。男子寮でシャワーを浴びてから、学生食堂で夕食を食べ用務員小屋に戻ると寝た。
翌朝、狩猟刀や革鎧などの装備を大きなボストンバッグに入れて崖下ダンジョンへ向かう。バスで崖下ダンジョン前まで行き降りた。
「おはようございます。グリム先生」
アリサの元気な声が聞こえた。
「おはよう。早いな」
「崖下ダンジョンは、初めてですから早めに来たんです」
二人で待っていると、次のバスで天音と由香里が一緒に来て、その次のバスで二宮と岸、それに教師の望月カリナが来た。
「チッ、こいつがサポート役かよ」
二宮がこちらを睨んで言う。俺がこのチームに付いて行くのは、どの魔物を誰が倒し、どんな行動を取ったかを記録する事、それにサポートするためだ。
教師のカリナは三十代の魔装魔法使いだ。教師になる前はD級の冒険者だったらしい。D級というと中級ダンジョンを中心に活動していたはずなので、初級ダンジョンなら、何の問題もないだろう。
今日、崖下ダンジョンに潜るのは、このチームだけだ。他のクラスメイトは別のダンジョンへ行っている。
「貝塚先生の代わりに、グリム先生が一緒なのね」
「はい、よろしくお願いします」
「ダンジョンの経験は?」
「巨木ダンジョンの六層まで行きました」
「へえー、生活魔法使いなのに凄いじゃない」
二宮が鼻で笑う。
「ふん、初級ダンジョンの最終層なんて、生徒の半分くらいが行ってるさ」
演習で生徒たちも巨木ダンジョンへ潜り最終層の洞穴まで行くので、その事を言っているのだろう。
俺は最終層まで行って、ダンジョンボスを倒した事を誇らしく思っていたのだが、二宮にそう言われると自分はまだまだなんだと思えてきた。
カリナが注意した。
「あなたたちは、まだ三階層までしか行った事がないでしょ。偉そうな事を言わないように」
二宮は不機嫌な顔をして黙った。
俺たちはダンジョンの前にあるダンジョンハウスに入り着替えた。この建物は日本政府が管理しているもので、ここでダンジョンに入る申請書を出す事になっている。
申請書はカリナが用意したものを出し受理された。
アリサが青トカゲの革鎧を装備して近付いてきた。武器は短槍を持っている。生徒のほとんどは革鎧であり、例外は二宮のスケイルアーマーだった。
由香里の武器は弓、二宮は戦棍、岸とカリナは剣だった。岸は目立たない生徒で、俺もどういう生徒だったか記憶にない。
「さて、行くわよ」
カリナが先頭に立って崖下ダンジョンへ入った。このダンジョンの一層は、起伏の激しい地形をした大きなドーム状空間だった。
「ここの魔物は、血吸コウモリと大蜘蛛だから、気を付けて」
カリナの警告に生徒たちが返事を返す。俺も生徒として、ここに来たかったな。でも、学院の授業料は高いから無理か。
初めての魔物に遭遇した。足の長さが二十センチほどもある大蜘蛛だ。その姿を目にした二宮が戦棍を手に持ち走り出す。
「俺に任せろ!」
大蜘蛛目掛けて戦棍を振り下ろす。大蜘蛛がピョンと跳躍して逃げ、それを二宮が追い駆ける。十秒ほど追い駆けた二宮が大蜘蛛を仕留めた。
「チッ……
才能があっても経験のない一年生だと、初級ダンジョンでも苦労するようだ。それに二宮は素早い敵が苦手らしい。
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