三百十話 光10

その後、バーゼンはその謎の少女を

下の大陸へと連れ帰った。

まず最初にその少女がバーゼンの

姉と共に船に乗った職業者かを

調べるため、成分調査が行われたが

謎の少女と一致する者はいなかった。

そこで、政府は正体不明の謎の

少女のことを、国民の混乱も

避けるためとりあえずは秘密とした。

しかし、そうなってくると

身寄りも無い謎の少女を

誰かが保護しなければいけなくなる。

そんな正体不明の不気味な奴は

城の地下牢にでもぶちこんでおけと

言う政府の役人が一部いたが、

それを聞いたバーゼンが真っ先に

自分が謎の少女を保護すると名乗り

出た。

政府はあまり事を大きくしない為にも

謎の少女を連れ帰った本人である

バーゼンに保護を頼むべきかと判断し、

政府は謎の少女をバーゼンに

預けたのだった。




【ルーベルト家の屋敷】



「まあまあまあまあ!!!

いらっしゃい!」



「おお!!! よく来た!」



言葉も話せず、自分の記憶すらない

謎の少女をバーゼンの母と父は温かく

迎え入れてくれた。

元々心優しい両親だったが、

ここ最近は自分の娘を亡くして

笑うことすらなかった。


そんな両親のぽっかりと空いた穴を

謎の少女が新たに家族に加わることに

よって埋めることができたのだろう。



「ここが貴方の新しい家よ!」



「......ぅ......ぁ......」



バーゼンの母に激しく抱き締められた

謎の少女は、何か音を発しながら困惑

していた。








それから、直ぐにバーゼンは謎の少女の

正体を明らかにするため、はじめに

コミュニケーションが取れるかどうかを

確かめてみた。



「俺の名前はバーゼンなのだよ。

お前は?」



「......」



謎の少女はただじーっとこちらを

見つめてくるだけだった。



「どこから来たんだ?」



「......」



反応は変わらない。



「やはり、言葉はわからないか......

だが、呼び名が無いのも可哀想だ。

お前に名前をやるのだよ。

そうだな......」



バーゼンは綺麗な花の名前にでもしよう

かと、乱雑に置かれた本の山に手を

突っ込んだ。

が、バーゼンが取り出したのは

図鑑ではなく、姉が好きだった

とある物語の本だった。



「そういえば......姉に返すのを

忘れていたのだよ......」



だが、もうその姉はいない。

そう思うと心に空いた穴が余計に

広がってしまいそうな気がして、

その気持ちを消すかのように

本を開いた。



随分昔に読んだ本だが、

ペラペラと目を通すだけで

ある程度の内容を思い出せた

バーゼンははっととあるページを

開く。



「あった......これがいい......」



バーゼンは本を閉じて机に置くと、

謎の少女の方を向く。



「聞いてくれ。お前の名前が決まった

のだよ。今日からお前の名前は

タチアナだ。

とある物語の、光という意味を

込められて名付けられた主人公と同じ

名前なのだよ。」

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