第二部
60、モモ、心強い味方を得る~五歳児は小さな秘密にもときめくもの~
平穏な日々が戻ってきてから、一週間が過ぎた今日この頃、桃子は時間を持て余していた。健康状態は良好なので、五歳児の身体は動きたくてうずうずしているのだ。時々衝動的に廊下を走りたくなるもん。
桃子の一日の流れはこうだ。ご飯食べて、文字をちょこっと勉強して、お昼寝して、お屋敷の中を探検したり庭を散歩して、またご飯食べていう感じだ。さすがに、もうちょっと行動範囲を広げたい。
ミラにお手紙を書こうかと思っていたけど、よくよく考えたら文字が書けなかったんだよね。それで、レリーナさんやバル様に文字を教えてもらいながら練習しているのだ。せっかくなら下手でも自分で書いた字で送りたいもんね。
文字の勉強は別にしても、バル様がお仕事に出かけている間、お屋敷でのほほんと過ごすだけなのは申し訳ない。せっかく問題が解決したのだから、桃子もお仕事がしたいのである。だけど、一人で外出なんて反対されそうだし、どうしようかなぁと悩んでいた。贅沢な悩みだけどね。
変化が訪れたのは、いつものように一緒に朝食を食べた後のことだった。バル様が思わぬことを言い出したのである。
「護衛?」
「そうだ。モモも、ずっと家にいるのはつまらないだろう? かと言って五歳の子供を外に一人で出すのは危険だ。だから、専属護衛を付けようと思う」
まさかの言葉に桃子は目を丸くする。専属護衛ですと? 心惹かれる単語だね! まさかそんな言葉を聞く日がくるとは思ってなかったけど。
「……嬉しそうだな」
「うん! どんな人? 仲良くなりたいなぁ」
「そこは問題ない。しかし、あっさりと受け入れたな。モモのことだから、遠慮して拒否されるかもしれないと思っていたんだが」
「正直言うとね、五歳児と言っても中身は十六歳だし、本当に私に必要かなぁとは思ったよ? だけど、私よりもバル様の方がこの世界のことは知ってるもんね。だから、付けた方がいいって言うならその通りなんだろうなって。軍神様から加護を受けたことを隠してても、必要なことなんだよね?」
「そうだ。残念だが、オレがいつでも傍に居られるわけではない。それに見知った者の方がモモも安心だろう」
見知った人? 誰だろう? 桃子はきょとりとバル様を見上げた。その視線を受けて、バル様が扉に向かって声をかける。
「入れ」
「……失礼します」
こ、この人が専属護衛!? 入って来たのは──レリーナさんだった! しかしその恰好はいつものメイドさん服とは違う。スカートからズボンにチェンジしている。やっぱりこの世界の人ってスタイルいい人多いなぁ。レリーナさんも足が長いね! 帯剣しているし、すんごく格好いい。
「今日からレリーナが護衛に付く。本人から熱烈な希望があってな。ロンとの手合わせを見て判断した。技量は十分ある。それに、彼女ならお前を本気で守るだろう」
「え? え? メイドさんって戦えるものなの!?」
「うふふ、混乱させてしまいましたね。私、元々は仲介屋からお仕事を受けてこなす請負人をしておりましたの。二年前、仕事中に怪我を負いまして暫く剣を使えない期間があったのです。それで繋ぎとして他のお仕事を探しておりましたところ、バルクライ様のお屋敷を紹介されたのです。短期のつもりでお受けしたのですけど、メイドのお仕事が思いのほか楽しくて、こちらを本業にしてしまったのですよ」
なるほど、そんな経緯があったんだ。だから、桃子がお屋敷に帰って来た後にロンさんと鍛錬したとか言ってたんだね! 本当に有能な人なんだなぁ。
「そうだったんだ。なんかいろいろ納得しちゃたよ。バル様も見る目あるねぇ」
「実際、レリーナは有能だったからな。今となっては辞められると困るな」
「辞めるつもりなんて毛頭ございません。このお屋敷が好きですし、モモ様もいらっしゃいますから」
レリーナさんの頬がぽっと赤らむ。不思議なことにこの美人さんは、何故か初対面からこの調子である。でも純粋な保護欲とか好意なんだと思う。でも、こんな熱烈ファンみたいな反応されちゃうと、思わずこっちも照れるね。桃子の頬もぽっと熱を持つ。
二人して照れ合う。自然とにこにこしちゃうね。五歳児が心の中でクルクル回転しながら踊ってる。レリーナさんを引き留められるなら、幼児に戻ちゃったのも残念なだけじゃなくなるね!
「レリーナさんが一緒なら心強いよ」
「嬉しいお言葉です。私が今日よりモモ様を命をかけてお守りします。普段はメイドでございますが、モモ様がお出かけの際は護衛としてお供します。ぜひ、遠慮なくお声をかけてくださいませ」
力強く宣誓して、レリーナさんが微笑んだ。こうして桃子に、美人な護衛さんが付くことになったのである。……バル様がお仕事に出かけたら、仲介屋さんのことを詳しく聞いてみよう!
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