三百三十一話 クリア6

「ペルー!!」



かつて修道女になるという

夢を持っていた少女と、足を怪我して

家族と離ればなれになってしまった

一羽の鳥が、海の潮風が吹き込む

ヤナハの海岸付近に建てられた

修道院で再会した。



「ピィピィ!!」



五年前よりも一段と大きく成長した

ペルーは嬉しそうに鳴き始める。



「また今年も来てくれたのね。」



実を言うと、メグとペルーが再会した

のはこれが初めてではない。

まだメグが修道女になる前の

三年前にもメグとペルーは

再会していた。

それからというもの、ペルーは

一年に一度メグに会いに来るように

なったのだ。



「ピヨピヨ」



「ピュルピュルル」



ペルーによく似た、鳴き方が下手な

二羽の子供達を連れて。



「ペルーの子供達も随分大きくなった

わね。」



メグはそう言って優しく二羽のペルーの

子供達を撫でる。



「ピィ......」



すると、メグはペルーが何かを

見詰めているのに気がついた。

その視線を追ってみると、たどり着いた

のは自分が首にかけていたキラキラ輝く

石だった。



「ああ......これね。私、今でも

これつけてるんだ。」



それは隼人から貰ったお守りでも

あった。



「捨てられないの......パパやママ、

そしてペルーが私の前にこうやって

帰ってきてくれた。それは

きっと隼人のお陰なんでしょ?

でも、お姉ちゃんや......何より

隼人が帰ってきてくれなかった。」



「ピィ......」



今のペルーの悲しそうな顔を

見れば、もう隼人が自分の前には

現れないであろうことなどメグには

わかっていた。

そんなこと、三年前にペルーと

再会した時にペルーの表情を見て、

何となく察した。



「ペルーは知ってた?

ペルーの乗ったあの船の中に

異世界から来た人がいたんだって。」



更に、鬼灯が皆に魔王をどのように

倒したのかを報告したことによって、

タチアナの正体と魔王討伐軍の中に

転生者が一人いたという事実が

下の大陸中に広まった。

勿論、メグもそのことは耳にして

いたし、もしかして、とも思っていた。



ペルーは悲しげな表情を浮かべる

メグの頬に自分の頬を擦り付けて

励ました。



「ふふっ、大丈夫だよ。

わかってる。ペルーの言いたいこと。

もう私は五年前の私じゃないし、

守らなきゃいけない子供達がいる。

うじうじなんてしてられない。

ペルーと同じでね?」



「ピィ!!」



そうだ! よく言った!



メグはペルーにそう言われたような

気がした。



すると、ペルーは二羽の子供達に

視線を送り、羽をばたつかせ始めた。



「そろそろ行くの?」



メグは少し寂しげに言った。



「ピィ」



だが、ペルーにもこの子供達を自分の

ふるさとに連れていく必要がある。

ここに長いしている暇はない。

そんなことはメグもわかっていた。



「そう。また来年も会いに来てね?」



「ピィ!!」



だから、彼女は無理にでも笑顔を作って

羽ばたく三羽の鳥を見送った。



「先生!」



と、その時後ろから少年の声がした。



「先生! お昼ご飯まだ?」



後ろを振り向けば、眩しい程の

笑顔でこちらに駆け寄ってくる、

親を失った子供たちがいた。



自分も悲しみに暮れている暇なんて

ない。



前に進むしかないのだ。



たとえ、姉や自分の夢を応援して

くれた彼がもう二度と私の前に

現れなくとも、私にはもう立ち止まる

ことなんて許されない。

だって、今私の目の前には

自分を必要としてくれる

子供達がこんなにもいるのだから......



......そうだよね? 隼人。






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