少年の成長を描いた王道のジュブナイル

 郵便配達員が翼竜に乗る世界、その「空飛ぶ配達人」に憧れる少年の、とある冒険の日の物語。
 王道も王道、まさに直球のジュブナイルファンタジーです。空に恋焦がれ、竜と親交を深めていた少年が、ふとした事故をきっかけに、自ら竜を駆り空へと挑むことになるお話。ある種、童話や児童文学にも似たお話の筋の、その真っ直ぐでてらいのない描かれ方が非常に気持ちよく、読後にとても爽やかな満足感がありました。あまり人を選ばないタイプの面白さというか、「やっぱりこういうお話って無条件に良いよね」と思わせてくれる作品。
 中盤以降に訪れる危機、つまり冒険の場面が本当に魅力的でした。初めて挑む現実の空の、その思った以上の危険や厳しさ。本作は竜とそれに乗る人の姿を描いたファンタジーなのですけれど、その目的はあくまで手紙や物資の輸送で、例えばなにがしかの敵と戦うようなこと(いわゆる戦闘シーン)はありません。にもかかわらず、それは十分に危険で、なによりしっかり冒険として成り立っている(そう描かれている)こと。
 つまり、「敵になるような悪者がいない」という設定、この物語世界の優しさ自体も好きなのですけれど。それ以上にこの「物語上の乗り越えるべき苦難」が、あくまで大人たちの生きる日常の、その生業そのものであることがとても好きです。空を飛ぶのは本当に危なくて、でも誰かがやらなくてはいけない大切なお仕事であるという、「子供の立場では見えなかったこと」をたまたま経験して知る、この感じ。空を飛ぶ、というファンタジーらしい絵面でありながら、現実にも通じる普遍的な冒険を描いているような、この手触りが本当に素敵でした。
 初めて大人の世界に触れる瞬間としての、〝冒険〟の感覚。空想の楽しみを描きながら、同時に冒険と成長というものについてとても真摯なメッセージを投げかけてくれる、爽やかで真っ直ぐな物語でした。拓けていく未来を感じさせる終わり方も好きです。