51、キルマージ、冷笑を浮かべる
* * * * * *
「神殿内部でモモを手助けしてくれた者が居たようです。優しい顔立ちの青年で、年は団長より下だろうと」
「手助け? そんな証言はなかったぜ。モモの首飾りを取り上げて、質屋に売ったと吐いた子達と、モモに演技指導をしていた女性はいたけどな」
「演技指導?」
「聞けば笑うぜ。彼女は大神官にあの子を軍神に仕立てるように脅されたそうだ。それで、モモに軍神の振りをさせようとしていたらしい。馬鹿みたいな話だが、団長から古代神殿での出来事は王様に報告されているんだから、城への呼び出しを受けるのは必須だろ? その時に自分が本当に軍神ガデスを召喚したのだと本人を伴うことで成果を主張して、難を逃れようと画策していたみたいだ」
「……あの男を大神官にしたのは我が国の恥ですね」
「祖父が大神官だったことを笠にきて金で周囲を黙らせた男だ。もともと器じゃなかったのさ」
鼻で笑って食事を始めたカイに、キルマもスープに口をつける。シンプルな味付けが優しく感じるのは、疲れているせいだろうか。
「脅された立場ならば、彼女を罪には問えませんね。手を上げたりなどの暴力もなかったのでしょう?」
「モモからも話を聞かなければいけないけど、本人が言うには必死になり過ぎて時間を忘れて特訓はしたが、手を上げるようなことはなかったと言ってる」
「そうですか。神官達に観察眼がなかったことは救いでしたね。見る者が見れば彼女の目に年齢にない知性があることに気付いたはずですから」
モモが五歳児の振りをしていたのも功を奏したのかもしれないが、騎士団隊長クラスならば、おそらくほとんどの者が逆に何かしら違和感を覚えたはずだ。身体は小さいがその骨格から年齢が推定出来たように、話し方、目の動き、意識、ちょっとしたサインは全身から発される。害獣と対峙するには、勘の良さも必要なことだ。
「まぁ、彼女のことはいいとして、問題はモモを手助けした人間が名乗り出ないことだな」
「えぇ。その人が手助けをしたのは何か裏があるのかもしれません。もしくは名乗り出られない事情があるのか」
「まさかの恥ずかしがり屋説も上げとこうぜ。モモ本人に確認してもらうのが一番だが、あの怪我じゃ団長が許可しないかもな。内部に潜入していた団員なら何か見ているかもしれない」
「そちらは団長に相談します。それと私が尋問していた女性なんですが……はぁー、本当に疲れました」
思い出すだけで食欲が消滅しそうだ。キルマージはため息をついて、面白そうな顔で食事の手を止めたカイに聴取した内容を教えてやる。
「あの女性は中流貴族の方だそうで、居丈高に私におっしゃいました。バルクライ様を呼べと」
「はぁっ!? うっ」
カイが噴き出しかけて、咳き込んだ。変な気管に食べ物が入ったのか、激しく咳き込みながら肩を震わせている。笑っているのだ。キルマは冷笑を浮かべて続けた。
「私に、ルーガ騎士団副団長と言えども所詮は庶民。自分の方が身分は上なのだから、私こそが命令に従う義務があるはずだとおっしゃるのですよ」
「そ、それでどうしたんだ?」
「もちろん丁寧にお断りいたしましたよ? コソ泥に従う道理はないとね」
「さっすが、容赦ねぇな」
顔を真っ赤にして押し黙ったシュリンに、キルマージは言葉を重ねたのだ。貴方は状況を理解していないようだと。貴方は尋問を受ける側、私は尋問をする側。貴方がすべきことは私の質問に素直に答えることだけだと教えてやった。
「そうしたら、答える言葉が一つになりました。モモが悪いの一点張りでしてね。自分の行いを棚に上げて何を言っているのやら」
「副団長様に暴言を吐いてくれたわけだ。罪状一つ追加だな」
「えぇ。貴族は不祥事を嫌いますからね。家はもう彼女を見限るでしょう。一月ほど厳しい場所で苦役につかせるのはどうでしょう? 本人には期間を知らせずに」
「えげつないな……」
「それでも甘いくらいですよ? 初犯を慮り、砂漠の砂粒ほどの更生の可能生を考えたからです」
つまりは信じていないということだ。
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