61、モモ、働きたがる~集団を纏められる人は不思議な魅力があるんだよ~前編
バル様を笑顔で見送った後、桃子はレリーナさんにさっそく相談を持ちかけた。内緒話をするように小さな手をよせて、こっそり耳打ちすると微笑みが返って来た。
「……秘密にしてくれる?」
「えぇ。それでは、請負屋に行ってみましょうか」
というわけで、お散歩する速さでテクテク歩いてやってきました請負屋さん! バル様のお屋敷からルーガ騎士団に続く通りを逆方向に進んで行くと、そのお店は見えて来た。近づけば他の店の二倍の大きさがあることに気づく。木造の二階建てで横幅が大きく取られているのだ。屋根には丸太を掘り出したような大きな看板が乗っかっており、文字が彫られていた。
頭の中で読めないはずの文字が日本語訳されるのが面白い。請負屋としっかりと文字が読める。不思議な現象だけど、あまり気にしないことにしておこう。ちゃんと読めてるからいいよね!
開かれた入口からは様々な人が出入りしているようだった。如何にも猛者と言わんばかりの体格のお兄さんから、十歳くらいの女の子まで実に気軽そうに出入りしている。怖い場所ではなさそう? 入ったらいきなり、子供がなんのようじゃい! とか言われないといいなぁ。想像したら緊張してきちゃった。桃子はどきどきしながら請負屋の看板を見上げた。
「……よし! 行こう」
「まずは受付けですね」
両手と両足を一緒に出ていることに気付かないまま、桃子は請負屋に踏み込んだ。中は広くて受付けと近くにテーブルが三つ置かれていた。そこでなにやら話し合う人のグループがいたり、手元の紙を熱心に眺めている人もいる。受付けには忙しそうに動き回るお姉さんやお兄さんの姿が遠くに見えた。
桃子は足の間を縫うように進んでいく。小さな桃子に怪訝な顔をしたり、好奇の目が向けられる。その後ろに続くレリーナさんを見つけて、鼻の下を伸ばしたおじさんもいた。美人さんだもんね。
そうしてそびえ立つ受付けを前に困り顔になる。顔が見えないや。どうしようかなぁ。とりあえず声を上げてみよう。
「すみませーん! お仕事を受けるにはどうすればいいですかー?」
声を張って上に叫んでみると、物音が聞こえた。たぶん見えないから探してくれてるんだね。視線をもうちょっと下に! 下に落としてもらえれば見えるはず!
桃子は手を振り振り、存在をアピールした。大人が立ったまま対応する受付けだから、身長が足りないのだ。お姉さんの視界には指先が見えるか見えないかだと思う。そうしていたら、後ろから両脇に手が差し込まれて持ち上げられる。
「うふふ、お手伝いしたしますね」
レリーナさんに抱っこしてもらう。柔らかな腕の中でようやく受付けのお姉さんの目に入った。第一印象は大事だよね! はっきり聞こえるように意識して声を出す。
「こんにちは!」
「あら、こんにちは。ちゃんと挨拶出来てえらいわね。でも、ここはお仕事を紹介をするところなんだけど、どうしたのかしら?」
「私もお仕事したいです!」
「えぇ!? でも、あなた三歳? いえ、しっかりしているようだし、五歳くらいかしら? どちらにしても、依頼を受けるには幼過ぎると思うわ」
「請負屋では仕事を受ける上で年齢は問われないはずですよ?」
やんわりと断りに入る受付けのお姉さんに、レリーナさんがそう言った。確信のある口調に違和感を覚えたのか、お姉さんが細い眉を僅かに寄せた。
「あなたは?」
「以前、ここで仕事を受けていた者です。今回はお仕事体験をさせたくて、この子を連れて来ました。もし、年齢で躊躇いがあるのでしたら、私が保護者として監督しますから心配は無用ですよ」
「しかし、当請負屋では基本的に八歳くらいから仕事を受けて頂くようにしているのです。複雑な事情がある場合は考慮しますが、あまりにも幼いと仕事を受けても達成出来ない可能性が高いので」
普通の子供だったらそうなるよね。至極真っ当な理由に桃子はしょんぼりした。お姉さんが困り顔になる。ごめんよ、お姉さんを困らせたいんじゃないけど、身体と中身が違うなんて説明出来ないし、うーん、どうしよう。
「待ってください。貴方とも会話が成り立ったように、この子は外見よりも知能が高いのです。規則的に問題がないのならば、ギャルタスさんと直接お話しは出来ませんか? そこで許可を得られなければ諦めますので」
「頭目とお知り合いでしたか。では、そのようにいたしましょう。すぐにお呼びいたしますので少々お待ちください」
お姉さんは頭目さんの名前を聞いて安心したように微笑んだ。レリーナさんに向けられていた不審な様子も消えている。なんとかなりそうな予感に少し不安が減った。首をひねって見上げたら、にっこりと微笑まれた。有能なメイドさんは護衛になっても有能ですね!
レリーナさんに床に下ろしてもらって、頭目と呼ばれた人を待つ。ええっと、ギャル、なんとかさんだったね。ギャルさん、だと派手なお化粧をしてて、まつ毛がバッサバッサしてる女子高生が思い浮かぶ。違う違う。男の人だよね、たぶん。そうしたら、派手なメイクをしてるムッキムキの男の人が……いやいやいや。違うよね?
桃子が頭目さんの姿を想像していると、お姉さんが男の人を連れて来た。年は二十代後半くらいかなぁ? 深い緑色に、薄緑の目をしてる。スポーツが上手そうな爽やか系お兄さんだね。……よかった。自分の想像にどぎまぎしていた分、力が抜ける。
「レリーナじゃないか! 久しぶりだなぁ。元気にしてたか?」
「えぇ、おかげさまで。ギャルタスさんもお元気そうですね」
「あぁ、週に二回は討伐に出るくらいには元気だ。まだまだ現役は辞められそうにない。子供を連れて来たと聞いたが、その子か?」
薄緑の目が穏やかに見下ろしてくる。桃子は背筋を伸ばしてご挨拶した。
「初めまして、頭目さん。モモと言います」
「オレはギャルタス。まぁ、店長みたいなもんだな。働きたいんだって?」
「はいっ!」
「んー、身体が小さいのが気になるが、受け答えもしっかりしてるな。レリーナが保護者として監督するってのは聞いたけど、メイドは辞めてこの子の家庭教師かなにかをしてるのか?」
「兼任ですよ。貴方にご紹介頂いた所で今も働いております」
「ってことは……」
何回も呼ばれていたから名前がわかったよ! ギャルタスさんは桃子を見て驚いた顔をした。あぁ、たぶんバル様のお屋敷の子だって認識されたんだね。でもさすがは頭目と呼ばれるだけあって、そこで詳しく聞かれはしなかった。代わりにカウンターの奥を親指で指す。
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